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王様の奴隷  作者: ぷー介さん
28/42

言葉には責任がついてまわります。

クーデターから数日が経過したある日。

コンラッドは夜、自分の屋敷の書斎で荷物を整理していた。


あと数日中には王宮に引っ越しをするためだ。だが、それはコンラッドの心を重くするだけだった。

自分が招いた事態ではあり、これからはもっと忙しくなるだろう。

しかし、コンラッドの心を重くしている事はそれだけではない。


地下牢に繋がれたエレノア王女を明日、ドルッシオ監獄へ移送させるのだ。

ドルッシオ監獄は多く政治犯や戦犯達が多く収容されており、そしてエレノアもそこへ収容される予定だ。


彼女は現在、再び王宮の地下牢に投獄されているが、食事をほとんどとっていないという。

そして心無い者達からは『ドルッシオ監獄に着くのか先か、死ぬのが先か』と賭けの対象とものなっていると噂を聞いていた。


コンラッドは出来るだけエレノアの事を考えないようにしていた。

彼女は自分の初恋の相手だった事に、コンラッドは気が付いていた。しかし、コンラッドは王になった。正式には戴冠式を終えていないので、まだなっていないが、既に王として対応しなければならない事は多々ある。


王だからこそ、特別扱いは出来ない。

謁見の間では、コンラッドの頭に血が上ってしまい、冷静な判断は困難だった。しかし、今思うと、彼女を家族と同じ場所へ送ってやった方が、彼女のために良かったのではないかと後悔している。


彼女がこれから送られる場所は監獄という名ではあるが、獄内は無法地帯だと聞く。

ドルッシオ監獄は首都サルマンから馬車で4日の距離である。ルドラ王国の北部に位置しており常に雪が大地を覆っている寒冷地域だ。また、設備等環境は劣悪で有名であり、そこへ収監された者達は一週間もたたない間に自らを殺めるか、精神異常をきたしてしまい、二度と外の世界には戻れないと噂されている。

15歳の少女にとってその場所は筆舌し難い場所だろう。もちろん女の収監に前例はない。恐らく、嬲り殺しに遭うだろう予想は容易に出来る。

しかし、コンラッドは王として発言を撤回するわけにはいかない。


このまま、彼女を地獄よりも酷い場所へただ見送る事しか出来ない。


コンラッドは溜息を吐いた。




コンコンコン────


ノックと共に、従者であるハンクが入室してきた。

「コンラッド様、お忙しいところ失礼いたします。アーシェ様がお見えですが如何いたしますか?」


コンラッドは再び溜息を吐いた。いつかは彼とも話さなければならないと思っていた。

「すぐ、ここに通してくれ。」


コンラッドは、書斎に案内するようにハンクに伝えた。




程なくしてアーシェは連れてこられると、コンラッドの書斎のソファに腰掛けた。



沈黙が続いている。

コンラッドはアーシェと向かいのソファに座り、口を開こうとしたが、なかなか紡ぎだす言葉が見つからず、何度もお茶を口にしては口を閉じるといった繰り返しである。

何度目だろうコンラッドが口を開こうとすると、先にアーシェが口を開いた。


「悪かったな」


アーシェから予想外の言葉がコンラッドを唖然とさせ、なかなか開かなかったコンラッドの口は、今や大きく開いている。

コンラッドは理解が出来ない謝罪の言葉に対し動揺し、アーシェの言葉への返答が見つからず目を白黒するばかりだ。



「お前に友殺しをさせてしまった。友人としてこの事態を止める事は出来なかったのだろうかと何度も後悔している。だからそこ、お前にも伝えなければと思って…」



そして、アーシェはポツリポツリと話し始めた。


アーシェが言うには、ジョーイはこの国が暴走のレールに乗ってしまった事を自覚していた。しかしそれを止められないと嘆いていたらしい。

締め付ける法令に対し、甘くすることは容易だが、それでは本来の法令が意味を失う。特例を出してしまっては民意を失う。ジョーイは悩んでいた。しかし、徐々にジョーイは自分を追い込むように殻に閉じこもると誰の意見も聞かなくなってしまった。そしてアーシェも最初は相談に乗っていたものの、徐々に心を閉ざし始めたジョーイとは会う度に言い合いの喧嘩となり、疎遠になってしまった、との事だ。


コンラッドは項垂れた。

ジョーイは悩んでいたのだ。もし自分が手を差し伸べていたら何か変わっていたかもしれない。


「俺は自分の事ばかりで、ジョーイの苦しみを何も知らなかったんだな…。」


コンラッドは呟いた。

「いや、ジョーイはコンラッドだから相談しなかったんだろうよ。」

「え?」

アーシェの言葉にコンラッドは顔を上げ、アーシェの顔を見つめた。どういう事だろうかと。


「ジョーイはいつもは優しいだけの男だと思われがちだが、あいつだって頑固な部分があったよ。そんな部分もあいつの良いところだったが、今回はそれが仇になった。

俺はただの宰相の息子だから、あいつも俺には偶に弱音だって吐いた。しかしお前は違う。お前は言うなれば敵対する王族の息子だ。いまや頭首だ。あいつは王族として弱味を見せられなかったんだろうよ。」


「親友だと思っていたんだけどな…」

「親友だからこそ、言えない事があるんだろう。あいつがお前に弱音を吐いたら、家を巻き込む可能性だってあった。そんな事お前だってわかってるだろう。だからこそお前には言わなかった、いや言えなかったんだろうよ。」


そこまで言うと、アーシェはお茶を口に含んだ。

コンラッドはアーシェの言葉を聞いて目頭が熱くなった。

俺はなんて子供だったのだろう。民の為になるならと我武者羅に走った。しかし、一番近くにいた親友の苦悩などまったく考えていなかったのだと。


ジョーイを殺める時、彼は安堵の表情を浮かべていた。苦悩から解放された表情だったのか。


その意味が漸く今わかった。


コンラッドは彼が生きていた時に戻りたいと願ったが、事態を招いた自分がそのような事を願うなど、なんて愚かなのかと絶望し俯き黙り込んだ。


「そう自分を責めるな」

アーシェは静かに言った。

「あいつも、相手がコンラッドだから死へは納得していると思う。」

「それはどういう意味だ?」


アーシェは持っていたカップをソーサーに戻すと、手を組み思い出すように目を細めて話し始めた。




─────

クーデターの前日、屋敷でアーシェはある人物と会っていた。


アーシェが書類を片付けていると、窓から叩く音が聞こえてきた。警戒したアーシェは手元にあったサーベルを握り窓を勢いよく開けると、そこは2階にもかかわらず、フードを目深に被ったジョーイが植樹からアーシェの部屋のバルコニーに伝い降りて来た。


「お前!何でこんなところに!?」


アーシェが叫びそうになる所を、ジョーイは口に指を当て、静かにのポーズをしたことで、アーシェは慌てて口をつぐみ、窓を開けジョーイを部屋に招き入れた。



「おい、いくら俺達の仲っつっても、次期国王陛下様がこんな夜更けに一人で共も連れずに出歩くなよ」

アーシェは窓を閉め、呆れながらジョーイを振り返ったが、黄土色の質素な外套をまとったジョーイのただ事ではない様子に、アーシェは表情を引き締めジョーイからの言葉を待った。


「今日は頼み事があってきた。アーシェにしか頼めない事だ。」

「なんだ?」



ジョーイからの突然の申し出にアーシェは眉間にしわを寄せた。


「エレノアを王宮から連れ出して欲しい。」

「はっ!?言ってる意味が分かんないんだけど!!」

ジョーイの言葉にアーシェが思わず声が大きくなったので、ジョーイは人差し指を唇に当て『静かに』の仕草をした。


「ほとぼりが冷めたらエレノア様は解放されるという訳ではないのか?」


アーシェは小声になりながらジョーイに尋ねたが、ジョーイは首を横に振った。


「この国は、暴走した馬と一緒だ。自らの力ではもう止まれない。」


エレノアの投獄もあり、確かに今は普通の状態ではないと言える。アーシェはジョーイの言葉の続きを待った。


「きっと近いうちにこの国は内乱に揺れるだろう。ただ、私はこの国の王に就くつもりはない。というよりも就くことは無いと思う。」

ジョーイの言葉にアーシェは混乱していた。王位に就かないとはどういう事か。


「私も各地でクーデターが起こるであろう噂は聞いてる。そしてその噂は真実味を帯びていることも知ってる。だが、我々王族はもう止まる事が出来ない。だからこの時代の流れに身を置くことに何も後悔はない。」

「そんなっ…!」

ジョーイの悟りきった表情にアーシェは危機感を感じ、すぐ反論をしようとしたが、ジョーイは右手をアーシェの顔の前に出し、次の発言を制した。


「私、父、そしてパトリックはきっと王位継承者として処刑されるだろう。しかし、エレノアだけは違う。彼女は今の王政の暴走を止めようと何度も試みた。そして投獄された。政治犯としてね。しかも、今だって抵抗の意だろう、三日間飲まず食わずで抵抗している。」

「エ…エレノア様は無事なのか!?」


ジョーイの言葉を聞いてアーシェは蒼ざめた。

人間は三日間飲まず食わずとして生きる事は困難である。しかも、屈強な戦士であればまだ希望が持てるかもしれないが、彼女はか弱い女性である。いつ倒れてしまうか分からない。



「わからない。だがそろそろ限界だと思う…。」

ジョーイの辛そうな表情につられ、アーシェは悲壮感を漂わせた。

あんなに溌剌し快活だった彼女は、今は暗い牢屋の中で一人抵抗しようとしている。

自分は諦めてしまった事と彼女は今も闘っているのだ。

アーシェはエレノアに思いを馳せた。


「今日、エレノアには勘当し王族という身分を剥奪すると伝えた。」

「は!?どういう事だ?!」

ジョーイの言葉にアーシェは、これ以上エレノアを追い詰めるのかと怒り、ジョーイの胸倉を掴んだ。しかし、ジョーイは抵抗しなかった。

エレノアは民を想い、父である王から疎まれようとも助言した。しかし、逆に投獄され兄からは勘当された。彼女は今どれ程の絶望の中、牢屋で一人耐えているのだろうか。

エレノアの気持ちを考えると、ジョーイの言葉に冷静でいられず怒りで震えが止まらない。


「だから…君にしか頼めない事なんだ。頼む、エレノアを…彼女を匿って欲しい」

「あ?」


突然のジョーイの言葉にアーシェは怒りを忘れ、さぞかし馬鹿面になっていただろう。

しかしジョーイは胸倉を掴まれたまま、アーシェをしっかりと見据えている。


「我々はきっと遅かれ早かれ破滅の道に乗る。しかし、エレノアは違う。彼女は今でも平等で正しい。だから敢えて勘当した。彼女を巻き込まない為にも。彼女には王族を名乗る事を許さないと釘を刺している。」


「言っている意味が分からないんだが?もし、お前たちが処刑でもされようものならあいつはいつでも飛び出していくぞ?!」

「だから、王宮から出すだけで良い。少しでもエレノアを遠くに連れて行ってくれ。君なら出来るよね、グラノフ公爵嫡男アーシェ、君なら」



宰相の息子という立場を使えば、少女一人隠すことは造作もないはず。

ジョーイは胸倉を掴まれながらも首を垂れた。決心したジョーイの瞳に、アーシェは従う以外他になかった。そしてそれはエレノアの為にも。

アーシェはジョーイから腕を外した。

「わかった、明日朝一でどうにか秘密裏に連れ出そう。」

「ありがとう、恩に着るよ。君には辛い立場を押し付ける事になる。」

「あ、あぁ。」


確かにエレノアを秘密裏に匿う事は今後の情勢を考えると危険が伴うだろう。アーシェは神妙な面持ちとなった。


「アーシェは、ここ最近聞く地方でのクーデターの噂、どこまで知ってる?」

ジョーイの質問にアーシェは答えられず肩を竦めた。その反応を見てジョーイは言葉を続けた。

「私だって馬鹿じゃない。裏で各地の噂の出所を調べさせていた。そして判明したことだが、各地バラバラにクーデターを起こそうとしているわけでは無いらしい。そして、クーデターの中心的人物はハーシェル家である、ということ。そして、党首自ら動いていると。」

ジョーイの言葉を聞いて、アーシェは目を見開き息を飲んだ。

ジョーイは今にも泣きそうに微笑んでいた。その姿を見てアーシェは静かに首を横に振った。コンラッドからは何も聞いていないと。


「他の人だったら、私も抵抗すると思う。だが、相手がコンラッドなら。私は喜んで彼に斬られようと思う。」

「なっ!!」


ジョーイは静かに微笑んだ。

「彼は私なんかよりずっと素晴らしい為政者になると思う。それに、彼なら、私を斬った事を一生後悔としてくれるだろう。それは、ずっと彼の中に私が留まり続けるという意味だ。それが罪悪感となってきっと彼は理想的な統治者になれるだろ。私は彼を恨むことは無い。」


「そんな事考えるな!!前みたいに戻る事は出来ないのか!?」

アーシェはジョーイの肩を抱き、必死に思い留まらせようとしたが、今度はジョーイが静かに首を横に振った。

「事態は良くも悪くも動き出した。もう、元の位置に戻る事は出来ない。」

アーシェは脱力し、近くの椅子に座った。

歴史はうねり声をあげ動き始めている。


ジョーイは呆然とするアーシェの肩を叩き、入ってきた窓から出ようと、ノブに手を掛けた。

そしてふと、思い出したように振り返った。


「一つ、不安な事がある。」

「なんだ?」

ジョーイの言葉にアーシェは身構えた。


「万が一、アーシェが私の弟になったら私は君を張り倒すかもしれない。」

「……どどどどどういう意味だよ?!」


ジョーイはアーシェが顔を真っ赤にして動揺した姿を見て、いたずらっぽく微笑むと「それじゃ」と言って闇に消えていった。

その姿は、昔ジョーイ、コンラッド、アーシェの3人で笑いあっていた時の笑顔だった。


しかし、次の日クーデターは起こり、アーシェがエレノアを連れ出すその前に彼女は連行され、最悪の状況となった。



──────


アーシェはあの晩の事を一通り話し終えると、お茶を一口含んだ。


ジョーイがコンラッドに斬られる事を覚悟していたと。

コンラッドはアーシェの話を信じられないといった面持ちで、考え込んだ。もし、アーシェの話が本当なら、ジョーイはどれ程までに追い込まれていたのだろう。あの時、もっと彼と話をしておけば良かった。

コンラッドは後悔の念に駈られた。


そのコンラッドの様子を伺うように、アーシェは本題を切り出した。




「苦しんでいるコンラッドにこんな事を頼むのは、申し訳ないが、どうか助けて欲しい。コンラッドだけが頼りなんだ。どうか、エレノアを助け出す事に協力してくれないか?」


アーシェは絞り出すように、言葉を紡ぎコンラッドに対し頭を下げた。


コンラッドは話の流れから、アーシェの訪問の理由を予想していたが、やはり、面と向かって言われると、動揺を隠せなかった。


自分がエレノア王女の投獄を指示したのに、証拠も無しに自ら取消す事は出来ない。しかし、アーシェの話が本当なら、エレノア王女を投獄するべきではなかった。そして、アーシェの話を信じたい自分がいる。

解決策は見つからない。


コンラッドは頭を抱え、その姿をアーシェは無言で見守った。

エレノアは明日護送される。時間はない。コンラッドは焦った。









コンラッドが考え始めてからどれくらい時間が経っただろうか。


コンラッドは一つ息を吐き、顔をあげた。

そして、アーシェの顔を見つめ結論を告げた。




「やはり、エレノア王女には死んでもらう。」




──────


エレノアはどこに視線を合わせるわけでもなく、宙を見つめていた。


食欲は無く、まともに食べたのは、あの時ジョーイから贈られたミネストローネスープだけだった。

空腹感がエレノアを襲う。しかし、エレノアは抵抗の意ではなく、本当に食欲が無かった。そして生きる事から降りようとしていた。


明日、自分はドルッシオ監獄へ送られる。

ドルッシオ監獄は噂で恐ろしい場所だと聞いたことがある。噂の内容を思い出し、エレノアは身震いした。しかし、手枷と足枷を付けられているエレノアは逃げる事も、自ら命を絶つことも出来ない。

このまま家族のいるあの世に行けないだろうかと考えていた。しかし、同時にエレノアは自分の罪を償う為にも、生きなければならないと理解していた。

だが、これから自分の身に迫る恐怖は拭い去る事が出来ず、眠れない夜を過ごした。

小説を書いてみて、アーシェは動きやすくて、思った通りに動いてくれる良い子です。

逆にエレノアはお転婆で、すぐに思い通りにならなくなります。

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