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王様の奴隷  作者: ぷー介さん
29/42

護送

朝、エレノアは開けられた扉から漏れ出る光に目を細めた。


ついに出発の時。

エレノアは地下牢から出ると、兵士に囲まれながら手と足の枷を付けたまま、護送用の馬車まで俯きながら歩かされた。

恐怖で身体の震えは止まらない。

馬車に乗る直前、立ち止まると後ろについていた兵士に槍で進むように促される。

それでも、王女として育ってきた15年間、ずっと守られてきたのだと実感したエレノアは、自分が去る王宮を最後に振り返った。


二度とこの地には戻っては来れまい。

一筋の涙がエレノアの頬を伝った。しかし、エレノアが感慨にふける前に、視界を闇に覆われた。

ざらざらとした麻袋を頭から被らされ、視界を奪われたのだ。

これは、犯罪者に対し、逃走する気を起こさせないため、そして監獄への経路を覚えられ戻ってこられないようにするためとも言われている。


だが、どちらもエレノアには必要が無かった。

少女には逃走する力も、帰る場所も既に無かった。

兵士がエレノアの背中を押し、エレノアは馬車に乗った。これから待つのは死よりも恐ろしい場所。



馬車の扉が閉まる音がすると、馬車はカタンと音を立て走りだした。誰もエレノアを見送る者などいない。

エレノアはガタガタと動き出す馬車の中で麻袋の中で目を閉じ国民への仕打ちを懺悔した。


もっと、父や兄と話すことは出来たのではないだろうか。

そうすれば、ガルカンのように命を落とす者達はいなかった筈だ。

全ては己の無力が招いた事なのではないか。


父や兄ときちんと話せなかった頃から、既に私に生きる資格など、とうに無くなっていたのだな。

エレノアは自嘲した。






何度かの休憩でエレノアは麻袋を脱がされ、無理矢理上を向かされると水筒から口に水を流された。

枷により手は動かせない。エレノアはそれまで死ぬことを望んでいたが、無理矢理口に水を入れられた事で、喉の渇きに気づかされ、生きたいという本能に抗えず、咽ながら必死に水筒から流される水を口から溢しながらなんとか飲みこんでいた。


美しい令嬢が与えられる水筒から水を必死に飲む姿を、周りの兵士達はエレノアに良からぬ感情を抱き下衆な笑みを浮かべながら見ていた。

しかし、エレノアは水を飲み干す事に必死で、周りからの視線に気づいていなかった。




馬車は何時間走ったのだろう。

エレノアが耳を澄ますと、パチパチと焚火の音がする。

恐らく、ここを寝床にするのだろう兵士達の声が聞こえていた。

やっと夜になったのだと、エレノアは思った。一日ずっと麻袋に覆われた世界。唯一視界が開けるのは、時々目の前に出される水筒の時間だけだ。


一日中揺れる馬車の中にいたエレノアは、昨晩眠れなかったこともあり、止まった馬車の中で緊張が解けたのか、うつらうつら眠り始めた。









「ねぇ晃一。」

「んー?」


ここは…。


私は晃一の部屋のソファに座りタブレットで次の休みの旅行について調べていた。

そして晃一はそんな私の膝枕で横になりながらテレビを見ている。

「ここの宿は部屋に露天風呂ついてるんだって!どうする?ここにする?あ、でもこっちの宿だと貸切温泉があるみたい。迷うなぁ」

「インターと岩に近い方が良いかなぁ。どっちの宿の方が車で行きやすそう?」

晃一は起き上がり私のタブレットを覗き込んだ。私がタブレットを持ったまま晃一は身体を寄せ画面をスワイプし宿の地図を確認している。有名な岩で二人の共通の趣味であるボルダリングをする予定だ。

「こっちの、露天風呂がある宿の方が岩に近そうだし、食事も評価良いね。」

「じゃあこのまま予約しちゃって良いかな?」

私は、晃一が示した宿の予約を入力した。ふと、画面から視線を離すと晃一の顔がすぐ側にある。

私は晃一と目が合うと、どちらからともなくキスをする。

甘く幸せな時間。







ガチャッ

馬車の扉を開ける音でエレノアは眠りから覚めた。

晃一との過ごした頃の夢を見ていた。幸せだった時間。だが、夢から覚め現実を受け入れたエレノアは落胆した。


扉が開いたが、朝にでもなったのか?

エレノアは状況が分からず、表情は硬くなる。


突然エレノアは乱暴に麻袋を脱がされ、外がまだ闇に包まれているのだと理解した。

しかし、僅かな松明の光で馬車に数人の兵士が入ってきた状況にエレノアは顔が強張った。



「そんなに怯えんなよ。どうせこれから行く場所で何度もヤられんだ。その前に俺達が紳士的にアンタの身体に悦びを教えてやるってんだ。ありがたいだろ?」

エレノアの目の前の兵士や、後ろにたっていた兵士は下品な嗤いを浮かべている。

兵士とはいえ、破落戸に毛が生えた程度の下っぱだ。教育なんてろくにされていないのだろうか。


兵士はエレノアを腕を取った。

エレノアは顔から血の気が引き、手を振り払おうとした。

「イヤッ!!」


エレノアは悲鳴をあげ抵抗するが、馬車が停まっているのは深い森の中。エレノアの叫びは誰にも届かない。

それでもエレノアは悲鳴を上げ助けを求めた。

「やだっ!やめて!!お願い!助けてっ!!」

パシンッ!!!


突然、エレノアは頬に鋭い痛みを感じた。

襲ってきた男がエレノアの頬を叩いた音だった。


「うるせぇ黙れ!!お前みたいなクソ女が城でのうのうと遊んでる間、俺達はてめぇのオヤジに脅えてたんだ!家族が殺された奴だっている!これは復讐なんだ!!」



エレノアの心臓に男の言葉が突き刺さった。


私が無責任だったことで国民に酷い仕打ちをしてきた。

私は国民にとって悪であり、復讐の対象なのだ。

これは報いなのだ。


エレノアは涙を流しながらも抵抗する事をやめた。それに気を良くした男達がどんどんエレノアが着ていた服を破き肌が露になる。

男達の手がエレノアの決め細やかな肌を不快に這い寄る。



キモチワルイ


エレノアは目を瞑り、唇を血が出るのも構わず噛み締め、これは自分への戒めだと、涙を溢しながら必死に耐えていた。


ふと、エレノアの脳裏にコリンが過ったが、彼は既にエレノアを憎む存在だと、この世界にエレノアの味方はいないと考えに至った。


エレノアは生きる事を諦めようとした瞬間だった。



「ぐぇぇっ!!」

「なんだお前!!!」


急に馬車の外が騒がしくなった。

エレノアを襲っていた男達も外の異変に気がつき、慌てている。

騒ぎは鎮まるどころか、一層激しくなり、何者かが馬車に乗り込んできたかと思うと、男達を剣で薙ぎ倒しエレノアのもとへ駆け寄ってきた。


駆け寄ってきた人物は黒い服装で黒い仮面を被り、誰なのかわからない。だが、仮面から覗く菫色の瞳にエレノアは驚愕し目を見開いた。


そして、エレノアは仮面の人物に抱き抱えられると、そのまま意識を手放した。



仮面の人物がエレノアを抱き上げ馬車から出ると、もう一人の黒い仮面の人物が外で待っていた。二人は顔を見合せ声を出さず頷くと、馬車に火を放った。


炎はすぐに燃え広がり薙ぎ倒された兵士達をも飲み込んでいった。






─────

「んん…」


エレノアは身動ぎ、目を覚ますと、知らない天井が目の前に広がっていた。


はっとして、起き上がると、質素な造りの山小屋のような所だったが、ベッドと布団は清潔な様子でエレノアはそのベッドに寝かされていた。


エレノアは状況整理が出来ず、目を白黒していたが、男達の手が記憶と一緒にエレノアの身体にこびりついている気がして、粟立った身体中を擦った。


その時、ギイッと音がし、音の方向を振り向くと、アーシェが扉を開け水桶を持ってきたところだった。


「アーシェ…様?」

「起きたか。どう?身体で痛い所はある?」

「え、えぇ。大丈夫です。」


駆け寄ってきたアーシェにエレノアはなぜここにアーシェがいるのかわからなかった。


私は馬車で護送されていたはず。なのに、なぜアーシェ様がここに?

それにあの時助けてくれた人はあの人なのか…。

落胆の気持ちが混ざりながらも、あの状況から助けて貰った事にエレノアは感謝した。

しかし、冷静になりまたエレノアは暗い影を表情に落とした。


「次の馬車で、私はまた護送されるのですね。」

きっと、次の馬車なら襲われる事は無いだろう。しかし、目的の場所に着いたら最後、エレノアに地獄が待っている。


「その事なんだけどっ!!」

アーシェが説明をしようとした瞬間、もう一人の人物が部屋に入ってきた。

「話せる状態になったか」


エレノアはその声を聞いてドキリとした。

エレノアが会いたくて会いたくなかった人。

コンラッドはエレノアを見据えていた。

新しい靴を予約しました。

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