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王様の奴隷  作者: ぷー介さん
18/42

約束

エレノアは14歳になった。2か月後には15歳になり成人の儀を控えている。

しかし、今はいつもの丘でボーっと空を眺めていた。

15歳になったら、きっとここの丘にも気安く来れなくなるだろう。それどころか、すぐに結婚して隣のイリヤ国に入らなければならない。


「はぁ…」

「どうした?」


エレノアの溜息に、コリンが眩しそうに反応した。それもそのはず、コリンは馴染みの場所となっているエレノアの膝枕から、エレノアを見上げていた。


「いや、成人の儀が終わったら、予定がてんこ盛りだなと思って…」

「会えなくなるのか?」

「分からないけど、多分…」


エレノアは嫁ぐことを想い、目を伏せた。


「そんなの許さない。」


すると、コリンは寝ながらエレノアの腰を抱き締めた。

そんなコリンの髪をエレノアは愛しそうに手櫛ですいている。そして、コリンはその感触を擽っそうに、だが気持ち良さそうに頭をエレノアに寄せた。


恋人のような関係。

だが、お互いに身分を偽っていることは薄々気がついていた。

エレノアに至っては、性別まで偽っている。

だからこそ、お互いを詮索することはしなかった。もし、正体が分かってしまったら、二人の関係はそこで終わってしまう。

二人は今のままの関係が続くことを切に願った。

しかし、二人とも、このままではいられないことも知っていた。





今、ルドラ王国の法の厳罰化はエスカレートし、厳しい現実に直面している。


飢えて窃盗を行えば処刑。


病気や怪我で労役を断れば一族処刑。


村からの税金を不作により納められなければ村は焼き討ち。




『法の暴走』を誰も止めることが出来ない。


エレノアはまだ未成年であり、来月の成人の儀を迎えるまではエレノアに発言権などない。


最初は王はただ、ごまかしの無い国を目指していた。




しかし、法案は段々とエスカレートし、厳格化された。

エレノアは常に市井に敏感であろうとした。少しでも、この厳格化された国を変えられないかと、必死になっていた。



「エル、あのさ…」

「ん?」

考え事で上の空だったエレノアに対し、コリンは思い詰めたような表情だった。

おもむろに、コリンは起き上がると、エレノアの肩に手を置いて深呼吸をした。

「1ヶ月の今日、またここで会えないか?伝えたいことがあるんだ。」


コリンの表情と言葉にエレノアは目を見開いた。

今まで、二人は次回に会う約束などしてこなかった。それなのに、今回は初めて、次に会う約束をした。

「わかった。1ヶ月後だね。」


エレノアは最初は驚いたものの、すぐに笑顔になり嬉しそうに約束を承諾した。その答えをコリンはしっかりと受け止めると、安心したようにゴロリともう一度横になった。


「そういえば、今日ダントさんが南方の警備から戻ってきたらしい。会いに行く?」

「そうなの!?是非!」

エレノアは、コリンの提案にすぐさま同意した。






─────

エレノアとコリンはダウンタウンの入り口にある駐在所に来ていた。

ダントが南方警備へ派遣されてから数年ぶりの再会となる。


「コリンは成長したなぁ。もうそろそろ20歳かぁ。エルは…まぁ、頑張れ」

ダントはコリンとエレノアを見比べて嬉しそうに二人の肩をバシバシ叩いた。

女性としては平均だが、同じ年齢の男性と比べると小柄な為、エレノアを男だと思っているダントはエレノアを慰めた。



「ダントさんも見ない間に随分老けましたね」

「なっ!!」


コリンの容赦ない感想にダントはショックを隠しきれないでいた。しかし、確かに年齢以上に白髪や皺が多いとエレノアも感じていた。どちらかと言えば、老けたというよりは、窶れた印象であった。

「やはり、南方はこちらよりも厳しい状態なんですか?」

エレノアはダントに聞いてみた。

「あぁ、あちらは厳しいなんてものじゃない。住民のほとんどが国の政策に不満を持っている。俺達騎士団は王の飼い犬って石を投げられるんだ。」

予想以上の状況の悪化にエレノアはなにも言えなかった。

父親と兄の目を一刻も早く覚まさなければ大変なことになる。

エレノアは唇を噛みしめた。

その時、コリンが何か考え事をしている事に誰も気づかなかった。




その後、ダントから南方の土産話を聞いた。特産品や名所等、エレノアはどれも興味深いものだった。

しかし、楽しい時間は経つのが早く、既に夕方に差し掛かり、夕方を告げる教会の鐘が鳴り響いていた。


「ダントさん、そろそろ僕は帰りますね。」

「お、もうそんな時間か。」

エレノアが立ち上がると、コリンも立ち上がった。

「それじゃあ、また。ダントさんも頑張って下さい。」

エレノアとコリンは一礼すると駐在所を後にした。


コリンは、以前働いていた居酒屋に挨拶に寄るといっていたので、エレノアは居酒屋前までコリンと一緒に歩き、そこから別れた。


エレノアは暫く歩き、ダウンタウンへとの入り口で足を止めた。

この場所でコリンと出会い、約7年が経った。

最初は友人として彼の側にいたが、いつの間にか、彼は友人以上の存在になっていた。

エレノアが15歳になったら封印しなければならない感情が、エレノアの心臓を掴む。



エレノアが目を伏せ、歩き出そうとした瞬間、突然、何者かによってエレノアは口を塞がれ羽交い締めにされた。


「ぃて!?」

いきなり胸ぐらを掴まれ、エレノアは何の抵抗も出来ず、地面に投げ出された。

「おい、あんまり騒ぐなよ?」

刃物がエレノアの首もとに突き付けられて、漸くエレノアは周りを見回した。

そこには、数人の男達がエレノアを取り囲んでいる。

エレノアはゾクっとした恐怖を覚えた。


「おい、久しぶりだなぁ。」

一人の大男がエレノアに近づいて来た。

エレノアはその大男を見ても誰の事か思い出せない。

そんな様子を見て、男は自分を思い出さないエレノアにイライラしたのか、大男の脇腹の服を捲って見せた。


「お前に刺された所が疼いて仕方ねぇんだよ。」

エレノアは脇腹の傷痕を見せられ思い出した。

エレノアが怪我をさせたあの人拐いの一人だ。エレノアが目を見開いて驚いていると、エレノアの反応を見て大男は満足した表情を浮かべた。大男はエレノアの小さな頭を掴み、自分の目の高さまでエレノアを持ち上げた。


「うぅ…くぅ…や…め……」

「お前を探すのは簡単だったが、お前をいたぶる為にちゃぁんと準備してきてやったぜ。」


エレノアは頭を持ち上げられた苦しさで、大男が何を言っているかほとんど耳に入ってこない。痛みから必死に逃げようと、エレノアは頭を振った。すると、エレノアが被っていたハッチ帽が脱げ、それと同時に、帽子の中にしまっていたエレノア自慢の金色の長い髪が現れた。

エレノアは腕から落ち、無抵抗に地面に打ち付けられた。

「お前、女だったのか。」


エレノアの美しく長い髪を見て、男達は下品な笑いを浮かべた。


「まずはどんな顔か見せてもらおうぜ。」


エレノアが逃げる間もなく、上に男達が覆い被さり手足を抑えられた。今まで本性を隠す為にしてきた最後の砦である眼鏡まで奪われ、エレノアは恐怖で顔が歪んだ。

しかし、恐怖で歪むエレノアの美しい顔を見た男達は一瞬息を飲んだ。



「おい、本当にヤっちまって良いのか?」

「こいつぁ、上玉じゃねえか。」

「次は俺にもヤらせてくれよ?」

男達が言っている言葉をエレノアは嫌でも理解してしまい、身体を固くした。


「おいおい、怖がってんじゃねぇか。優しくしてやろうぜ。」

下品な笑い方をした一人の男がエレノアの上着に手を掛けた。

「いや…やめて…」


エレノアの震える声に、男達は気を良くしたのか、エレノアが着ていた上着は正面をナイフで切り裂かれた。



「なんだこれ?」

男達は、そのままエレノアの露になった胸が出てくると思っていたが、予想に反してエレノアはサラシを巻いていた。不幸中の幸いで、エレノアは街に出る時は女だと悟られないように胸にサラシを巻いていたのだ。


「早くしろよ。」

男達はエレノアを抑えながら、サラシを破っていく。

「やだ…助けて…助けて…コリン…」




恐怖による涙で目の前がぼやけた。





「うぉ!何だお前!?」

「いてぇ!!」

「誰だ!?」


いきなりの怒声と物音で、いつの間にかエレノアと地面を縫い付けていた男達の腕は無くなっていた。

エレノアが恐々と目を開けると、そこには、見知った顔が一人佇んでいた。

「コリン…」

「エル…なのか?」


エレノアは、コリンの問におずおずと頷くが、コリンは見たことない『エル』の姿になかなか近寄ることが出来なかった。

コリンは『エル』の美しい姿に、ただただ見とれていた。


しかし、エレノアはコリンの驚いた顔を見て、「終わった」と思った。

身分や性別を偽り続けた自分を友と呼んでくれるのだろうか。



「コ…」

エレノアはコリンの名を呼ぼうとして、止めた。

もう、友の名乗る資格は失った。エレノアはそう痛感した。



「っつ──」

エレノアが起き上がる瞬間、先程強く打ち付けられた背中が痛んだ。

右手でバランスを取ろうとしたが、強く抑えつけられていた右腕は感覚が麻痺し、上手く自分の身体を支えきれなかった。

身体がそのまま倒れそうになった所を、エレノアではない手が支え、なんとか倒れずに済んだ。


「コリン?」

エレノアは信じられないといった様子でエレノアを支える彼を眺めた。

彼の菫色の瞳からは目が離せなくなっていた。

コリンの瞳がエレノアの瞳に近づいて来た。そのまま、菫色の瞳に吸い込まれるように、お互いの顔は近づいていった。




「ハクション」

春にはまだ程遠い陽気。

エレノアは寒さでくしゃみが止められなかった。


暖をとるべき上着は男達にむしられ、見るも無惨な布切れとなって、エレノアに引っ掛かっている状態だった。


「悪い、こちらが先だったな。」

コリンは慌てて着ていた上着をエレノアに着せた。

「でも、これじゃコリンが寒いよ」

「良いから着てろ。その格好の方がマズイ。」

エレノアは一度は断ったものの、このまま服が破れた状態では帰るのも躊躇って、ありがたく上着を受け取った。


「コリン…その…黙っててごめん。僕、女なんだ。」

「別に。お前はお前だろ。」

コリンはエレノアの頭を撫でるとエレノアが立てるように手を差し出した。エレノアは、その手に支えられながら立ち上がった。


「さっき、居酒屋の店主に、ここら辺でまた人拐いが横行してると聞いて、心配で探しに来たんだ。間に合って良かった。」


コリンは心底安心したようにエレノアを抱き締めた。

エレノアもまた、ようやく恐怖から解放された安心感でコリンを強く抱き返した。


「エル、もう一度聞くが、1ヶ月後、あの丘で会えないか?」

コリンの問に、エレノアはコリンの胸に顔を埋めながら頷いた。





帰り道。今日だけはコリンと一緒に王立の森まで来た。二人は無言だった。しかし、しっかりと結ばれた二人の手からはお互いの体温が伝わっていた。



エレノアは覚悟していた。

エレノアの身元がバレるかもしれない。しかし、コリンは今までしなかった次回の会う約束をした。

つまりは、コリンも次に何か覚悟を決めた事をするつもりなのだろう。


王立の森の前で二人は別れた。

次は1ヶ月後に丘で会う約束をして。

風邪を引いてから、だいぶ喉風邪が長引いてます

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