落ちる
エレノアは疲れていた。
何か書かなければならないが、考える事が億劫になっている。
エレノアは自室でアルベールへの手紙を書こうとしていた。
婚約し、ほとんど会うことは無いが、定期的に文通をしている。
友人としてアルベールと話すことは楽しいが、どうにも色気のある話にはなかなかならない。
無意識にエレノアはそのような話題になる事を避けていたのだろう。
初めの頃こそ、文通はお互いの趣味嗜好などの内容だったが、今や経済論や国家論の意見交換書に変貌しつつあった。
コンコンコン
「エレノア様、入りますよ。」
ノック音がして、エレノアが振り向くと、アーシェが入ってきた。
「何ですか!今は取り込み中です!」
エレノアは慌てて書きかけの手紙を引き出しの中へ隠そうとし、その様子を見てアーシェは溜息を吐いた。
「エレノア様、そんな色気の無い手紙など、誰も盗み読みなんてしませんよ。」
「なっ!!」
エレノアは突然の指摘で図星を刺され眼を白黒している。
「ちなみに今回はどんなテーマで書くつもりなんですか?」
アーシェはソファーに腰掛けて寛いでいる。
「今回は…競争論による経済成長についてを…」
エレノアはおずおずと答えた。
「かぁー…男女の文通なら、もっと艶っぽい内容とかあるんじゃないですか?例えば『貴方を思い出します』って言葉とか、相手を花に例えるとか、いくらでも…」
さすがのアーシェも、エレノアの淡白な手紙の内容にダメ出しをした。
「急に言われてもアルベール様を何かに例えるなんて…アーシェ様の事ならすぐに例えられるんですけど…」
「へぇー。エレノア様は俺を何に例えてくれるんですか?」
エレノアの言葉にアーシェは興味津々で身を乗り出した。
「アーシェ様は…しめじに似てます!」
「へ?しめじ?しめじってキノコの?」
「はい!付け合わせによくなってるあのしめじです!主役にならない辺りが似てると思うんです!私はバターソテーにするのが好きですわ!」
「いや…エレノアの好きなものを聞きたいわけじゃ…」
エレノアの予想外の回答に、アーシェは呆気にとられた。しかし、『ふふふ』と笑うエレノアを見つめてアーシェは安心した様子だった。
「漸く笑ったな。」
「え?」
エレノアは、アーシェが何を言っているかわからないといった様子で首を傾げる。
「最近は、元気無かったから。でも、少しは気分が晴れましたか?」
アーシェは優しそうに微笑む。その笑顔を見てエレノアは胸が締め付けられた。
あれから、何度かジョーイと話し合いの場を設けようとしたが、毎回ジョーイの従者から断りの返事しか貰うことは出来なかった。
兄と和解出来る時はくるのだろうか。時が経てば経つ程、状況は悪化する気がする。
そして、同時に王が施行する法が日々厳しくなっていく気がする。エレノアがいくら直接会って話しても無意味だった。最近では、いくら事前申請しても王の執務室に通されなくなった。
以前、一度だけ王がエレノアの問いかけに答えたことがある。
「なぜ、このような締め付けの政策を行うのですか!?」
「規律を守るためには民に厳しくなければならない。エリザベートに顔向け出来ないような政治は出来ない。」
その時の王の瞳は決意の色だった。
『法の暴走』
エレノアは、嫌な予感が頭を過った。しかし、すぐに頭を降った。
「そうならない為に私がいるんだ。」
エレノアは拳を握りしめた。
─────
「どうだ?元気か?」
コンラッドはジョーイの執務室を一人で訪れていた。
最近のえもいわれぬ嫌な予感を払拭するために
「毎日が忙しいよ。妹とも喧嘩中だ。」
ジョーイはどことなく窶れた印象だった。
「妹と喧嘩か。仲直り出来ないのか?」
コンラッドは兄弟はいないが、幼い頃ジョーイとアーシェと兄弟のような親友としてつるんでいた。
コンラッドの問にジョーイはゆっくり首を横に降った。
「私が臆病なんだ。彼女と目を合わせる事が怖い。彼女の目が私を無能だと言っているようで。エレノアは政治・経済に関して私よりも聡い。『法の良心』は彼女がなるべきだったんだ。」
ジョーイは両手で顔を覆った。
ジョーイは友人として優しい男だと思う。
しかし、君主としては彼の優しさが、気の弱さとなり彼自信の首を絞めないか心配である。
コンラッドは、ジョーイの小さく丸まった背中を見つめるだけだった。
ちょっと遅刻の更新申し訳ないです。
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