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世界を救ったのに地獄へ落とされた最強勇者、納得いかないので地獄を支配します ―魔王だけが天国にいた―  作者: 直助


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第3話 勇者、獄長も手下にする

 勇者は第一獄を駆け抜けていた。


 戦場を一直線に。


 立ちはだかる者は、そのたびに宙を舞う。


 一方で。


 森ゴブリン千三号は必死に後を追いかけていた。


「ゆ、勇者さーん!」


「待ってくださーい!」


 しかし。


 勇者にはまるで聞こえていない。


 あっという間に姿は小さくなり、戦場の彼方へ消えてしまった。


 森ゴブリン千三号は肩で息をしながら立ち止まる。


「速過ぎますよ……」


 その時だった。


「新入りだ」


「一人になったぞ」


 周囲から第一獄の住人たちが集まってくる。


 森ゴブリン千三号は顔を青くした。


「うわ……」


「わわっ……」


 じりじりと包囲が狭まっていく。


 すると。


 遠くの方から、勇者の大声が響いた。


「おーい!」


「千三号ー!」


「ちょっと、しゃがんでろー!」


 森ゴブリン千三号は反射的にその場へしゃがみ込む。


 勇者は手を振る。


 次の瞬間。


 ゴォォォォッ!!


 灼熱の炎が円を描くように戦場全体へ走り抜けた。


 巨大な炎の斬撃。


 飲み込まれた住人たちは次々と吹き飛び、その場へ倒れていく。


 轟音だけが第一獄へ響き渡った。


 炎が消える。


 立っていたのは、しゃがんだままの森ゴブリン千三号だけだった。


 恐る恐る顔を上げる。


 勇者がこちらへ歩いてくる。


「ちまちま倒すより」


「こっちの方が早かったわ」


 森ゴブリン千三号は呆然と勇者を見上げた。


 ――やっぱり、この人おかしい……。


 勇者は周囲を見渡す。


 もう立ち上がる者はいない。


「これで終わりか」


 そう呟いた、その時だった。


 ズシン。


 ズシン。


 地面が揺れる。


 巨大な影が勇者の前へ立ちはだかった。


 身の丈は勇者の三倍近く。


 黒い鎧をまとい、巨大な金棒を肩へ担いでいる。


「俺は第一獄の獄長」


「勇者一号」


「あまり調子に乗るな」


 獄長は金棒を振り上げた。


「ここは地獄だ!」


「勝手な真似は許さん!」


 轟音とともに金棒が振り下ろされる。


 しかし。


 勇者は右手を軽く上げるだけだった。


 ガギィィィンッ!!


 金棒は片手で受け止められた。


 獄長は目を見開く。


「なっ……!」


 全身の力を込めても、金棒は一ミリも動かない。


「どういうことだ……」


「なぜ力が落ちていない!」


 勇者は口元を吊り上げた。


「獄長か」


「ちょうどいい」


「今日から、お前は俺の手下だ」


「誰が――」


 言い終える前に。


 勇者の姿が消えた。


 獄長が視線を動かす。


「どこ――」


 その瞬間。


 目の前には、勇者の拳があった。


 ドゴォォォォンッ!!


 凄まじい衝撃。


 獄長の巨体が宙を舞い、地面へ叩きつけられる。


 轟音が第一獄全体へ響き渡った。


 森ゴブリン千三号は目の前の光景に言葉を失っていた。


 ――どうして……。


 ――鬼まで倒してしまうんですか……。


 勇者は倒れた獄長の胸ぐらを掴み、その巨体を無理やり引き起こす。


「今日からここは」


「俺の縄張りだ」


「閻魔には報告するんじゃねぇぞ」


「面倒だからな」


 獄長は苦しそうに首を振る。


「そ、それはできない……」


「閻魔様には報告を――」


 勇者はさらに胸ぐらを引き寄せる。


「テメェ」


「まだ立場が分かってねぇみてぇだな」


「もう一発、いくか?」


 獄長の顔から血の気が引く。


「ひっ……!」


「それだけはご勘弁を!」


「わ、分かりました!」


「閻魔様には報告いたしません!」


「どうか落ち着いてください!」


 その返事を聞き、勇者は満足そうに頷いた。


「分かればいい」


 そう言って獄長を地面へ降ろす。


 そして、にやりと笑った。


「当分は今まで通りでいい」


「ただし」


「ここにいる奴らを徹底的に鍛えろ」


「今のままじゃ弱過ぎる」


「俺たちは第二獄へ行く」


「戻ってくるまでには、少しは楽しませろ」


 勇者は腕を組み、獄長を見下ろした。


「返事は?」


 獄長は慌てて背筋を伸ばす。


「は、はい!」


「承知いたしました!」


 勇者は満足そうに笑う。


「よし」


 そして振り返り、森ゴブリン千三号へ声をかけた。


「行くぞ」


「次は第二獄だ」


 森ゴブリン千三号は顔を引きつらせる。


「えっ」


「だ、第二獄ですか!?」


「私、耐えられるんでしょうか……」


 勇者は面倒くさそうに答えた。


「知らん」


「さっさと来い」


「そんなぁ……」


 泣きそうな声を漏らしながらも、森ゴブリン千三号は勇者の後を追う。


 二人の姿は、第二獄へと続く門の向こうへ消えていった。


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