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世界を救ったのに地獄へ落とされた最強勇者、納得いかないので地獄を支配します ―魔王だけが天国にいた―  作者: 直助


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第2話 勇者、ゴブリンを手下にする

 勇者は第一獄を駆け抜けていた。


 戦場を一直線に。


 立ちはだかる者は、片っ端から吹き飛ばす。


「なんだ!?」


「新入りか!」


 そんな声が聞こえたかと思えば。


 次の瞬間には、その声の主が宙を舞っていた。


 拳。


 蹴り。


 肘打ち。


 誰一人として、勇者の動きを捉えられない。


 ゴブリンが吹き飛ぶ。


 オークが地面を転がる。


 獣人が壁へ叩きつけられる。


 気づけば勇者は、第一獄の最奥までたどり着いていた。


 勇者は腕を組み、小さく息を吐く。


 ――なんだ、この手応えの無さは……。


「真っすぐ走り過ぎたか」


 そう呟き、闘技場のような第一獄全体を見渡した。


「よし」


「片っ端から倒せば、一番強い奴も出てくるだろ」


 勇者は踵を返す。


 その瞬間。


 再び戦場を駆け抜けた。


 拳が唸る。


 悲鳴が響く。


 巨体が宙を舞う。


 第一獄の住人たちは次々と吹き飛ばされ、戦場はあっという間に勇者一人の独壇場となっていった。


 その様子を、遠く離れた監視台から一体の鬼が見つめていた。


「……どういうことだ」


「強過ぎる」


 鬼は地獄の力を測定する望遠鏡を覗き込む。


 勇者一号の全身を、淡い光が包み込んでいた。


「まさか……」


 鬼の表情が凍りつく。


「地獄で発動するはずの抑制が……効いていない?」


「勇者一号……地獄の力に耐性があるというのか」


 鬼は慌てて望遠鏡から顔を上げる。


「閻魔様に報告を――」


 その瞬間だった。


 望遠鏡の視界が真っ暗になる。


「……え?」


 鬼が顔を上げる。


 目の前には、勇者が立っていた。


 いつ移動したのか、まるで分からない。


 勇者は鬼の胸ぐらを掴み、そのまま軽々と持ち上げる。


「テメェ」


「さっきから、こっち見てたよな?」


 鬼の額を冷や汗が伝う。


「な、何のご用でしょうか……」


「いえ、決して怪しい者では――」


 勇者は数秒だけ鬼を睨みつける。


「そうか」


 そう言って、鬼を地面へ降ろした。


 鬼は激しく咳き込みながら距離を取る。


 ――どういうことだ……。


 ――地獄の鬼に逆らえるはずがない。


 勇者は鬼を一瞥する。


「怪しい動きをしたら」


「次は容赦しねぇぞ」


 そう言い残すと、再び戦場の中心へ歩き出した。



 第一獄を駆け回る勇者は、戦場の隅で小さく身を縮める影を見つけた。


 ――なんだ、あれ……。


 勇者は進路を変え、一気に駆け寄る。


「おい!」


「お前、何してるんだ?」


 怯えた影は、恐る恐る顔を上げた。


 小柄な緑色の体。


 尖った耳。


 ゴブリンだった。


 勇者は目を見開く。


「お前……!」


「旅立ちの森にいた魔王軍のゴブリンじゃねぇか!」


 ゴブリンは震えながら頷く。


「は、はい……」


「私は魔王軍の――」


 そこまで言いかけて、ゴブリンは目を見開いた。


「うわっ!」


「あなた……勇者!?」


 勇者は豪快に笑う。


「やっと知ってる奴に会えた!」


「それにしても、お前みたいな雑魚がなんで地獄にいるんだ?」


「お前、レベル1の人間にも負けるだろ」


 ゴブリンはむっと頬を膨らませる。


「失礼ですね」


「私だって魔王様の命令で村を襲ったことくらいあります」


「ちゃんと悪いことはしてるんです」


「そこ威張るところか?」


 勇者は苦笑しながら頭をかく。


「まあいい」


「それより魔王はどこだ?」


 ゴブリンは首を横に振った。


「分かりません」


「魔王様とは、ここへ来てから一度も会っていません」


「そうか……」


 勇者はあっさり納得する。


「まあ、そのうち見つかるか」


 そして、ニヤリと笑った。


「お前、一人なんだろ?」


「なら俺についてこい」


「手下にしてやる」


 ゴブリンは思わず固まる。


「手下……ですか?」


「知り合いがいなくて暇だったんだ」


「俺も名前なくなっちまってさ」


「ここじゃ勇者一号らしい」


 ゴブリンは怪訝そうな顔を浮かべた。


 ――勇者の手下なんて、魔王軍としては屈辱だ。


 ――だが……。


 ――この地獄で一人きりというのも厳しい。


 少し考えた末、小さくため息をつく。


「……分かりました」


「地獄では敵も味方も関係ありませんからね」


「私は森ゴブリン千三号と呼ばれています」


 勇者はその名前を口の中で転がす。


「森ゴブリン千三号か」


「千三号って……」


「ゴブリン、多すぎるだろ」


 森ゴブリン千三号は不機嫌そうに眉をひそめた。


「そういうものなんです」


 勇者は楽しそうに笑う。


「よし、行くぞ」


 勇者は森ゴブリン千三号を引き連れ、あとわずかで制圧できる第一獄の戦場へと戻っていった。


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