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世界を救ったのに地獄へ落とされた最強勇者、納得いかないので地獄を支配します ―魔王だけが天国にいた―  作者: 直助


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第1話 勇者、地獄へようこそ

「勇者一号」


「目を覚ませ、勇者一号」


 重く響く声。


 勇者はゆっくりと目を開けた。


 目の前には、山のように巨大な鬼が玉座に腰掛けている。


「……誰だ、お前」


「余は閻魔大王」


 勇者は周囲を見回した。


 石造りの巨大な法廷。


 左右には無数の鬼が並び、禍々しい空気が辺りを支配している。


 勇者は眉をひそめた。


「ここはどこだ?」


 閻魔は静かに告げる。


「地獄だ」


「……は?」


 勇者は目を見開いた。


「ちょっと待て!」


「どうして俺が地獄なんだよ!」


 閻魔は淡々と答える。


「勇者一号」


「お前は殺し過ぎた」


「はぁ?」


 勇者は声を荒らげた。


「俺が殺したのは魔王軍だけだ!」


「あいつらは世界を滅ぼそうとしてたんだぞ!」


 閻魔は表情一つ変えない。


「魔王軍、一万体以上」


「お前はその命を奪った」


「救った命は裁かぬ」


「奪った命を裁く」


 勇者は納得できず、不満げに唇を尖らせる。


「なんだよ、それ……」


「それに、勇者一号って何だ」


「俺にはちゃんと名前が――」


 そこまで言って、勇者は言葉を止めた。


「あれ……?」


「俺の名前……」


 思い出せない。


 閻魔が告げる。


「死者は現世の名を失う」


「地獄では称号で呼ばれる」


「お前は勇者一号だ」


 勇者は露骨に嫌そうな顔をした。


「番号扱いかよ……」


 そんな勇者を見て、閻魔は続ける。


「名誉なことだ」


「勇者とは、現世で魔王と呼ばれる存在を討った者だけに与えられる称号」


「お前が歴史上、初めて魔王を討った」


「ゆえに――勇者一号」


 勇者は腕を組み、少しだけ口元を緩めた。


「まあ……」


「悪くねぇか」


 閻魔は木槌を打ち鳴らす。


 ゴン――。


「審査は終わった」


「勇者一号よ。その門をくぐれ」


 勇者は大きく舌打ちをした。


「ちっ……」


 ――まあ。


 ――地獄がどんなところか、見てやるか。


 勇者は鬼に促されるまま、巨大な門へと歩き出した。



 勇者は案内役の鬼に促され、地獄へと続く長い石畳を歩いていた。


 周囲を見渡す。


 どこまでも続く赤黒い大地。


 空は灰色。


 遠くには巨大な山々が連なり、ところどころから黒煙が立ち上っている。


 ーー思ったより広いな……。


 しばらく歩くと、案内役の鬼が前方を指差した。


「あそこが第一獄・等活地獄の受付です」


 勇者は目を細める。


「……受付?」


 そこには地獄とはまるで似つかわしくない、木造の立派な建物が建っていた。


 入口には大きく、


『第一獄 等活 受付』


 と書かれた看板まで掲げられている。


「なんだよ、それ……」


「第一獄の説明を受けていただきます」


「説明?」


「はい」


 鬼はそれ以上何も言わず、受付へ勇者を案内した。


 受付にいた鬼は、慣れた様子で一枚の書類をめくる。


「勇者一号ですね」


「こちらは第一獄・等活地獄になります」


「ここでは罪人同士、永続的に戦闘を行っていただきます」


「死亡しても一定時間で蘇生しますので、ご安心ください」


 勇者は眉をひそめる。


「安心できる要素あったか?」


 鬼は気にする様子もなく説明を続けた。


「休憩所もございます」


「なお、休憩所では炎雨、落雷、暴風などの自然災害が発生する場合があります」


 勇者は思わず眉をひそめる。


「休憩じゃねぇだろ、それ」


 鬼は淡々と続きを読み上げる。


「食事の提供はありません」


「武器の持ち込みは自由です」


「第一獄の外へは許可なく出られません」


 勇者は呆れたように肩をすくめた。


「自由なのか不自由なのか、どっちなんだよ」


 鬼は最後の一文だけを機械的に告げる。


「以上で説明を終わります」


 鬼は顔を上げた。


「ご質問はございますか?」


 勇者は少し考え、


「……いや、別に」


「かしこまりました」


 鬼は軽く一礼する。


「それでは、第一獄をお楽しみください」


「楽しめるか!」


 勇者の叫びを背に、鬼は何事もなかったように受付へ戻っていく。


 勇者は呆れたように頭をかきながら、第一獄・等活地獄へと足を踏み入れた。


 第一獄は、広大な闘技場のような場所だった。


 地平線の彼方まで続く赤黒い大地。


 あちこちで轟音が響き渡り、


 人間、エルフ、ドワーフ、ゴブリン、オーク――。


 種族も立場も関係なく、あらゆる者たちが入り乱れ、果てのない戦いを繰り広げている。


 勇者はその光景を眺めながら、ゆっくりと中央へ向かって歩き始めた。


 すると、一体の巨大なゴーレムが立ちはだかる。


「おい、新入り」


「俺は新入り狩りのゴーレム百五号だ」


「ここじゃ、弱い奴から死――」


 最後まで言わせなかった。


 勇者が無造作に拳を振るう。


 ドゴォォンッ!!


 爆発にも似た衝撃音。


 ゴーレムの巨体が砲弾のように吹き飛び、何十メートルも宙を舞う。


 そのまま闘技場の外壁へ激突。


 壁が大きく陥没し、砕けた岩石が雨のように降り注ぐ。


 遅れて、


 ズズズ……。


 と音を立てながら、ゴーレムは崩れ落ちた。


 完全に沈黙した。


 勇者は吹き飛んだ先を一瞥し、鼻を鳴らす。


「なんだよ」


「偉そうに名乗ったわりに、大したことねぇな」


 一瞬だけ。


 周囲で戦っていた者たちの視線が勇者へ集まる。


 しかし、それもほんの数秒。


 誰も何事もなかったかのように、再び戦いへ戻っていく。


 勇者は周囲を見回し、口元を歪める。


 ーーまずは、この第一獄の一番強い奴を探すか。


 歩き出そうとした、その時。


 ふと、勇者は足を止めた。


 「……そういや」


 「魔王はどこだ?」


 近くで監視していた鬼へ問いかける。


 鬼は少し考えるように首を傾げた。


 「存じません」


 「見たこともありません」


 「そうか」


 勇者は軽く肩をすくめる。


 「まあ、どっかにはいるか」


 そう呟くと、勇者は第一獄の奥へ向かって歩き出した。


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