第24話 青魔導士、アルダーヴェイルの鉄門をくぐる
城壁は、美しくなかった。
蔦もない。
陽を受けて白く光る石もない。
この街が誰かに愛される必要など一度でもあったかのように見せかける旗もない。
古い石積みの上から、鉄板が何列にも重ねて打ちつけられていた。
一枚ごとに教会の印が刻まれ、鋲の周りは黒く焼けている。
胸壁に沿って、蒸気が規則正しく吐き出されていた。
人が這って通れそうな太さの管から、白い息が漏れている。
門の上にかぶさる見張り塔は低く重く、顔のような壁面には、狭く意地の悪い銃眼が切られていた。
絶えず息を吐いている街だった。
「まあ。ずいぶん念入りに怯えているのね」
「怯えた人間は壁を作る。疑り深い人間は、その上に鉄を打ちつけて進歩と呼ぶ」
正門の上には、巨大な教会の紋章が鋲で固定されていた。
日輪。
その中心を貫く刃。
磨き上げられたそれは、灰色の光を受け、告発のようにこちらへ投げ返している。
門の外の列は、ゆっくり進んでいた。
並んでいる者たちの違いは、見ればすぐにわかった。
人間は背筋を伸ばしていた。
声が大きい。
落ち着いている。
書類は手元にある。
武器も見えるところにある。
亜人たちは、目を低くしていた。
三台ほど前の荷車のそばに、狼の獣人が二人立っていた。
喉には鉄の首輪。
連れているのは、薄い身体に偉そうな山高帽を乗せた男だった。
長旅の前に荷役用の獣を点検する者の、退屈で丁寧な手つきで、彼は二人の書類を確認していた。
ミラの手が、盾の紐の近くで止まる。
ソリチェラがそれを見た。
「やめな」
低い声だった。
ミラは彼女を見なかった。
「何もしていません」
「うん。気づかれるには十分だった」
ネフェレットがアリステルへ少し身を寄せた。
その声は、危険なほど優しかった。
「ずいぶん静かね、子猫」
「落ち着いているだけです」
「ええ。あなたはそれが上手だもの」
アリステルは答えなかった。
ネフェレットの視線が、門へ、首輪へ、検査の列へ移る。
「誰かがあなたに手を伸ばしたら、彼のものに触れたことを後悔するでしょうね」
アリステルの耳が、フードの下で動いた。
「私は彼のものではありません」
「まだね」
そこでアリステルが彼女を見た。
ネフェレットは薄く微笑んだ。
「でも、この街では、誰かがもっと悪いことを決める前に、そう誤解させておく方が安全かもしれないわ」
門の近くには、真鍮の天蓋が検査路の上に組まれていた。
その下には回転するレンズが吊られ、魔力を帯びた鏡が鉄の枠にはめ込まれている。
旅人は一人ずつ、青白い光を浴びて通される。
両側には教会の神殿騎士が二人。
背には銃。
腰には短剣。
その奥では、書記官が帳簿と印章を前に座っていた。
残酷さは文字にした方が楽だと知った男の、死んだような忍耐を顔に貼りつけている。
机の上の札には、こう書かれていた。
秩序は慈悲である。
その下に、小さな字が続く。
獣人、亜人労働者、および外国製魔法具はすべて登録すること。
俺たちが検問に着くと、一人目の神殿騎士が俺を見た。
呼び止める相手としては人間。
嫌うには十分に武装している。
責めるには十分に年を食っている。
「名は」
「ラフェル・ソーン」
書記官のペンが帳簿を一度引っかいた。
「アルダーヴェイルでの用件」
「フリルグレイヴ家の使節だ」
それで初めて、まともに見られた。
神殿騎士の目が、俺の顔から外套へ、それから背後の女たちへ動く。
口元がわずかに動いた。
「フリルグレイヴも使節を出すようになったか」
「ああ」
「書類」
俺はレンから渡された通行書を出した。
神殿騎士は封を読む。
「フリルグレイヴ家」
そう言ってから、もう一度目を上げた。
「青魔導士」
書記官のペンが止まった。
神殿騎士は俺の背後を見た。
アリステル。
ミラ。
ソリチェラ。
ネフェレット。
彼の笑みが、探していた形に歪んだ。
「裏切り者のクラスか」
神殿騎士は一人ずつ見回した。
「なるほどな。荷車いっぱいの獣を連れた青魔導士。信仰を見つける男もいる。恥を知る男もいる。お前は犬小屋を見つけて、仲間と呼んだわけだ」
二人目の神殿騎士が、喉の奥で笑った。
俺は顔から表情を消した。
一人目は少し身を引き、自分が作った沈黙を楽しんでいた。
「目的は」
「敬意を払いに来た」
「誰に」
「教会に」
その方が、もっと面白かったらしい。
「フリルグレイヴ家が、裏切り者のクラスを護衛にして、未登録の亜人を連れて、教会に敬意を払うと」
「使節だ」
平らに言った。
紙に封があり、列には目撃者がいる。
それを思い出させるためだった。
神殿騎士の口元が固くなる。
それから、視線はアリステルへ移った。
「そっちのは」
「アリステル・フォン・フリルグレイヴ嬢。家の保護下で移動している」
「顔」
アリステルは、光が目を拾う程度に顔を上げた。
神殿騎士の視線が変わった。
「獣にも貴族がいるのか。俺が一番好きな種類だ」
二人目の神殿騎士の笑みが広がる。
アリステルの顔は変わらなかった。
「外国の貴族だ」
「獣は獣だ」
神殿騎士は一歩近づいた。
目が外套、フード、その下にある細剣の線をなぞる。
「だが、かわいい獣だな。裏切り者のクラスにも、埋め合わせは必要ということか」
アリステルは真っすぐ立ったまま、その言葉に怯まなかった。
神殿騎士はそれに気づいた。
こういう男は、刃が入った時に必ず気づく。
彼は指二本で合図した。
「フードを取れ。外套を開けろ。禁制品の検査だ」
アリステルの目が、ほんのわずか細くなる。
二人目の神殿騎士が近づいた。
銃の負い紐が軋む。
一人目がアリステルに笑いかけた。
「怒った顔をするな、獣。アルダーヴェイルには規則がある。外国人は上等な布の下にいろいろ隠す。武器。護符。病」
視線が下へ落ちる。
「何もなくとも、フリルグレイヴ家が役に立つものを寄越したかどうかくらいは確認できる」
そこまでは餌だった。
汚い餌。
わざとらしい餌。
ミラに盾へ手を伸ばさせ、ソリチェラの籠灯に熱を宿らせ、アリステルに剣を抜かせ、俺に噂の正しさを証明させるための餌。
だが、その一言は違った。
言葉なのに、手が伸びていた。
俺は一歩前に出た。
その一歩だけで、俺たちの間合いは俺のものになった。
「書け」
神殿騎士が俺を見た。
「何だと」
「命令を書け」
書記官が固まった。
俺は帳簿を指した。
「フリルグレイヴ家の令嬢、アリステル・フォン・フリルグレイヴが、教会神殿騎士の検査権限により、路上で外套を開き、身体検査を受けるよう命じられた」
背後の列が静かになった。
聞いてしまったことを生き延びるために、人が使う種類の沈黙だった。
神殿騎士の顎が動く。
俺の声は平らなままだった。
「氏名。階級。理由」
目が硬くなる。
「気をつけろ、青魔導士」
二人目の神殿騎士の笑みは消えていた。
書記官はペンに触れない。
俺は真鍮の天蓋を見上げた。
検査路の上でレンズがゆっくり回り、青白い光を低く唸らせている。
「あるいは、そちらの鏡を通って、この誤解をここで終わらせる」
神殿騎士は俺を睨んだ。
一瞬、殴ってくるかと思った。
その方が楽だった。
こういう男は、法にまだ人を傷つける余地があるうちは、めったに楽な方を選ばない。
笑みが戻る。
小さく。
さらに意地悪く。
「いいだろう。鏡を通れ」
それから、目がミラの盾へ動く。
「ただし、武装した獣の従者は、入門時に武器を預ける」
「武装したままだ」
「何の権限で」
俺はミラを見た。
彼女の目が即座に細くなる。
俺が自分のものではない何かを使おうとしていると、わかったのだ。
「ミラ。箱を」
一拍だけ、彼女は動かなかった。
その時、アリステルの指が外套の下でわずかに動いた。
許可。
あるいは、それに十分近いもの。
ミラはラバの荷袋から、細長い黒塗りの箱を取り出した。
蓋には白い結び目の意匠。
神殿騎士の視線がそこに固定される。
「何だ、それは」
「フリルグレイヴ家からの正式な贈答品だ。教会へ」
書記官が顔を上げた。
二人目の神殿騎士も同じだった。
アルダーヴェイルは、目撃者がいる時の欲を好むらしい。
「開けろ」
一人目が言った。
俺は、ためらいが原則になる前にミラから箱を受け取り、検査机の上に置いた。
それから開ける。
治癒薬は、暗い布に包まれて収まっていた。
門の光が硝子に触れ、緑金に光る。
「強力な治癒薬だ。希少で、高価だ」
神殿騎士の目が、薬瓶からミラの盾へ移った。
「それで獣の武器が免除されるわけではない」
「違う。説明になる。高価な贈答品をアルダーヴェイルの門から運び込む使節が、武装した従者も連れないのは怠慢だ。もし贈答品が盗まれたなら、報告書には、教会の指示で護衛を放棄したと書くことになる」
書記官のペンがまた止まった。
それが聞きたかった音だった。
神殿騎士は俺を睨む。
背後では、鏡が低く唸っている。
列は待っていた。
ソリチェラの口元が曲がる。
小さく。
意地悪く。
神殿騎士は薬瓶を見た。
それからフリルグレイヴ家の封。
ミラの盾。
アリステルの細剣。
ソリチェラの籠灯杖。
最後に、それを握る火鼠の手。
彼は俺たちを辱めたかった。
代わりに、俺は責任を渡した。
彼はその重さが気に入らなかった。
「外国製の魔法具は申告が必要だ」
笑みが戻る。
「持込税だ」
ミラの顔が冷たくなった。
アリステルの顔は動かなかった。
つまり、不愉快な何かを学び、正しくしまい込んだということだ。
俺は払った。
神殿騎士は一枚ずつ、ゆっくり硬貨を数えた。
それから紙に印を押した。
紙が傷むほど強く。
「一時入市許可。東地区。魔法使用禁止。宗教集会禁止。登録宿以外での宿泊禁止」
彼の目が、アリステル、ミラ、ソリチェラの上を動いた。
「お前の獣どもが問題を起こせば、お前の首だ、裏切り者」
「彼女たちは獣ではありません」
アリステルが言った。
神殿騎士は彼女を見て、笑った。
「もちろんですとも、お嬢様」
その敬称は、靴についた泥を拭う音のようだった。
「鏡を通れ」
俺が先に進んだ。
青白い光が、冷たく薄く身体を撫でていく。
肋骨の下の繋ぎのあたりを這い、ソリチェラが骨の奥に残した新しい熱の周りを回った。
一番近い鏡がちらつく。
書記官がそれを見た。
「クラス異常」
「青魔導士だ」
神殿騎士の目が俺に戻る。
次にアリステルが通った。
鏡は彼女の首輪の淡い縁を拾い、金に光った。
それから青。
ひどく醜い一秒の間、細い光の線が彼女の胸から俺の方へ走った。
書記官が身を乗り出す。
俺はその視界に入った。
目が細くなる。
「どけ」
神殿騎士の手が武器へ流れた。
その時、ネフェレットが天蓋の下を歩いた。
呼ばれたわけではない。
許可を得たわけでもない。
ただ、歩いた。
一番近い鏡が割れた。
鋭い破裂音。
硝子に隅から隅まで亀裂が走り、金青の線が消えた。
書記官が悪態をつく。
二人目の神殿騎士が一歩下がった。
ネフェレットは首をかしげ、彼の肩に掛けられた銃を眺めた。
「興味深いわ。あなたたちの慈悲には、ずいぶん大きな音が必要なのね」
神殿騎士の視線が彼女へ跳ねた。
「何と言った」
俺はネフェレットの後頭部に片手を置き、検査路の先へ優しく、しかし確実に押し出した。
「何も言っていない」
ネフェレットは心外そうな顔をした。
喋らせなかった。
神殿騎士は彼女を見つめている。
「あれは何だ」
「古い血筋のエルフだ。神殿育ち」
「鏡を割ったぞ」
「検査を受けただけだ」
書記官が伸びていく列を見た。
列が見返した。
商人が一人、咳払いをする。
神殿騎士の顎が動いた。
しばらく、彼の誇りと書類仕事が殴り合っていた。
書類仕事が勝った。
「また不具合か」
書記官が呟いた。
神殿騎士が彼を睨む。
書記官はすぐに目を落とした。
俺はネフェレットの頭に手を置いたままだった。
強くはない。
十分に。
「あれはここで何をする」
「見学だ。宗教的好奇心」
ネフェレットが口を開いた。
俺は後頭部に置いた手へ、もう少し力を込めた。
彼女は口を閉じた。
ゆっくりと。
神殿騎士は立ち上がった。
本能が何を告げていたにせよ、背後の列は苛立ち始めていた。
鏡は壊れている。
フリルグレイヴの封は正式なもの。
帳簿には、ここで俺たちを止め続ける責任を誰か別の人間へ押しつけられるだけの印が、すでに残っている。
彼は門の方へ手を振った。
「短い鎖につないでおけ」
書記官が、押印済みの書類を机の向こうへ押し戻した。
ミラが黒塗りの箱を受け取る。
俺をそれで殴りたそうな持ち方だった。
俺たちは門の下をくぐった。
頭上で、鉄が空を飲み込んだ。




