第23話 青魔導士、女神を肩に乗せてアルダーヴェイルへ向かう
朝になる頃には、ミラは身なりを整えていた。
髪は乱れていない。
盾も正しく背負っている。
姿勢にも、何も出ていなかった。
顔色には出ていた。
アリステルはその横に立ち、水袋を両手で持っていた。
「ミラ、顔色が悪いです」
ミラはしばらく水袋を見た。
それから、受け取った。
敗北は小さかった。
飲んだ量も小さかった。
ソリチェラは道の近くで待っていた。
籠灯杖を片肩に預け、帽子を黒髪の上に深くかぶっている。
よく休めた顔だった。
昨日はなかった柔らかさが口元にある。
肩からも力が抜けていた。
何があったかを正確に知っていて、俺が隠すのを手伝う気はない女の、気楽で残酷な余裕だった。
ネフェレットは宿の塀に座っていた。
片手にバナナ。
裸足を泥の上でぶらぶら揺らしている。
「昨夜の宿は、賑やかだったわね」
鞄の留め具にかけていた俺の手が滑った。
ソリチェラが、眠たげで満足そうな興味を浮かべて俺を見る。
朝からずっと、俺のどこが最初に壊れるか待っていたみたいな顔だった。
ネフェレットが一口かじる。
「とても賑やかだった」
ミラは目を閉じた。
慎みのためではない。
顎がほんのわずか固くなり、握られた水袋が小さくきしんだ。
火酒はまだ利子を取り立てているらしい。
アリステルの視線が、ネフェレットからソリチェラへ、それから俺へ動いた。
昨夜の時点で、ソリチェラが病人ではなかったことくらいは見ていた。
知らないのは、扉が閉まったあと、どこまで芝居が続いたかだ。
残念ながら、それを教えたがっている女を俺は知っていた。
ソリチェラがアリステルへ向く。
「あ。そうだ。謝らないと」
俺は、尊厳が許すより速く庭を横切った。
片手で彼女の口を塞ぐ。
もう片方の腕を腰に回す。
一音でも意味を持つ前に、彼女をこちらへ引き戻した。
「んむ」
「駄目だ」
アリステルの目が大きくなる。
ミラは片目だけ開けた。
俺の手がソリチェラの口を塞いでいるのを見て、理解したくない程度には理解し、俺たち全員を嫌い直してから、また目を閉じた。
ソリチェラは暴れなかった。
俺の手の上で、目だけが笑っていた。
俺は彼女の耳元へ顔を寄せた。
「謝る、説明する、匂わせる、身振りをする、意味ありげに息をする。そのどれか一つでもアリステルへ向けたら、お前の帽子で口を塞いで、次に出会う神罰に食わせる」
ソリチェラがぴたりと止まった。
それから、ゆっくり頷いた。
あまりにも素直に。
俺は目を細めた。
「それは同意か」
もう一度頷く。
まだ笑っている。
「同意じゃないな」
「むぐ」
「同意の顔は知ってる。それは計画している顔だ」
ネフェレットが嬉しそうに目を輝かせた。
「珍しい朝ね。青魔導士が先制攻撃というものを覚えたわ」
俺は彼女を見上げた。
ネフェレットはまた一口かじった。
フードの陰で、アリステルの眉が寄る。
「何を謝るつもりだったのですか」
「何でもない」
ソリチェラが俺の手の下で小さく音を立てた。
俺は指に少しだけ力を込めた。
「大事なことではない」
また音がした。
今度は形があった。
言葉かもしれない。
戦争かもしれない。
ミラが水袋を口元から下ろした。
「姫様」
声は細かったが、規律は残っていた。
「聞いた者を罰する質問もございます」
アリステルがミラを見る。
ミラはまっすぐ前を向いていた。
「最近、学びました」
ネフェレットは泥の上で裸足をぶらぶら揺らした。
「なんて厳しい教育を受けたのかしら」
ミラは、それに返事をするほど弱ってはいなかった。
アリステルはもう一度、俺たちを見た。
視線はソリチェラの顔に止まる。
それから、俺の手。
さらに、ソリチェラが恥じる様子もなく俺にもたれている姿へ。
アリステルの表情に、静かなものがよぎった。
肋骨の下の繋ぎは、黙ったままだった。
ようやくソリチェラを信用してもいいと思える程度に沈黙が続いたところで、俺は手を離し、道へ向き直った。
「行くぞ」
最初の一時間、誰も熱心には話さなかった。
ミラは慎重に歩いていた。
姿勢は厳格なまま。
歩調も乱れない。
だが一歩ごとに、昨夜の調査結果と個人的な交渉をしているように見えた。
アリステルは彼女の近くにいた。
時折、水袋を差し出す。
ミラはそれを受け取った。
誇り高い者が必要な敗北を受け入れる時のように、素早く、議論なしで。
ソリチェラはしばらく前を歩いていた。
籠灯杖を片肩に預けている。
時々、こちらを振り返った。
ネフェレットはラバの横を歩いていた。
いつもなら、世界は彼女の興味を引きすぎていた。
あるいは、世界は自分を楽しませるためにできているのだと、彼女が装っていた。
今日は、ただ歩いていた。
硬い道に裸足。
黙ったまま。
俺は下を見た。
それから、彼女を見る。
ネフェレットが気づいた。
「あら。こんな朝早くから女神の足を見るの? ソリチェラがあなたを大胆にしたのね」
「静かだな」
「ひどい人。平穏をあげているのに、疑わしいと言うのね」
「祠のことか」
ネフェレットはすぐには答えなかった。
彼女はいつも、早すぎるくらい早く答える。
たいていは、後悔する方が俺のせいに思えるくらい鋭い何かで。
今回は、道の先を見ていた。
「静かだったわ」
「それだけか」
ネフェレットの笑みが浮かんだ。
小さく。
形式ばっていた。
儀式が顔の置き場を与えてくれた時、人が浮かべる種類の笑みだった。
「応えるべき祈りが、もう残っていなかったの」
ネフェレットは歩き続けた。
「誰も来ないとわかったあとに残る、あの種類の沈黙だけ」
俺は道の先を見た。
「人間は、そういう沈黙が下手だ。埋め方を間違える。だいたい、温かくて馬鹿なもので。沈黙の方が負けたふりをできるくらい、うるさい何かでな」
ネフェレットが俺を見上げる。
「悲しいわね」
声は柔らかかった。
「それが、あなたのしたこと?」
俺は歩き続けた。
「足りなかった」
ネフェレットはさらに数歩、俺を見ていた。
その顔つきが、少し変わる。
そして道の真ん中で立ち止まり、両腕を上げた。
「いいえ」
「まだ何も頼んでいない」
「顔がそうだったわ」
「温かくて馬鹿なものが必要だ」
ネフェレットの厳粛さは、慈悲が許すより一呼吸だけ長く保たれた。
「子供が肩車をされているのを見たことがあるわ。とても賑やかそうだった」
「駄目だ」
「薬になるかもしれない」
「ならない」
アリステルが即座に一歩前へ出た。
「女神様がお望みでしたら、私が――」
ネフェレットが彼女へ向く。
小さく、意地の悪い光が目に戻っていた。
「そうしたら、ラフェルがあなたに謝ることが一つ増えるだけよ」
ネフェレットが余計なことを言い切る前に、俺は動いた。
一瞬前までネフェレットは両腕を上げて立っていた。
次の瞬間には、俺が彼女を片腕で抱え上げ、尊厳を他人の問題にする速さで歩き出していた。
「これは肩車ではないわ」
「温かくて馬鹿だ。基準を下げろ」
ソリチェラが笑った。
通り過ぎるついでに、その手首を捕まえて引っ張る。
彼女は一度つまずき、それからすぐに歩調を合わせた。
にやにやしている。
「逃げてる?」
「前進だ」
「女神を小脇に抱えて、僕の手を引いて?」
「お前たちはどちらも信用できない」
背後で、アリステルは半拍だけ立ち尽くした。
それから、フードの下で困惑した顔のままついてくる。
ミラはその横を歩いていた。
青白く、規律正しく。
アリステルが目をそらした。
「私は、ただ礼を尽くそうとしただけです」
ネフェレットは俺の腕からどうにか抜け出し、背中をよじ登って、肩の上に腰を下ろした。
そして顎を上げ、後ろへ向かって声を張る。
「もっと速く。わたしの守護者が戦略的撤退を試みているの。汗をかかせてやるわ」
俺は歩く速度を上げた。
アルダーヴェイルが待っている。
そして一部の沈黙は、こちらを侮辱し始めると、走って逃げる方が楽になる。
アルダーヴェイルへ近づくにつれ、古い轍は残っていた。
だが、その上を新しい跡が横切っている。
細い車輪。
重い車輪。
鉄輪の跡は規則正しく、商人の荷馬車にしては深すぎた。
次の坂で、脇腹が一度引きつった。
昨夜は助けになっていない。
密輸品みたいに女神を運んだことも同じだ。
俺が誤魔化すかどうか決める前に、ソリチェラが気づいた。
「止まって」
「嫌だ」
彼女は籠灯杖の先を俺の足首の後ろへ引っかけた。
俺は止まった。
従ったのとは違う。
ミラがすぐに振り返る。
顔色は悪いままだが、誰か別の人間が役に立つという可能性に腹を立てていた。
「私が確認します」
「まずはまっすぐ立ちなよ」
ミラの目が細くなる。
「処置は私の役目です」
「それで、僕はこの男が嘘をつくのを止める役」
俺たちの誰かが招く前に、ソリチェラは踏み込み、俺の外套を引いた。
指は迷わず肋骨の下の包帯へ向かう。
一度その横を押す。
次に、さらに下へ。
痣が皮膚の下でどす黒く沈んでいる場所へ。
俺は顔をしかめなかった。
彼女も顔を変えなかった。
アリステルが見たのは、そこだった。
視線がソリチェラの手から俺の顔へ動く。
そして、またソリチェラへ戻った。
「どうして、そこを見るとわかったのですか」
ソリチェラの指が止まる。
半拍だけ。
それから、また動いた。
「そっちをかばって歩いてる」
アリステルが俺を見る。
包帯を見る。
正確に必要な場所へ置かれているソリチェラの手を見る。
嘘は、そのあいだを渡り切れなかった。
ソリチェラにも、それがわかった。
口元が引き締まる。
「昨夜、見たの」
アリステルの表情は変わらなかった。
尾は変わった。
外套の下で、一度だけ。
「そうですか」
わかっていない。
少なくとも、そうであってほしかった。
ミラが一歩近づき、水袋を差し出した。
ソリチェラは見もせずに受け取る。
なぜか、それでアリステルの口元がさらに固くなった。
ミラは、必要なものを知っていた。
ソリチェラは、見る場所を知っていた。
俺は、二人にされるがまま立っていた。
「傷は開いてない。ただ、似合ってる」
俺は自分の脇腹を見下ろした。
「痣がか」
「あんたに」
ソリチェラは包帯の確認を終え、必要以上の力で俺の外套を戻した。
アリステルはラバの横に立っていた。
手には何もない。
どこからどう見ても姫君だった。
そして、ほんの一瞬だけ、そのことがこんな道で何の役に立つのか、本人にもわかっていないように見えた。
ソリチェラが彼女へ目をやる。
「冒険者は生き延び方を覚えるんだよ。傷の見方も」
視線が俺へ走る。
「ほとんど傷でできてる男もいるしね」
俺は目をそらした。
アリステルも、一呼吸遅れて目をそらした。
肋骨の下の繋ぎは、黙ったままだった。
それが、だんだん意図的に思えてきた。
午後には、アルダーヴェイルが低地の向こうに姿を現した。




