第25話 青魔導士、檻の街で古い借りを取り立てる
背後では、検問のざわめきが戻っていた。
前方では、アルダーヴェイルが街路を開き、それを歓迎と呼ぶふりをしていた。
門の音が背後へ遠ざかるところまで来て、ようやくミラが口を開いた。
「フリルグレイヴ家の治癒薬を、教会への贈答品だと申告しましたね」
「役に立つものだと申告した」
「あれでは、奪われるために金まで払ったようなものです」
「お前が盾を持ったまま入れるように払った」
ミラの口が閉じた。
納得したからではない。
理解できてしまったことが、気に入らなかったからだ。
ラバはその瞬間を選び、道の真ん中で立ち止まることで意見を表明した。
珍しく、あの動物の方が正しい判断をしていた。
二つ先の通りで、教会の登録を受けた厩を見つけた。
隣接する宿の扉には、教会の検査印が何枚も打ちつけられている。
厩番は相場より高い金を取り、必要のないことまで書き留め、ミラの角を長く見すぎた。
それでも払った。
持って歩けるものだけを降ろした。
ソリチェラが片方の荷袋を持つ。
俺は鞄と書類を持った。
ミラはラバの荷袋を開け、黒塗りの箱を取り出すと、通りで余計な目を引く前に、飾りのない旅鞄へ移した。
厩番がラバをつなぐあいだ、アリステルはそのそばに立っていた。
この街では、動物一頭を置いていくことさえ、小さな裏切りに感じているような顔だった。
俺たちは街の奥へ進んだ。
アリステルはフードを深くかぶったまま、俺たちの横を歩いていた。
声は低かった。
「人間は、醜いですね」
外套の端を握る指に力が入る。
「壁を築き、法を書き、徽章を磨き、自分たちを文明人と呼ぶ。それなのに、止める者がいなくなった途端、獣であることを許されたように振る舞う」
俺は押印済みの書類を外套へしまった。
「ああ」
アリステルが俺を見た。
挑む目ではなかった。
謝罪もない。
訂正されると思っていたのに、何も否定されなかった者の、鋭く傷ついた驚きだけがあった。
俺は歩き続けた。
「だから憎しみは残る」
前方の鉄に囲まれた通りを見た。
「大半には、理由がある」
昼間だというのに、魔法灯は青白く燃えていた。
頭上を横切る蒸気管は、むき出しの血管に見える。
壁には、整然と貼り紙が並んでいた。
獣を登録せよ。
秩序は慈悲である。
異端を報告せよ。己を贖え。
ドワーフの鍛冶師が、光る術式で補強された銃の機関部を打っていた。
完成した銃には司祭が一挺ずつ祝福を与え、それから箱へ納めていく。
信仰と火力。
効率的だった。
アルダーヴェイルは教会領の内側にある。
安全な街道。
守られた運河。
説教と兵士の両方を養えるほど肥えた農地。
国境の街ではない。
魔物の棲む森の端にしがみつく、小さく怯えた砦でもなかった。
それなら、なぜ三軒に一軒の屋根に銃兵がいる。
なぜ交差点ごとに詰所がある。
なぜ市場の一車線だけ軌道車が退けられ、兵が素早く移動できるよう空けられている。
獲物に見えないよう、俺はさりげなく上を見た。
露台。
鉄の渡り廊下。
屋根。
白い外套。
真鍮の兜。
通りへ向けて下げられた銃口。
城壁の外ではない。
街の内側へ向いていた。
自分たちの住民が敵になると考えていなければ、これほど多くの銃口を街の内側には向けない。
「これは文明ではありません」
アリステルが低く言った。
「文明だ」
俺は答えた。
「お前たちのものではないだけだ」
「まあ。今は煙と鉄で祈るのね。ずいぶん工夫したものだわ」
「大きな音がする祈りの方が、答えは早いらしい。ブランを探す。目立つな。それと、贈答品のことを聞かれたら――」
ソリチェラが笑った。
「僕たちは、とても気前がいい」
「違う。俺たちは、とても馬鹿だ」
ミラが俺を見た。
「ようやく信じられる申告が出ましたね」
ソリチェラは少し前へ出た。
深くかぶった帽子の下から、鋭い目だけが周囲を追っていた。
巡回の経路を読む。
どの路地に見張りがいるか。
神殿騎士が通ると、どの店主が会話をやめるか。
二度ほど、何も言わずに進路を変えた。
街が餌として用意した会話を避けたのだ。
「この街に詳しいのですか」
ミラが聞いた。
「こういう街に詳しいんだよ。ここは管が少し立派なだけ」
余計な注意を引かずに、商業区を抜けた。
どこを見ても、アルダーヴェイルはまだ認めていない何かに備えていた。
穀物袋の横には、布をかけた弾薬箱が積まれている。
教会の印をつけた少年たちが、槍の柄を束にして人混みの中を運んでいた。
高台では司祭が名簿を読み上げ、その横で二人の書記官が別々の帳簿へ名前を書き写している。
志願者。
札には、そう書かれていた。
列にいる者たちは、志願と呼べるほど自分から並んでいるようには見えなかった。
一区画先で、脇道に面した中庭の周囲だけ、人の流れが薄くなっていた。
良い兆候ではない。
教会の天幕の下に、亜人たちが列を作っていた。
司祭が、水晶を先端につけた杖を手に、列の前を歩いていた。
一人ずつ杖をかざすたび、水晶が低く唸った。
神殿騎士たちは、何人かの肩に白い印をつけていた。
身体の大きな者。
強そうな者。
ミラが立ち止まった。
ソリチェラが、その袖を掴んだ。
「歩きな」
ミラは動かなかった。
司祭の声が通りまで届く。
「戦える年齢。丈夫な身体。洗礼候補」
司祭は、背中の曲がり始めた狼の獣人の前で止まった。
古い怪我か。
飢えか。
疲労か。
見分けはつかなかった。
司祭は杖を上げた。
「秩序は慈悲である」
狼の獣人は答えなかった。
司祭は待った。
中庭も一緒に待った。
「秩序は」
司祭が繰り返した。声は穏やかだった。
「慈悲である」
狼の獣人の口が動いた。
声は出なかった。
背後にいた神殿騎士が、その腹へ拳を叩き込んだ。
狼の獣人の身体が折れる。
倒れるほどではない。
神殿騎士は首輪を掴み、期待外れの荷物でも扱うように、無理やり立たせた。
司祭がため息をつく。
「慈悲は、受け取る前に学ばねばならない」
白ではなく、黒い印を狼の獣人の肩へつけた。
二人の神殿騎士が、彼を列の外へ引きずっていく。
アリステルの手が細剣へ伸びた。
俺はその手首を掴んだ。
指が氷のように冷たかった。
怒りだ。
「ここでは駄目だ」
低く囁いた。
アリステルの目は、中庭から離れなかった。
俺の手の中で、手首が一度震える。
それから、止まった。
司祭たちが立つ天幕の上には、古い告示を覆うように、別の貼り紙が貼られていた。
洗礼奉仕は従順な者を守る。
その下には、こうあった。
異端は呪いを招く。
それが教会だった。
教会は、誰かのせいにできる苦しみを好む。
責める相手に身体があれば、なお都合がいい。
選別が終わる前に、俺は全員を脇道へ誘導した。
石壁が俺たちを囲んだ。
ここには、鉄を重ねられる前の古いアルダーヴェイルが残っていた。
細い路地。
ひび割れた側溝。
魔力の尽きかけた灯。
何度も塗り直された看板と、半分閉じられた鎧戸。
蒸気はここまで届いていない。
慈悲も同じだった。
アリステルは、俺の手からゆっくりと手首を抜いた。
「集めているのですね」
「徴用だよ。悲鳴を神聖に聞かせたい時は、洗礼と呼ぶ」
ミラの声は低かった。
「戦争のためですか」
「戦争。労働。見せしめ」
ソリチェラは前を見た。
「どの部署に先に回されるかで変わるね」
アリステルの顔から、すべての動きが消えていた。
「あの者たちは――」
「駄目だ」
思ったより強い声が出た。
アリステルが俺を見る。
俺も見返した。
「駄目だ」
今度は、少し声を落とした。
「あの中庭で剣を抜いても、何も成し遂げられない。お前自身が同じ列に加わるだけだ」
「では、何もしないのですか」
「今は、そうだ」
ネフェレットの視線が、居心地が悪くなるほど長く俺に留まった。
それから、静かに口を開いた。
「たいていの街は、敵を閉じ込めるために檻を作る。この街は、いつか同胞になり得る者のために檻を作るのね」
俺は歩き続けた。
次の軌道橋の下に、東市場があった。
管と煙と、汚れた天幕の下に半ば隠れていた。
そこまで来ると、教会の札は少なくなった。
なくなったわけではない。
もっと古い警告に場所を譲っただけだ。
返品不可。
掛け売りなし。
ブランの店は、皮なめし工房と閉まった質屋の間に挟まれていた。
どこを叩けばいいか知らなければ、廃屋にしか見えない店だった。
俺は扉を叩いた。
一度。
二度。
間。
もう一度。
扉がわずかに開いた。
片目だけが隙間からこちらを見た。
瞬きをし、それから細くなった。
「……お前か」
扉が閉まった。
俺はもう一度叩いた。
今度は少し広く開いた。
ブランは、俺が浅い墓から這い出し、悪天候まで連れてきたとでもいうような目で見た。
「生きていたのか」
平らな声だった。
「お前もな。礼はいい」
残った目が引きつった。
それから、視線が俺の肩越しへ滑る。
ソリチェラが、気だるそうに指を二本上げた。
「やあ、ブラン」
扉が閉まった。
俺はまた叩いた。
返事はない。
ソリチェラは扉を見た。
「まあ、そうなるよね」
三度目に叩いた。
扉が、今度は大きく開いた。
ブランは俺たち二人を睨んだ。
「断る」
「必要なのは――」
「断る。お前たち二人が一緒に立っている。用件が何であれ、答えは同じだ。断る」
ソリチェラが籠灯杖を背中へ隠した。
「元気そうだね」
「金を返しに来たなら、払って――」
「あの倉庫には保険がかかっていた」
俺は、続きを言わせる前に割り込んだ。
ブランが睨む。
「荷車を囮に使うと言ったな」
「うまくいった」
「俺を乗せた」
「在庫を守りたいと言ったのはお前だ」
「あいつらは俺を殺すつもりだった」
「騙した買い手にばれれば、そうなる」
「それでも、お前は撃たれないと約束した」
ブランがソリチェラを指した。
「それにお前だ。帳簿を燃やせとは言った。建物を燃やせとは言っていない」
「帳簿は建物の中にあった」
「机の上だ」
「そのあと、机も火になった」
「計画が失敗したのは、誰かが早すぎる段階で、違う男を刺したからだ」
「僕に気づいたんだよ」
「お前たち二人とも知られていた」
「だから火が役に立った」
ブランは俺を見た。
それからソリチェラを見る。
そして、また俺を見た。
「お前たちは俺を囮にして、倉庫を焼き、それで救出したと言い張るのか」
「生き残っただろう。騙された買い手たちよりは、ましな結果だ」
アリステルの耳が後ろへ倒れた。
「では、彼がソーン殿に借りがあると仰っていたのは……」
「ある」
アリステルは俺とソリチェラ、それからブランを順に見た。
「違います。皆が互いの弱みを握っているだけではありませんか」
口元が固くなる。
「……よくわかりました」
そこでようやく、ブランは彼女をまともに見た。
視線が、旅装の留め具に刻まれた紋章で止まる。
その半歩後ろには、角を持った裁きそのもののようなミラが立っていた。
ブランの顔から血の気が引いた。
「その紋章は」
アリステルは答えなかった。
ブランはソリチェラを見る。
それから俺。
「何をした」
「護衛した」
ブランは待った。
「フリルグレイヴまで」
黙ったまま、さらに続きを求める。
「それから、アルダーヴェイルまで」
ブランは目を閉じた。
「一度くらい、小さな犯罪で済ませられないのか」
ネフェレットが微笑んだ。
そこで、ブランは彼女に気づいた。
口が開く。
それから閉じる。
彼は脇へ退いた。
「地下へ。誰かに彼女の正体がばれる前に。お前たちのどちらかが見つかる前に。あれが何なのか知られる前に」
俺はネフェレットの後頭部に手を置き、扉の中へ導いた。
ブランはその様子を見て、さらに不安そうな顔をした。
「俺はきっと、この扉を開けたことを後悔する」




