第16話 青魔導士、猫耳姫に人間の街の歩き方を教える
昼前には、フリルグレイヴはもう背後にある気配でしかなくなっていた。
道は古い丘陵とまばらな森のあいだを下り、ところどころに休憩所や交易所が挟まっている。
どこも、余計なことを尋ねるほど不用心ではなかった。
隊商はまだ、両方向に行き交っていた。
商人。
巡礼者。
護衛。
道は死んでいない。
ただ、細っていた。
最初に目についたのは、隙間だった。
北へ向かう荷馬車が少ない。
御者たちは背後を気にしすぎる。
旅人たちは、いつものように道の不満を交換するために足を止めなくなっていた。
次に気づいたのは、人々が目をそらす速さだった。
俺たちのような一行なら、本来は視線を集めるはずだった。
盾を背負い、拒絶するために作られたような顔をした角付きの侍女。
フードをかぶり、腰にレイピアを下げ、姿勢に緊張を宿しすぎたネコジンの貴族。
裸足で、白髪で、境界という概念の雑さが神の法になったみたいに埃の中を漂う異物。
そして、善良な人間ならさっさと見誤っておきたい種類の男にしか見えない俺。
ネフェレットは俺たちのあいだを裸足で歩き、時折わざと水たまりに足を入れては、足首の周りで水が逃げるのを楽しんでいた。
だが、誰も長くは見なかった。
一度見る。
何かを察する。
そして歩き続ける。
商人たちはネフェレットに道を譲った。
御者たちは、必要以上に荷車を外へ寄せた。
道端の冒険者らしき一団でさえ、彼女が通る時には半歩ずれた。頭が追いつく前に、身体の方が何かを理解したみたいに。
ネフェレットは、褒められたばかりの顔で微笑んだ。
「わかるでしょう?」
彼女は囁いた。
「人は、名づけられないものを感じるの」
「始めるな」
彼女は面白そうに俺を見上げる。
「もう苛立っているのね。わたしは観察しているだけよ」
アリステルは、俺たちより一歩先を歩くようになっていた。
それは新しかった。
進むほど、彼女は口数を減らしていった。
引きこもっているわけではない。
どちらかといえば、同時に多すぎる考えを抱えながら、そのどれも肩の線から漏れないようにしている女の歩き方だった。
彼女が少し前に出すぎると、肋骨の下で繋ぎが一度だけ脈打つ。
アリステルは振り返らずに距離を直し、引きつりはすぐに消えた。
道が低い丘を回り込む。
その下、杉林の中に、道端の祠があった。
いや。祠だったものがあった。
門前の小さな石狐は、倒されていた。
祈りのリボンは、柱の一本から灰色の切れ端になって垂れている。
賽銭鉢は空にされ、草むらの中で逆さまに放置されていた。
血はない。
焦げ跡もない。
混乱や争った痕もない。
ただ、手順を踏んで行われた放棄だけがあった。
意図的だと感じるには、十分すぎるほど整っていた。
ネフェレットが歩みを緩めた。
彼女の周りの空気が、ほんの少しだけ変わる。
何も言わず、祠を見つめていた。
ミラの手が腰の鞄の革紐へ向かう。
アリステルの指は、レイピアの柄の近くで止まった。まだ触れてはいない。
俺は一度だけ見て、十分だと判断し、そのまま歩き続けた。
「空なら時間の無駄だ。空じゃないなら、今日はもう別の女神に会う気はない」
ミラが一度だけネフェレットへ視線を向けた。
「賢明な判断です。あなたの口から出ると不穏ですが」
「分別は配給制にしている」
アリステルは、壊れた祠へ目を向けるためだけに、少し歩みを緩めた。
「あれは、ただの破壊行為ではありません」
「違うな。棚卸しだ」
彼女の目がわずかに細くなる。
俺は顎で、逆さまになった賽銭鉢を示した。
「ここを通った連中は、何を持っていき、何を残すべきか知っていた。信仰を部品取りにしたんだ」
ミラが俺の視線を追う。
「教会ですか」
「信仰を量り売りする盗賊かもしれない。あるいは、都合の悪い聖域を片づけて、それを衛生管理と呼ぶ教会の連中かもしれない」
ネフェレットは、さらに一瞬だけ祠を見つめていた。
それから、ひどく平坦な声で言った。
「誰がやったにせよ、反撃される前にどこまで奪えるか、試していたのよ」
その言葉が、しばらく空気の中に残った。
誰も反論しなかった。
昼頃には、太陽が高くなり、道は馬鹿みたいに明るくなっていた。
ミラは小さな木立のそばで足を止めた。
近くには、沢と呼ぶには細すぎる水の流れがあった。
だが、澄んではいる。
信用するには十分だった。
彼女は尋ねなかった。
ラバに水を飲ませ、木々を確かめ、一度の視線で日陰を測る。
それから俺たちを見る。
異議は記録され、後で処罰されると言わんばかりの目だった。
だから、俺たちは止まった。
ミラはパンと燻製肉、干し果物を配り、いつ荷物に入れたのか見た覚えのない薬缶から茶まで注いだ。
つまり彼女は魔法使いか、この世で最も腹立たしいほど準備のいい女のどちらかだった。
俺は石を背に座り、横腹の包帯を彼女に調べさせた。抵抗して努力に見合うほどの気力はなかった。
ミラは包帯を一度締め直した。優しくはなかった。
「ここまで面倒を見られると、何か意味があるのかと勘違いしそうだ」
ミラは、欠陥のある機械を直す女の丁寧さで包帯を結んだ。
「姫様から聞いております。あなたはナイフの扱いに長けていると」
「ずいぶん好意的な評価だな」
「寛大な評価です」
ミラはもう一度包帯を確かめ、それから傷がまだそこにあることを思い出させる程度に、きつく引いた。
「昨日は、必要な人間を必要な場所へ素早く置きました。あれは技量より珍しく、たいてい技量より役に立ちます」
俺は彼女を見た。
彼女はこちらを見なかった。
「また同じことが起きた時、自分が実際より優れた戦士だと証明しようとしないでください。ソーン殿は姫様の刃ではありません。姫様が自分の刃を抜く時間を稼ぐ役目です」
「褒め方を心得ているな」
「褒めていません。最も信頼できる使い道を特定しているだけです」
それから、不本意そうに付け加えた。
「それと、昨日のことは。ありがとうございました」
俺は口を開いた。
ミラは、発言を断念させるのに十分な強さで結び目を締めた。
それから、何もなかったみたいな顔で、かかとの上に腰を落とした。
アリステルは最初、少し離れた場所に座っていた。
フードはまだ上げたまま。
両手で杯を持っている。
肩の線は、楽にしているにはまっすぐすぎた。
ネフェレットは、いつの間にか木立の端まで歩いていた。
低い枝に林檎が一つぶら下がっている。
低い、というのは、どうやら背の高い連中が発明した言葉らしい。
彼女はその下に立ち、片手を上げて、伸ばした。
届かなかった。
もう一度伸ばす。
失敗が見える程度に、きっちり届かなかった。
それから彼女は腕を上げたまま、淡い袖を手首から滑り落とし、顔は穏やか、姿勢は高貴に、世界全体がしばし反省の時間に入り、準備が整えば自ら正されるのを待っているみたいに立っていた。
助けは求めなかった。
それをやると、演目が台無しになるからだ。
アリステルは彼女を見ていた。
しばらく。
さらに、しばらく。
俺はアリステルが負けるところを見た。
彼女は杯を置き、草の上を横切り、無言でネフェレットを両脇から抱え上げた。
ネフェレットは、君主が水たまりを越えるために運ばれているような、静かな威厳でそれを受け入れた。
十分な高さになると、彼女は枝から林檎をもぎ取り、手の中で一度転がし、収穫物が正当な持ち主を認めたとでも言いたげに微笑んだ。
アリステルは彼女を地面に戻した。
「ありがとう」
アリステルは頭を下げ、自分の場所へ戻った。
しばらく、俺たちは黙って食べた。
東へ伸びる道は、アルダーヴェイルへ向かって曲がっていた。
その朝、ネフェレットが俺たちに告げた名だ。
場所の名を言うことが説明と同じだとでも思っているように。
人間の街。
教会の支配下。
鉄の城壁。
フリルグレイヴの交易路にとって無視できないほど近く、フリルグレイヴの慣習からは、距離が無罪を装える程度には遠い。
しばらくして、アリステルが俺を見ないまま尋ねた。
「アルダーヴェイルを知っているのですか」
「ああ。知りたかった以上には」
ミラが指の間で杯を一度回した。
「では、必要なことを教えてください」
俺はパンを一切れちぎり、木々の向こうに続く道を見た。
「門では、君たちが何者かを尋ねてはこない。先に決める。そして、それについてこちらが揉めるかどうかを見る」
アリステルの視線が上がった。ミラの視線は上がらなかった。もう平坦になっていた。
「まず名前」
「次に出身、後ろ盾、行き先、用件。人間は質問される。亜人は分類される」
アリステルの尾が止まった。
「分類とは?」ミラが尋ねる。
「労働者。使用人。護衛。持ち主のいない厄介者」
ミラの口元が薄くなる。
「間違って分類されたら?」アリステルが聞いた。
「される」
彼女の指が杯を握る力を強めた。俺はそこで、彼女をきちんと見た。
「まず、それを理解しておけ。フリルグレイヴでは、君の名前が君より先に部屋へ入る。アルダーヴェイルでは、君の耳が先に入る。名前は、それを粗末に扱うことが面倒だと思わせてから初めて意味を持つ」
彼女の顔は変わらなかった。
「フードは、外せなくなるまで上げておけ」
「獲物みたいに隠れるな。挑発みたいに見せるな。レイピアは見えるままにしておけ。いい鋼は、役人に一部の間違いが取り返しのつかないものだと思い出させる」
アリステルは腰の剣へ目を落とした。
ミラが短く聞く。
「私は?」
「近くにいろ。ただし、揉め事を待っている顔はするな」
「待っていますが」
「知っている。向こうに教える必要はない」
ミラの口元が引き締まった。
「向こうは、一番反応しそうな相手を探す。自分から名乗り出るな。侮辱されたら、受け流せ。アリステルが侮辱されても、俺に答えさせるか、流せ」
ミラの目が硬くなる。
「流すのですか」
「ああ」
アリステルが俺たちを見比べた。
「挑発される、と考えているのですね」
「服従を屈辱に見せかけて、あとは誇りが勝手に仕事をするのを待つ。そういう連中だと思っている」
ミラの手は、いつの間にか盾の革紐へ寄っていた。
それが、ゆっくり下がる。
「もし君たちを引き離そうとしたら、理由を言わせろ。丁寧に。ゆっくり。説明させればさせるほど、こちらが選べる余地が増える」
そこでミラは理解した。
汚いことを、相手の口からはっきり言わせる。
「それでも押し通されたら?」
「その時は、馬鹿なことをする前に、役に立つ情報を得る」
アリステルは道の方を見た。
「では、女神様は?」
ネフェレットは立ち上がり、その場で一度くるりと回った。
淡い衣の裾が、見えない宮廷へ自分を披露するみたいに揺れる。
「わたし? 見ての通り、愛らしい奇跡よ」
「祠関係の厄介事だな」
彼女の笑みが広がる。
「それで通る相手なら、苦労はしません」
ミラが言った。
「でしょうね」
俺はネフェレットを見た。
「だから、まだ考えている」
ネフェレットは林檎を上品にかじり、誰かの厄介事であることを満喫している顔をした。
ミラが少し身を乗り出す。
「姫様が直接問われた場合は?」
「答えすぎるな」
アリステルの顎が上がった。
「私は自分で話せます」
「知っている。だから厄介なんだ」
彼女の目が鋭くなる。
俺は、誇りが返事をする前に片手を上げた。
「同じ規則だ。向こうが差し出した言葉より、多く返すな。説明を増やすほど、相手に掴ませる場所が増える」
アリステルは不満そうだった。
だが、反論はしなかった。
ミラはそこで杯を置いた。
「そこまで警戒する街なのですね」
「警戒で済むなら楽だ」
俺は静かに呻きながら立ち上がり、手のパン屑を払った。
「どこも戦には近い。アルダーヴェイルは、先に書類を用意する程度には正直なだけだ」
二人の顔が少しだけ硬くなる。
ネフェレットだけが、楽しそうに林檎をかじっていた。
「全員が不自然なくらい大人しく振る舞えれば、生きて入るには足りる」
俺は道へ目を向けた。
「進むぞ」
ミラもすぐに立った。
「それでも、姫様を宿に連れていくつもりですか」
「道が機嫌を損ねなければ、三時間だ」
「人間の宿ですか」
「人間が建て、人間が持ち、人間が湧いている。ああ」
彼女の目が細くなる。
「私が何を聞いているかわかっている時に、冗談を言わないでください」
俺はアリステルを見た。
耳。
尾。
骨にまで染み込んだ姿勢。腰の高価な剣。貧しい男を見つめさせ、裕福な男に計算させる類の美しさ。
「姫様は目立ちます」
ミラの声は低かった。
「ああ。たぶんな。君も目立つ。ネフェレットも目立つ」
ミラはアリステルの方を向いた。
アリステルはそこで立ち上がった。
静かに。
迷いなく。
「行きます」
「姫様」
「アルダーヴェイルがそれ以上に悪い場所なら」
アリステルはフードを直しながら言った。
「街門で学ぶより、宿で学んだ方がましです」
ミラはそれを気に入らなかった。訂正の言葉が出てこなかったので、よくわかった。
俺は荷物を取った。
「歩くぞ」
俺たちは歩いた。
夕方近くになると、道はまた狭くなった。
人通りもそれに合わせて細っていく。
金回りのいい隊商は、もう安全な宿場へ消えていた。
高い壁と、きれいな帳簿のある場所だ。
残っているのは、軽い荷車、疲れた巡礼者、片手を財布の近くに、もう片手を刃物の近くに置くような男たちだった。
そして、光が琥珀色へ薄まり始めた頃、宿が見えてきた。道から少し外れた場所にあり、低い石垣と、古びて傾いた二本の灯柱の奥に建っている。
二階建て。黒い木材。瓦屋根。継ぎ当てされた雨戸。片側には厩が付いていた。裏の煙突から、まっすぐ煙が上がっている。
ああいう場所は、売るべき慰めの量と、誰か重要な人間が答えを欲しがるまで尋ねない方がいい質問の数を知っているから生き残る。
金を払い、厄介事を扉の中へ連れ込まない限り、旅人は旅人でいられる場所だ。
門の上で、吊り看板が軋んでいた。描かれている紋は、昔は葦の束をくわえた狐だったらしい。時間と天候と放置のせいで、今では狐と警告の中間みたいなものになっていた。
ミラは石垣、厩の扉、台所の煙、建物と木々のあいだの暗い隙間を見た。
「出口は三つ」
「誰かが本気で慌てれば、窓も出口になる」
彼女は平らな目で俺を見た。
その話題は、続けても互いのためにならなかった。
歪んだ硝子と継ぎ当てされた雨戸の隙間から、灯りが漏れている。中から声がかすかに聞こえた。一度、笑い声。食器の音。誰かが必要以上に強く杯を置く鈍い音。
厩の臭い。煮込み。古い木。湿った土。
俺たちが扉へ着く前に、アリステルはフードを直した。
大げさではない。
耳を少し隠し、喉元の白い線に影を落とす程度だ。
フリルグレイヴでは、彼女は姫だった。ここではもう、自分を小さく見せることを学び始めていた。
ネフェレットは、穏やかな興味を浮かべて扉を眺めていた。人間の疑心を、見学に来た土地の風習のように見ている顔だ。
「中には、役に立つくらいの人数がいるわね」
彼女が囁いた。
俺は彼女を見た。
「どう役に立つ」
すぐには答えなかった。
中からまた笑い声がした。
短く、荒い。
そのあとに、女の声がそれを切った。
無害な人間の声にしては、早すぎる切れ味だった。
ネフェレットの笑みが深くなる。
「人は、自分を大事な者に見られていないと思った時に、何を崇めているかを見せるの」
「慰めにならないな」
「慰めるつもりはないわ。人は、安全だと思った直後が一番正直なのよ」
ミラは三語と一睨みでラバを厩番の少年に預けた。
少年は、生まれ育ちで身につかなかった姿勢を、その場で手に入れて背筋を伸ばした。
俺は外套を整え、横腹の引きつりを感じ、今夜というものを原則として嫌うことに決めた。
そして、俺たちは酒場へ入った。
最初に熱が来た。
次に灯り。
それから、旅人たちが一、二時間だけでも道が壁の外に続いていることを忘れようとしている、密で重なり合った音。
奥の席には商人の一団。
炉端には地元の衛兵が二人。
巡礼者が二人、スープに謝っている男たちみたいに椀へ顔を伏せていた。
隅の席に、継ぎ当てだらけの黒革をまとった女がいた。
椅子にもたれ、片足を卓の縁に乗せている。
隣には、真鍮の籠灯を先端に取り付けた杖が立てかけられていた。
灯は消えている。それでも金属の周りには、ついさっきまで熱を持っていた名残があった。
記憶より小さく見えた。
あるいは、周りの連中が昔より大柄に見えるだけで、彼女は今も同じように部屋の空気を切り裂いていたのかもしれない。
華奢さを、手の込んだ侮辱みたいに見せるやり方で。
ソリチェラは、細く、しなやかで、布が垂れるのではなく貼りつく種類の身体をしていた。
細い腰。
引き締まった脚。
小さく締まった胸は、短い革の上衣の下で半ば押さえられている。
その上衣は、慎みが目的だったという嘘をとっくに諦めた低さまで切られていた。
革紐が肋骨の上を交差し、片肩の破れた袖なし上着の下へ消えている。
留め具は多すぎて、偶然とは言えなかった。
動くたびに、短い革の上衣と低い腰帯のあいだから白い腹が少し見えた。
そこには古く薄い傷があり、隠すという行為そのものを仮定の話にしてしまう、雑で無造作な自信があった。
黒いニット帽が、乱れた黒髪の上に深くかぶさっている。
小さなネズミ耳がそこから突き出ていて、片方の縁には、彼女が顔を動かすたびに灯りを拾うほどのピアスが並んでいた。
尾は椅子の横にだらりと垂れ、向かいの商人が言った何かに苛立ったように、ゆっくり一度揺れた。
それから、彼女は顔を上げた。
俺が見たと認める準備ができる前に、ソリチェラは俺を見つけていた。
向かいの商人はまだ話していた。
北向きの荷。教会の検問。薄くなる利幅。商売を悲劇に聞かせたがる男たちがよく口にする、いつもの道の愚痴だ。
彼女はその途中から、もう聞いていなかった。
目が俺を見つけ、そのまま離れない。
一呼吸。
あるいは二呼吸。
黒いニット帽の縁の下から、彼女は部屋の向こうで俺を見ていた。俺が彼女という事実を前に、何かをするかどうか待っているみたいに。
俺の手はまだ荷物の紐にかかっていた。
隣では、ミラがすでにこちらの変化に気づいている。
アリステルはレイピアに手を伸ばしてはいなかったが、その可能性だけが姿勢の中を横切っていた。
俺のすぐ後ろで、ネフェレットが喉の奥で小さく満足そうな音を立てた。
ソリチェラは目をそらさなかった。
やがて、口の端が動く。
彼女は椅子にもたれたまま、卓の誰に言うでもなく、完全に俺へ向けて言った。
「へえ」
向かいの商人が瞬きをした。
「何が?」
ソリチェラは彼を見なかった。
「へえ」
今度は少し明るく、少し意地悪く言った。
「悲しみってやつも、いつの間にか冗談を覚えたらしいね。それとも、ラフェル・ソーンがしぶとく生きてただけ?」




