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第14話 女神、訓練場に本物の厄介事を放つ

空気が変わった。

訓練庭にいた衛兵全員が、それを感じた。

巫女たちも同じだった。


桟敷の下に控えていた年配の家臣たちが、まったく同じ瞬間に背筋を伸ばす。


つまり、この家の人間は知っているのだ。

あの柱が、余興のために勝手に灯るものではないと。


ソーレン隊長の顔が硬くなった。


「何をなさったのです」


ネフェレットは、誰かが正面から聞いてくれたことが嬉しいらしかった。


「理不尽なことは何も」

「少し古い約束を起こしただけよ。この街が彼に信仰を置くつもりなら、ただの型稽古より意味のあるもので試した方がいいでしょう?」


柱の光が深くなる。足元の石灰の線が、骨のように白く燃え始めた。


ミラの手は、すでに腰の治療鞄へ伸びていた。アリステルの手はレイピアへ。


俺の手も腰のナイフへ行っていた。


見世物の皮をかぶった災難だと気づくより先に、身体が動いていた。


「具体的に、何を起こした」


ネフェレットの笑みが小さくなる。

興味深そうで、腹立たしい笑みだった。

「勉強になるもの」


一番近い柱の根元で、石が割れた。

一度。

そして、もう一度。


ソーレン隊長が、訓練庭を真っ二つに切り裂きそうな鋭さで命令を飛ばした。


衛兵たちが動く。

俺たちも動いた。


その瞬間、これは芝居ではなくなった。


柱の中から、何かが這い出してきた。

一度にすべてではない。

最初は手だった。

大きすぎる。

関節が多すぎる。


白い石に、金色に光る祈祷文字の帯が巻きついている。


指先には漆黒の爪。


それが訓練庭の床を一度だけ鳴らした。

かちり、と。

続いて腕。

肩。


幾層にも重なった神木と、古い骨色の石で組まれた胴の気配。


それらを、光の帯と、日に焼けて色褪せた布の垂れが繋ぎ止めている。


その布がまだ形を保っていること自体、おかしかった。


最後に、仮面の顔が現れた。


滑らかで、楕円形で、ほとんど美しい。

口があるべき場所の細い裂け目が開き、淡い炎の息を朝の空気へ吐き出すまでは。


近くの衛兵たちがたじろいだ。


ソーレン隊長は違った。


「盾!」


吠えた。


それは、大きなものと神に近いものだけが許される速度で動いた。


一瞬前まで、柱から半分だけ生まれかけていた。


次の瞬間には、白と金の霞になって訓練庭の半分を越え、まだ組み切れていなかった盾の列へ鉤爪の腕を叩き込んでいた。


人が飛んだ。

投げ飛ばされた。

鎧と息をまとめて鳴らすほど、激しく。


ミラはもう動いていた。


まるで、この朝ずっと理由を待っていたみたいに、訓練用の武器掛けへ飛び込む。


片手で重い訓練盾を外し、もう片手で刃を潰した横槌を引き抜いた。


最初の守護像の背後で、二本目の腕が柱を突き破った時には、彼女はもうアリステルの前に立っていた。


足を広く据え、盾を低く斜めに構えている。


「姫様」


ミラは振り返らずに鋭く告げた。


「左です。足を止めないでください」


アリステルのレイピアが、同じ呼吸の中で閃いた。


ためらいはない。

震えも、もうない。

ただ、硬く、明るい静けさだけがあった。

恐怖を怒りの代わりにできるふりを、彼女がようやくやめた時、雨の中で一度だけ見たあの静けさだ。


また、訓練庭に亀裂の音が走った。

続いて、もう一つ。

残り三本の柱が順に灯り、砕けていく。


「ネフェレット!」


俺は桟敷を見上げて叫んだ。


「もう十分だ」


彼女は、蟻が火を見つける様子を眺める子供みたいに、彫刻の入った衝立へ頬杖をついていた。


「いいえ」


楽しそうな声だった。


「あなた、退屈していたでしょう」


「ここまでとは言ってない」


「ん。でも、わたしは欲しかったの」


最初の守護像が突進してきた。


ミラが正面から受けた。


鉤爪の腕が盾に叩きつけられ、訓練庭全体に鐘を打ったような音が響く。


彼女の靴が石の上を手のひら一つ分ほど滑った。

肩が沈む。

腰が据わる。

そして、そこで止まった。


彼女の構えの中で何かが変わり、落とし格子が下りるような嫌な確かさで固定される。


ストーンウォール。


それがもう一度、彼女を殴った。


今度は一歩も下がらなかった。


守護像が押す。


ミラは盾を荒々しく突き返し、その腕をほんの少しだけ線から外した。


その隙に、アリステルが間合いの内側へ滑り込む。


ライトステップ。


盾の縁を越える動きは、まるで線の方が彼女を捕まえていられなくなったようだった。


レイピアが一度、肘の継ぎ目へ閃く。

もう一度、喉へ。

さらに、正確な圧の連なりが続く。


普通の男なら一つの動きだと思ったまま死ぬ速さだった。


シルバーレイン。


刃が、古い木と白い石を一つの身体に縛りつけている光る文字を、一撃ごとに掠める。


切っ先から金の火花が散った。

守護像がよろめく。


右手の柱から、二体目が完全に落ちてきた。


衛兵たちが立て直すより早く、横の隊列へ突っ込む。


槍が折れた。


誰かが叫んだ。


ソーレン隊長が、衛兵たちを楔形に組ませる。


命令というものが祈りに一番近づくのは、怒鳴り声になった時だと、とっくに諦めている男の声だった。


俺の手札は、相変わらず見栄えがしなかった。


ナイフ。

短鉈。

そして、射程が個人的な侮辱程度しかない新しい術が一つ。


最初の守護像が、ストーンウォール越しにミラを半歩押し戻す。


アリステルは仮面の裂け目を狙って突いたが、相手の頭があの巨体に許されるべきではない速さで横へ跳ね、一指分だけ外れた。


空いた手が、白い霞となって彼女へ回り込む。


考えるより先に動いていた。


俺のましな判断は、だいたいそこから始まる。


肩からアリステルにぶつかり、二人まとめて横へ滑らせた。


次の瞬間、彼女が立っていた石畳に鉤爪が叩き込まれ、床が砕けて窪む。


熱い線のような痛みが、脇腹と肩を噛んだ。


一拍遅れて、アリステルが鋭く息を呑み、自分の肋骨を押さえる。


繋ぎ。

そうだった。


俺が裂かれれば、彼女は利息を払う。


アリステルは俺の下でもがいた。


怒りと青ざめた顔色が、きれいに半分ずつ混ざっている。


「私たち二人を殺すおつもりですの?」


「常にだ」


俺は彼女を引き起こした。


「ついてこい」


守護像がこちらを向く。


仮面の裂け目の奥で、金色の炎が揺れた。


俺は二本の指を向け、あとは本能に任せた。


アークランスが応えた。


青い欠片が、前と同じ悲鳴のような圧をまとって指先から弾け、喉元の光る継ぎ目へまっすぐ突き刺さる。


一瞬だけ。

明るく、美しい一瞬だけ、俺は何か役に立つことをしたのだと思った。


次の瞬間、欠片は砕け、光の粒になって散った。


守護像は、ほとんど気にも留めなかった。


屈辱だった。


上からネフェレットが柔らかく笑う。


「遠すぎるわ」


声が降ってきた。


「浅すぎる。本気で撃つ気になったら、もう一度試してみなさい」


「最高の一発は、あんたの葬式まで取っておく」


守護像が俺へ向かってきた。


ミラが盾を構えて、その線へ割り込む。


俺の胸骨を粉にするはずだった一撃を、正面から受けた。


衝撃が、彼女の身体全体を貫く。


ミラは低く、獣じみた声を一度だけ漏らし、それでも耐えた。


アリステルはもう動いていた。


ライトステップ。

入る。

抜ける。

そして、ガードブレイク。


守護像の前腕を、力が弱点へ変わるぴたりとした角度で捉えた。


絡みを抜け、腕を外へ弾き出す。


わずかな時間だった。

だが、均衡を崩し、関節に走る祈祷文字の光を鈍らせるには十分だった。


俺は悪い角度から使い道を搾り取り、それを戦術と呼んだ。


二体目の守護像が衛兵を叩き伏せた。


南の柱の近くで、男の身体がまずい形に折れている。


ソーレン隊長が弓兵へ怒号を飛ばした。


矢が一斉に放たれる。

命中。

鳴った。

そして跳ねるか、死んだ木材へ無意味に突き立つかのどちらかだった。


三体目が武器掛けを飛び越えた。


神殿建築みたいな身体をしたものに許されるべきではない跳躍だった。


「ミラ!」


俺は叫んだ。


彼女は一度だけ見た。

それで十分だった。


近くには、訓練用の槍が積まれていた。


俺は両手と全体重を使って、武器掛けを蹴り倒す。


木と潰された穂先が、石畳の上へ派手に散った。


ちょうど、守護像が着地する真下へ。

足がばらけた柄を踏む。

滑る。

半拍だけ、線を失う。


ミラは即座にそこへ入った。

盾を低く。

肩をその後ろへ。


守護像の重さを、ほんの少しだけ上へ押し返して足場を崩す。


そして横槌を、膝上の光る継ぎ目へ叩き込んだ。


ボーンブレイカー。


殺意を込めて寺の鐘を殴ったような音がした。


関節が割れる。

守護像が傾いだ。


アリステルは、その隙間へすぐに滑り込んだ。


ライトステップが、壊れた脚の外側へ彼女を運ぶ。


ガードブレイクが、守護像の必死の裏拳を罰し、腕を線から引き剥がす。


そこへ、シルバーレイン。


傷ついた継ぎ目へ、正確で容赦のない突きが連なった。


仮面の裂け目から、金色の火が噴き始める。


無理に美しくあろうとしない時の彼女は、美しかった。


これだけ石の塊が暴れている最中に、考えるべきことではなかった。

それでも、守護像は死ななかった。


裏拳がアリステルを訓練庭の反対側まで弾き飛ばす。


彼女は石に叩きつけられ、転がり、それでも片膝で起き上がった。


口の端に血。

目には殺意。


俺の胸の周りで、繋ぎが締めつけられた。

血を咳き込む。


守護像は、また彼女へ向き直っていた。


そして俺の背後では、もう一体が北の柱から完全に生まれ落ちていた。


ソーレン隊長の隊列は、三体目に押されて崩れかけていた。


巫女たちは負傷者の襟や袖を掴み、後ろへ引きずっている。


訓練庭は、音と衝撃と、崩れていく陣形だけでできた場所になっていた。


俺は桟敷を見上げ、石畳へ赤を吐いた。


「わかった」


叫んだ。


「あんたの勝ちだ。従う。守護者ごっこもしてやる。これが何の教訓か知らないが、もう学んだ。終わらせろ」


ネフェレットは欄干から身を乗り出した。

白い髪が、落ちた光みたいに周囲へこぼれる。


「いいえ、屈服は簡単よ。目を開けたまま生き残る方が難しいの」


役に立つ男は距離を数える。

偉大な男は犠牲を数える。

いつか、誰かにそう聞かされたことがある。

俺は偉大さなんて信じていなかった。

だが、あの守護像とアリステルの喉の間にある距離が、何に値するかくらいは正確にわかった。


だから走った。


鉤爪が彼女へ振り下ろされる。


俺は全身でその腕へぶつかった。

肩。

体重。


両手で押し込んだナイフ。


手首の光る継ぎ目へ刃をねじ込み、神がかった石造りに自分から突っ込むとどれほど痛いのかを、もう一度学んだ。


結論から言えば、かなり痛い。


一撃は逸れた。


それで十分だった。


鉤爪はアリステルの頭を砕く代わりに、俺の脇腹を裂き、俺を石畳へ叩き転がした。


視界が白と金に滲む。

肋骨の奥を、痛みが引き裂いた。


一拍遅れて、アリステルがその場で半身を折る。


止められない息を漏らしながら、同じ場所を自分の手で押さえた。


近くで、彼女が俺の名を叫んだ。


それは新しかった。


次の瞬間、ミラが守護像へ叩き込んだ。


今度のボーンブレイカーは全身だった。


盾ごとその脇腹へ突っ込み、内側から門を蹴破るような勢いで横槌を打ち込む。


続けて、盾撃。


さらに盾撃。


ソーレン隊長の残った衛兵たちも、鉤付きの槍で同じ側面へ食らいついた。

倒すためではない。

もう、まともに綺麗に殺そうとしている者はいなかった。

向きを変えるためだ。


アリステルは、その隙を取った。


低く入る。

そこに、もう宮廷めいた磨きは残っていなかった。

ただ、正確で、容赦のない仕事だけがあった。


俺が開いた手首の継ぎ目へ、ガードブレイク。

崩れかけた肩を回り込む、ライトステップ。

そして、垂れ下がる誓い布が集まる胸の中心線へ、最後の一突きを深く打ち込んだ。


今度は、何かが砕けた。


訓練庭が閃く。


守護像は、糸を多すぎるほど切られた操り人形みたいに一度だけ震え、内側へ崩れ落ちた。


死んだ木片。

割れた祈祷札。

消えかける文字の光。


それらが雨のように散る。


俺は肺に空気を一つずつ戻し、肘をついて身体を起こした。


ちょうどその時、四体目の守護像が、白い仮面をこちらへ向けるのが見えた。


ネフェレットの声が降ってくる。

墓の上の夜明けみたいに冷たかった。


「ほら」

「ようやく集中してきたわね」


俺は石畳へ血を吐き、身体を押し上げた。


「止めろ」


「いいえ。見なさい」


残った守護像たちの動きが変わった。


荒れたわけではない。

賢くなった。


一体は、ミラと衛兵の線へ鈍く、容赦のない圧をかける。


もう一体はアリステルにつき、彼女が回り込もうとするたびに角度を潰す。


三体目は、巫女たちに引きずられている負傷者の方へ流れた。


俺は、他の誰より半拍早く気づいた。


「ミラ! 負傷者だ!」


彼女は見もせずに動いた。


巫女たちと振り下ろされる一撃の間に踏み込んだ瞬間、ストーンウォールが発動する。


盾が守護像の腕を受けた。


衝撃で、ミラは片膝をつく。


それでも、そこに残った。


巫女たちは、衣と悲鳴を絡ませながら負傷者を後ろへ引きずる。


ミラは二撃目を受けた。

そして三撃目も。


そのたびに、訓練庭そのものが彼女の背骨に個人的な恨みでも持ったみたいな音を立てる。


こめかみから血が流れた。

それでも彼女は、自分で失うと決めた分以外、一寸も譲らなかった。


ミラを叩きつけていた守護像は、深く踏み込みすぎていた。


アリステルを封じている方は、角度を潰すのが上手すぎて、彼女一人では胸の継ぎ目まで綺麗に届かない。


「アリステル!」


俺は叫んだ。


「腕だ!」


彼女の顔がこちらへ跳ねる。


俺は正面から守護像へ走った。

もっといい考えがあったからではない。


何かが役に立つ前には、まず馬鹿である必要があったからだ。


仮面がこちらを向く。


裂け目の奥に、金色の炎が溜まった。


俺は短鉈をその顔へ投げつけた。


重い刃が仮面に食い込み、ほんのわずかな間だけ止まる。


守護像が一瞬だけのけぞった。


その時には、もうアリステルが動いていた。


ライトステップが、振り払われる腕の下へ彼女を運ぶ。

ガードブレイクが肘の継ぎ目を打ち、崩れかけた祈祷文字を弾けさせながら、腕を外へねじり開いた。


「ミラ!」


彼女は、個人的な信念を持った破城槌みたいに片膝から立ち上がった。


ストーンウォールが解ける。


代わりに、前進する勢いが生まれた。


盾が守護像の胸へ叩き込まれ、胴体全体を後ろへ揺らす。


継ぎ目が開いた。


腕一本分の距離から、アークランスが悲鳴を上げて放たれる。


二人が俺のために作った傷口へ、まっすぐ突き刺さった。


今度は距離が合っていた。

今度は、食い込んだ。


胸の内側へ光の亀裂が走る。


腕を這い上がる熱が力なのか、それとも三十八年も拒まれてきたものを突然受け取った身体が正直に混乱しているだけなのか、俺にはわからなかった。


アリステルはもうそこにいた。


シルバーレイン。


一突き。

二つ。

三つ。

四つ。


もう優雅さはない。


ミラが守護像を崩したまま押さえ込む間に、開いた傷口へ容赦のない針仕事が叩き込まれていく。


守護像が痙攣した。


その背後でミラが立ち上がる。


片目に血。

両手に殺意。

横槌を同じ割れ目へ振り下ろした。


訓練庭全体の膝に響くほどの一撃だった。


それは砕けた。


その後、残りの二体は早かった。


型が見えたからだ。


ミラが支え、均衡を壊す。

アリステルが継ぎ目を開く。

俺が意味のある距離まで近づき、開いた場所を終わらせる。


醜い。

優雅ではない。

有効。


そして、沈黙が戻ってきた。


桟敷の下のどこかで、巫女の一人が泣き出した。


すぐに、生存本能の優れた誰かに黙らされた。


俺は崩れた訓練庭の中に立っていた。


脇腹は燃え、肩は悲鳴を上げている。


棚卸しできるほどの品位は、ほとんど残っていなかった。


アリステルは、まだレイピアを上げていた。


胸が速く上下している。


袖には血がついていた。


そのいくらかは、繋ぎ越しに俺のものだろう。


ミラは盾に、きっかり一呼吸分だけ体重を預けた。


それから、まるでこの数分間、訓練庭が彼女を石材に折り畳もうとしていたわけではないみたいに背筋を伸ばす。


ソーレン隊長は刃を布で拭い、桟敷を見上げた。


誰も先に口を開かなかった。


ネフェレットは、犯罪歴のある陽光みたいな顔で、俺たちを見下ろして笑っていた。


「今のは、見る価値があったわ」


俺は、震えていない方の手で彼女を指した。


「あれは試しじゃない」

「ただ、あんたが狂っているだけだ」


ネフェレットの顔がぱっと明るくなる。


「ええ。そしてこれで、自分がどれだけ強くならなければいけないか、正確にわかったでしょう?」


それで、俺は黙った。

主に、彼女が正しかったからだ。

俺は、彼女が正しい時が一番嫌いだった。


アークランスは、ミラとアリステルが傷口を作るまで、ほとんど意味を持たなかった。


俺のナイフも、自分がそれを使って殴られる覚悟をした場所でしか意味を持たなかった。


英雄的。

なのかもしれない。

ほかにまともな選択肢がなくなった時、男が英雄的になる、あの馬鹿げた意味では。


先に剣を下ろしたのは、アリステルだった。

ミラはアリステルの視線を追って俺を見た。


それから、不本意な報告書を修正する羽目になったみたいに、一度だけ低く唸る。


こめかみから血が流れていたが、それでも彼女は盾の後ろに立っていた。


朝食がきちんと終わる前に、訓練庭がもう一つ悪い思いつきから守られる必要があるかもしれない、とでも言うように。


ソーレン隊長が剣を収めた。


彼が何か言うより先に、上からネフェレットの声が降ってきた。


「いいえ」


訓練庭全体が上を見た。


彼女は壊れた桟敷の光の中に立っていた。

白い髪が、朝が何かの間違いで作ってしまったものみたいに、周囲へこぼれている。


「この街に、練習をしている余裕はないわ」

「もうね」


俺は手の甲で口元の血を拭った。


ネフェレットが、かすかに笑う。


「あなたたちは、フリルグレイヴ家が古い借金と、古い恥と、いつもの貴族的無能で死にかけていると思っている」

「それなら、まだ優しい方だったでしょうね」


フリルグレイヴ卿が、その場で固まった。


ネフェレットの視線は訓練庭を越え、屋敷を越え、街の外へ続く道の方へ流れていく。


「商人が減った理由がある」

「隊商が遅れ、荷を減らし、あるいは戻らなくなった理由がある」

「城壁の外の祠が、一つずつ沈黙していく理由がある」

「道が、そこに何かが見える前から、おかしく感じられるようになった理由がある」


誰も動かなかった。


俺は宿を思い出した。

鎖につながれた死者。

ロットに冒された猪。

清浄な空気と腐った中心を持つ、山の廃神殿。


ネフェレットの目が、再び俺たちへ下りてくる。


「あなたたちは、不運だけに首を絞められているわけではない」

「その中を、何かが動いている。下を這っている。あなたたちの城壁と、信仰と、交易と、誇りの隙間を食べている」


俺は鼻からゆっくり息を吐いた。


「それで、行き先はもう決めてあるわけだ」


「もちろん、わたしは小さいだけで、無計画ではないもの」


アリステルが前に出た。

袖に血がついていても。

石が砕けていても。

何もかもが起きた後でも。


「私の街が脅かされているのなら」


声は、力ずくで平静を保っていた。


「私はここに残るべきです」


ネフェレットは彼女を見た。


「いいえ」

「あなたの街が脅かされているのなら、ここに残って、事態が悪化するのを綺麗に待つことこそ、いかにもフリルグレイヴらしい対応よ」


アリステルは、その言葉に、守護像に殴られた時よりも強く打たれたようにたじろいだ。


ネフェレットは続けた。

比較すれば、少しだけ優しかった。


「あなたには腕がある」

「飾りのために作ったわけではない繋ぎもある」


そして、その視線が俺へ流れる。


「それに今は、いつか手間に見合うかもしれない守護者の卵もいる」


「あんたの信頼は吐き気がする」


「ええ」


彼女は返した。


「胃を鍛えなさい」


それから目がミラへ移る。


「それと、小さな角の子も来ること」


ミラが一度だけ瞬きをした。

この朝、彼女から初めて見た、本物の驚きだった。


「私はフリルグレイヴ家に仕えております」


「あなたが仕えているのはアリステルよ」


ネフェレットが訂正する。


「まさか、この家が見た目以上に貧しくなっていない限り、それには彼女を生かしておくことも含まれるのでしょう?」


ミラの顎が固くなった。

反抗ではない。

不快な未来を、頭の中で行軍できる形に並べ替えている顔だった。


ようやく、フリルグレイヴ卿が声を見つけた。


「女神様」


彼は慎重に、桟敷のネフェレットを見上げた。


「この状況で娘がまたすぐに街を離れれば、街は……」


そこで止まる。


もう少し浅い男なら、混乱と言っただろう。


噂と言ったかもしれない。

反乱と言ったかもしれない。


もっとよくわかっている男は、そのどの言葉も答えに比べれば意味を持たないと知っていた。


「……意味を見出します」


最後に、そう言った。


ネフェレットは微笑んだ。


「ええ。だから、その前にあなたが意味を与えるの」


沈黙。


それから彼女は、壊れた欄干から軽く降りた。


重力がまだ自分に適用されるかどうか迷っているみたいな軽さだった。


訓練庭に着地した瞬間、足元の割れた石が一度だけ光り、すぐに消える。


「街に告げなさい。この家の娘は、不名誉ではなく、わたしの寵のもとに旅立つのだと」

「暁のもとで印を受けた守護者は、道が腐っている時に、安全な中庭で足を止める者ではないのだと」

「フリルグレイヴは忘れなかった。だからこそ、本当の闇が訪れる前に警告を与えられたのだと」


腹立たしいことに、見事な政治だった。


ソーレン隊長もそれをわかっていた。


どれほど見事かを嫌っている顔で、わかった。


最初に頭を下げたのは、フリルグレイヴ夫人だった。

次にフリルグレイヴ卿。

そして訓練庭の全員が、波紋のようにそれに続いた。


アリステルは、今度は跪かなかった。

ただ、壊れた稽古場の真ん中に立っていた。

袖には血。

喉には首輪。

救いを求めていたはずなのに、代わりに前へ進む勢いを手渡された少女の顔で。


ミラは、言われる前に彼女の横へ移動していた。


俺はネフェレットを見た。


「いつだ」


彼女は腹立たしいほど明るい顔で俺へ向き直る。


「明日の夜明け」

「あなたたちは、自分たちの価値を十分に示した。フリルグレイヴにも警告は届いた。次に来るものは、あなたたちが慣れるまで待ってはくれないわ」


俺は乾いた声で一度だけ笑った。


「安息なら、もう離婚届を出している」


「素晴らしい。なら、旅向きね」


そこでようやく、アリステルが俺を見た。


「明日、発ちます」


問いではなかった。

姫君らしい震えもない。

傷ついた貴族の迷いもない。

ただ、痛みを伴って事実が収まるべき場所へ収まっていく声だった。


俺が答える前に、ミラが応じた。


「準備いたします、姫様」


俺は二人を見比べた。


「つまり決定か」


小さく呟く。


「女神一人、傷だらけの姫君一人、角付きの壁一人、それから半端な術を一つ覚えただけで、分別をなくした青魔導士一人」


ネフェレットが満面の笑みを浮かべた。


「あら。ようやく物語らしくなってきたわね」


俺たちの周囲で、フリルグレイヴ家は崩れた石と消えかけた祈祷文字の中に立っていた。


古い名家というより、借り物の時間の上に生きていると知らされた街のように見えた。


ミラは不可能を受け止めた。


アリステルは、自分の血筋を侮辱されたみたいに神の守護像を砕いた。


ネフェレットは、フリルグレイヴの衰退がもっと大きな腐敗の見えている部分にすぎないと、平然と告げた。


そのどこかで、次の道の形が静かに決まった。

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