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終戦の宴

大統領に就任したルーズベルトはすぐに停戦を訴えた。

何か意味を含ませたかったのか、終戦の日を開戦からピッタリ365日目に指定した。

グアム島で調印式が行われ、日本とアメリカの二国間だけの戦争に終わった戦いは「第二次世界大戦」とも「太平洋戦争」とも呼ばれず。

宣戦布告から終戦までがピッタリ一年だった事から百年(Hundred) 戦争(Years War)にかけて一年(One Years) 戦争 (War)と呼ばれた。

アメリカと同盟を組んで日本と戦争をしていたはずの中国はどこかに忘れ去られていた。


大きな決戦と呼べるものは、太平洋上で行われた艦隊決戦だけだった。


それ以外の艦隊戦といえば、南シナ海で小規模な海戦が何度か起きた。

実験艦としての特異性が強すぎて使いづらい夕張は上海へ向かう輸送船の護衛に付いた。

上海沖でマニラからの輸送船を護衛中のアメリカ海軍の駆逐艦スチュワートと交戦。

舵取機械室に被弾したスチュワートは動けなくなり、唯一の鹵獲艦となった。


決戦から外された重巡二隻と二等駆逐艦はサイパン島とトラック島へ向かっていた。

日本の重要拠点である二つの島には開戦時点で兵力が全くいなかったため、急いで陸戦隊を運んだ。

アメリカの拠点だったグアムには警備隊程度の兵力しかおらず、艦艇も航空機も無かったことから戦闘は起きなかった。

二つの島は何も起きないまま戦争が終わった。


街には提灯が灯り、酒場には軍歌が響き、新聞は連日、勝利の余韻を煽り立てた。

国民はアメリカからぶんどった一億ドルの使い道を論じていた。


アメリカに勝った。


一億ドルの大金を手に入れた。


その事実だけで、人々は酔っていた。

国民は昭和大不況が終わったと本気で信じていた。

なかには、アメリカの金で遊んで暮らせると思い込む者まで現れていた。


実際問題、仕事は増えた。

修理が必要な海軍艦艇があまりに多かったからだ。

たった一回の海戦で大破から小破まで、修理が必要な船で造船所があふれていた。

修理代は一億ドルで払えば良いと思い、大盤振る舞いで修理作業が進められた。

問題は、修理が全て終わるまで二年以上かかりそうなほどの工数が積み上がっている。

新造艦を作る余裕なんて予算も、造船所の空きも全く無かった。

竣工直前だった空母龍驤は『未来からの贈り物』で欠陥がいくつも判明していたので、就役を後回しにされていた。


小規模な浸水を誤魔化しながら帰ってきた駆逐艦は後回しにされていた。

駆逐艦の船体は装甲と呼べる物が無く、重巡の主砲や戦艦の副砲でも至近弾で穴が空いたり、船体に亀裂が入って浸水が相次いでいた。


旧式になった5500トン軽巡洋艦は七隻が損傷した状態で生き残った。

問題は修理すべきなのか迷った。

今から修理しても旧式艦である宿命からは逃れられない。

新型軽巡洋艦を新造すべきだが、その余裕が無いので修理を後回しにする暫定処置がとられていた。



そのころ、アメリカでは。

ルーズベルト大統領がホワイトハウスに集まったメディアの前で、新たな経済政策を打ち出した。


「未来の金融政策を実施する」


債務不履行(デフォルト)のリスクが高い金融商品を高利回り(ハイ・イールド)債と呼び代えてハイリスク・ハイリターンの高金利商品として売った。

さらに、数百の銘柄に分散投資できるETFと呼ばれる仕組みを導入して米国株式市場全体に資金を循環させた。


株式の上場規制を緩和して零細企業でも上場できるようにした。

未来の高収入を約束する株式購入権(ストックオプション)を導入する事で高い給料を払えない会社でも優秀な人材を雇用できるようにした。

自分の会社が儲かるほど、未来の自分の収入が増える魔法の制度は会社経営を急激に立ち直らせた。

金融と縁の無いブルーカラーにも投資によって増えた仕事を積極的にばら撒いた。


ルーズベルト大統領はフランスがドイツからの賠償金を思うように取り立てられないで困っているのに目をつけ。

賠償金を証券化して引き受けた。

ドイツの土地が次々とアメリカに買われていった。

その購入資金はドイツがフランスに払っていない賠償金だった。


ハイパーインフレを収束させたドイツの新通貨であるレンテンマルクは国内の土地に対して設定した地代請求権を担保とした通貨だった。

地代請求権といっても、具体的にどこの土地なのか何も実体が無いドイツの土地という漠然とした概念の担保にすぎなかった。

あくまでもライヒスマルクが導入されるまでの過渡期に使う紙幣に過ぎなかったはずのレンテンマルクは、アメリカが発行する証券の名前になった。


具体的に州ごとの国有地と結びつけられ、レンテンマルクを持つ人間が国有地を共同所有する制度として発行された。

発行上限額は土地価格の八割までに制限されたので、ハイパーインフレの心配も無いと、アメリカからの資金を受け入れるためにドイツ政府は承認した。

ルーズベルトが仕組んだトリックは「土地価格の八割まで」という発行の上限額だった。

土地価格が上がれば追加発行する事が出来る。

ドイツの土地価格が上がり続けるかぎり金が湧いて出る金融魔法でドイツ経済を浸食した。

すぐにドイツの成功を見たフランスやポーランドやオーストリアの国有地も証券化され、アメリカの証券会社が取り扱った。

すぐに国有地だけから、私有地まで広がっていった。

ロンドン証券市場はアメリカの下請けと化していた。


第一次世界大戦から15年あまりが経過した時代、20年物の戦時国債は次々と証券化され市場を巡り始めていた。

アメリカは世界のあらゆる資産を証券化して金に換える魔法で経済を立て直した。


日本は戦争に勝ったが、結局の所、石油や鉄鋼をアメリカから輸入しなければ艦隊を維持できない。

日本へ輸出する品に特別税をかけられた日本は、あっという間に1億ドルの債権を使い果たしそうだ。

日本にはアメリカ以外の国からドル払いで買う選択肢があまりに少なかった。


それどころか、日本は国債をアメリカに買ってもらわなければ国家予算が捻出できなくなっていた。

アメリカは日本の赤字国債を債務不履行(デフォルト)のリスクが高い高利回り(ハイ・イールド)債として市場に流していた。


戦争に負けたアメリカだけが世界恐慌から抜け出した。

『未来からの贈り物』を手にしたルーズベルト大統領は戦争で勝とうなんて考えなかった。

未来の金融システムを学んだ結果、経済支配で勝とうとしていた。


アメリカが世界経済を浸食しているころ、ルーズベルト大統領はホワイトハウスで『未来からの贈り物』をもう一度眺めていた。

ジャンク債市場の全能の支配者「帝王(ザ・キング)」と呼ばれたマイケル・ミルケンの本を眺めたルーズベルト大統領は微笑んだ。

「強欲は善とは良い言葉だ」

一介の金融マンだったマイケル・ミルケンと違い、自分は大統領だ、金融規制の法律は自分が決める。

大統領が逮捕されることなどないと楽観視していた。


21世紀になるとアメリカの敵は中国になる。

今のうちにジャップに中国をボロボロになるまで叩いて貰おう。

ジャップとチャイナが共倒れしてから利益を手に入れればいい。


ルーズベルト大統領に贈られた『未来からの贈り物』は他と毛色が違っていた。

金融や経済の本ばかりが贈られていた。

送り主は戦争の原因になる不況そのものを無くしてくれる事を期待したのだろうか。

余計な知恵をつけたルーズベルト大統領は本来の歴史よりタチが悪いかも知れない。


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