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ボンに落ちた太陽

 日本とアメリカの戦争が始まった頃、ドイツとフランスの国境でも大きな動きがあった。


 マジノ線。

 欧州最強の要塞線。

 その地下指揮所で、フランス兵たちは異様な振動を感じた。

 地震でも砲撃でもない。

 地面そのものが、巨大な獣のように唸っていた。


 深刻な重火砲と砲弾不足に悩むドイツ軍は砲兵連隊そのものを必要としなくなる新兵器を完成させた。

 図面通りに作ることに固執していた大日本帝国と違い、ドイツ人は難解なZMD理論を理解し、爆縮レンズの大幅な小型化に成功していた。

 50kgの高濃縮ウランを用いたガンバレル型の戦術核兵器。

 TNT換算で15キロトンの威力を持つ核砲弾は重量650kgにまで小型化された。

 核砲弾は全長20mにもなる砲身を持つ、世界最大の口径420mm重迫撃砲から打ち出された。


 巨大な砲から撃ち出された核砲弾が、マジノ線に叩き込まれた。


 四発の戦術核兵器が使用され、マジノ要塞に巨大な穴が空いた。

 防御陣地は、要塞ではなく墓標になった。


 穴が空くと、待ち構えていたドイツ軍機甲師団がフランスへなだれ込んだ。


 その直後、ボン市に報復の空襲が始まった。


 フランスとの国境に近いボン市は、空襲に慣れていた。だが、今日の空襲はいつもと違っていた。


 たった一機の超大型爆撃機を、多数の戦闘機が護衛している。


 対空砲火が空に黒い花を咲かせた。


 だが、爆撃機は高射砲が届かない成層圏を進んでくる。


 まるで、地上の抵抗など最初から存在しないかのように。


 落とされた爆弾は、たった一発だった。


 次の瞬間、都市の中心に白い太陽が生まれた。


 ボン市民は影になって地面に焼きついた。


 たった一発の爆弾が、ボン市を地上から消し去った。


 人類初の核攻撃を受けた都市は、広島でも長崎でもなく、ドイツのボン市になった。


 その報告を受けたドイツ軍司令部は、直ちに報復を命じた。

 先にフランスの核兵器を破壊しなければドイツが滅びる。

 温存していた秘密兵器、原子力核攻撃戦艦、カール・マルクスからV2ロケットが発射された。

 パリを始め、フランスの主要基地に向けて核弾頭を搭載したロケットが超音速で落下してくる。


 一度この扉を開けば、二度と閉じることはできない。

 ドイツとフランスは、持てる全ての核兵器を撃ち合う全面核戦争へ突入した。



 ヨーロッパ各地で核攻撃の応酬が始まったのと同時期。

 極東でもマニラを出港した極東艦隊とフィリピン軍を乗せた輸送艦が沖縄へ向かっていた。

 目標は沖縄を占領して台湾と本土の連絡を遮断する。


 日本海軍も戦艦長門を旗艦とする連合艦隊を迎撃に向かわせた。


 二度目の艦隊決戦が始まろうとしていた。


 アメリカ海軍アジア艦隊には、秘密兵器があった。

 航空巡洋艦ウィリアム・ギルモア・シムズ。

 それは、核攻撃を行うために作られた特殊な軍艦だった。


 甲板の下には、通常の航空機とは異なる機体が並んでいた。

 搭載されているのは爆弾ではない。

 都市を消すための小さな太陽だ。


 神風特別攻撃隊の創始者、大西(おおにし)瀧治郎(たきじろう)は日本軍ではなく、アメリカ軍の大佐として神風特別攻撃隊を作ってしまった。

 この歴史の大西は日本軍人ではなく、アメリカ軍の大佐として、神風特別攻撃隊を作り上げていた。

 それは、本来の歴史で生まれた特別攻撃隊とは桁違いの威力を持つ、核攻撃特攻だった。


 大西は、作戦室で若い黒人のパイロットたちを見渡した。


「諸君は歴史を変える」


 その声は静かだった。


「一機で艦隊を沈め、一機で国家を屈服させる。諸君は兵士ではない。諸君は戦争そのものだ」


 搭乗員の一人が震える手を握りしめた。

 帰還の予定はなかった。

 それでも彼は未来を変えられると信じて命令に従った。

 自分が犠牲になって黒人の英雄になれば、未来の世界は黒人がアメリカ大統領になると信じていたからだ。


 日本とアメリカの艦隊決戦は、一瞬で決着した。


 水平線の向こうで、白い閃光が走った。


 続いて、キノコ雲が空高く上がった。


 たった一機の核攻撃で、日本艦隊が壊滅したからだ。


 戦艦の装甲も、巡洋艦の速力も、駆逐艦の回避運動も、何の意味もなかった。


 旗艦を務める戦艦長門だけは最後まで浮いていた。

 だが、乗員の大半は高レベルの被曝によって瀕死になっていた。

 艦橋では、伝声管が焦げ、計器は砕け、士官たちは立ったまま死んでいた。

 それでも、長門は沈まなかった。


 それは生きているという意味ではなかった。

 もはや、沈んでいないだけのゾンビのような状態だった。


 沖縄に二発目の核爆弾が落ちると、フィリピン軍は放射能で汚染された沖縄への上陸作戦を開始した。


 兵士たちは何が起きたのか知らされていなかった。

 ただ、敵が壊滅したとだけ聞かされていた。

 上陸した彼らを待っていたのは、焦げた街と、自分達にも降り注ぐ見えない死だった。


 必死の防衛戦を展開する日本陸軍に三発目の核が落ちた。

 第32軍司令部が置かれた首里城は一瞬で地上から消え去り、巨大なクレーターだけが残った。


 艦隊と沖縄が壊滅した知らせを受け、日本も報復に出た。

 台湾から発進した爆撃機と周囲を囲むゼロ戦は千キロに及ぶ遠洋作戦を難なく飛び越え。


 マニラに原爆が投下された。


 勝利を確信していた牟田口元帥は、住居にしていたマニラの高級ホテルごと消滅した。


 欧州で核攻撃の応酬が始まったのと同時に、二度目の日米開戦も核攻撃の応酬から始まった。


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― 新着の感想 ―
ここまでの牟田口の酷さを見ると… でもここまでの核戦争はまずいって…
笑えない牟田口の結末…
全面核戦争に草も生えない……
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