表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/56

矛盾した未来

 『未来からの贈り物』の存在が世界に暴露されると、各地で混乱が起きた。

 未来の世界にタイムマシーンが存在する事は公然の事実となった。


 フィリピンのアバッド・サントス大統領は、未来から届いた1000ペソ紙幣を公表した。

 これこそ、自分たち三人が正当なフィリピンの指導者である証であり、自分たちの正しい行いが未来に語り継がれた証拠だと訴えた。

 偉人の評価は後世の歴史家が決めると言われる。

 その紙幣は、彼らの正統性を保証する聖遺物として絶大な効果をもたらした。


 フランスではペタン元帥が『未来からの贈り物』の存在を公表し、ドイツを滅ぼす正当性を訴えていた。

 そして、『未来からの贈り物』を授かったシャルル・ド・ゴールこそが未来の大統領であると主張した。


 イギリスでは、チャーチルから『未来からの贈り物』を預かっていた人物が現れ、その存在を公表した。

 あの時、ヒトラーを殺さなければ莫大な人命が失われていた。

 そう訴えると、チャーチルの再評価が始まり、英雄として讃える動きが出始めた。

 そして、まだ始まっていない第二次世界大戦を知ったイギリスでは、反日感情と反ドイツ感情が一気に高まった。


 フランスとオランダは極東のインドシナ植民地の戦力増強を行った。

 ドイツ軍が消滅した今なら、極東の軍備を増強できる。

 フランスはフランス領インドシナに陸軍と艦隊を派遣した。

 オランダもフランスと同盟を組んで、後の時代にインドネシアと呼ばれる植民地へ軍を派遣した。


 ソビエトは、徹底的に情報を遮断して沈黙していた。

 スターリンは何があっても、自分が殺されるべき独裁者だと認めるわけにはいかなかったからだ。


 イタリアではムッソリーニ追放運動が始まり、黒シャツ隊による苛烈な弾圧が起きていた。


 そして、『未来からの贈り物』を受け取った人物は中国にもいた。

 中国軍の聶栄臻将軍が、日本との和平を訴えてきた。

 彼は手土産として、毛沢東の首を持参してきた。


「文化大革命で二千万人が殺される。こいつが無能な主犯だ」


 聶栄臻将軍はそう訴え、自分のもとに届いた『未来からの贈り物』を日本軍にも見せた。

 送り主は、自分の孫だという。

 そこには、山本五十六が持っている『未来からの贈り物』とは矛盾した記述があった。


 日本は昭和十六年の開戦初日、アメリカの九都市を同時に核攻撃した。

 アメリカに無条件降伏を突きつけたが、アメリカは応じず、戦争は続いた。

 ドイツに渡った一発はロンドンに投下され、大英帝国が降伏した。

 二度目のアメリカ本土核攻撃は、原爆を運ぶ伊四〇〇潜水艦がアメリカ軍に撃沈され、不発に終わった。

 昭和二十年に十三個の核爆弾が日本に投下された時、日本は沖縄を占領したアメリカ軍に最後の核攻撃を行った。

 日本は十二発しか原爆を製造できなかったが、アメリカは無尽蔵に作ることができた――。


 満州の関東軍から送られてきた報告書を読んだ山本五十六は、驚いて飛び上がった。


「日本に落ちた原爆は、広島と長崎の二個だけではないのか!?」


 今の歴史は、海軍省に保管されている『未来からの贈り物』とまったく噛み合わない。

 だが、中国が持っている『未来からの贈り物』とも噛み合っていなかった。

 誰かが歴史に干渉するたびに、未来が書き換わっているのか。

 そして、もう一つの歴史でも日本は敗戦国なのか――。


 矛盾した情報を得た大日本帝国軍は混乱した。

 もはや、『未来からの贈り物』が存在すること自体は隠しようがない。

 公表するしかない。

 だが、どこまで情報を公開すべきなのか。


 一番の争点は、日本が焼け野原になって戦争に負けることを公表すべきかどうかだった。

 アメリカの新型爆弾が日本の都市に落とされ、一発で十万人が死傷する惨事が起きる。

 そんなことは公表できない。

 日本がアメリカとの戦争に敗北する過程で三百万人の犠牲が出る。

 国土が焼け野原になる。

 それを国民に知られたら、もはや戦えない。


 大日本帝国は『未来からの贈り物』の存在自体は認めるが、その内容については軍機であり、一切公表できないと宣言した。


 問題は原爆を使えばアメリカは倍にして返してくる。

 もはや、原爆が完成しても使えない。


 だが、本来の歴史とは状況が大きく異なっていた。

 石油に関しては、大慶油田があるから問題ない。

 希少金属に関しても、当面は満州で採掘している分と、ソビエトからの横流しで十分に足りる。

 食料に関しても、満州や台湾から十分な輸入がある。

 アメリカと戦争を始める理由そのものが、消え始めていた。


 このまま広大な太平洋を緩衝地帯にして、冷戦状態を続ければよいのではないか。

 そんな意見まで出始めていた。


 ただ、冷戦状態を続けるなら、軍拡競争になることは避けられない。

 核兵器による相互確証破壊は、相手の国家を完璧に破壊できる保証が失われた瞬間、自国が滅ぼされる危険と隣り合わせになるからだ。


 常に相手の防衛網を突破し、主要都市を核攻撃できる軍備を維持し続けなければならない。

 冷戦とは、戦死者が出ず、敵に向けて一発も撃たないにもかかわらず、総力戦状態を維持し続ける負担を強いられることを意味していた。


 情報が公開されると、街で『未来からの贈り物』のニュースを見た二十代前半の青年は、微妙な顔をした。

 二十歳になって兵役検査に行くと、甲種合格でありながら兵役免除と告げられた。

 それから共栄建築事務所の所長になると、不思議なことに軍からの仕事が大量に回ってきた。

 軍から膨大な仕事を発注された理由について、酒の席で山本五十六から言われた冗談のような話が気になっていた。


「未来の内閣総理大臣」


 それは事実だったのか。

 自分が総理大臣になると、『未来からの贈り物』に書かれていたのか。


 青年の名は、田中角栄。

 後に第六十四代、六十五代内閣総理大臣になる人物だった。

 彼はいくら考えても答えの出ない問題を放置し、真面目に仕事へ戻った。


 それからしばらくして、特高警察は難題に頭を抱えた。

 『未来からの贈り物』を持っているという通報が相次いだからだ。

 受け取っている人間が発見された場合は、速やかに保護するよう上層部から通達されていたため、特高警察は通報を無視できなかった。

 片っ端から調べたが、すべて偽物だった。


 町でも、偽書を『未来からの贈り物』だと言い張って売りつける詐欺師が山のように湧いていた。

 フィリピンの事例を見たのか、自分の肖像を描いた偽札を出して、自分を未来の偉人だと主張する詐欺師まで山のように現れた。

 中には、自分こそ未来の総理大臣だと主張して選挙に立候補する者までいた。


 混乱のさなか、亡命ドイツ政府の代表者が山本五十六のもとへ押しかけてきた。

 彼は不満と、行き場のない怒りに満ちていた。


「我々ドイツ人には、『未来からの贈り物』が届かないのか!」


 誰も答えを持っていないことは、ドイツ人たちも分かっているはずだった。

 だが、やり場のない怒りを振り回さずにはいられないのだ。


 山本五十六は、あくまで推測でしかなく、確証は何もないと前置きした上で、自らの推論を述べた。


「未来の世界で、ドイツ人は絶滅しているのではないか」


 亡命ドイツ政府の代表者は苦悩した。

 一番聞きたくない言葉だった。

 だが、少しは予想していた言葉でもあった。


 日本は滅亡寸前だと、未来人が言っていた。

 ならば、ドイツはタイムマシンが発明される前に滅亡しているから、誰も贈ってこないのではないか。

 ドイツの未来は、日本よりも最悪なのか――。


 ドイツの滅亡を回避する。

 それが、亡命ドイツ政府の統一された意思になった。



 そのころ、マニラの海軍基地ではリチャードソン少将が頭を抱えていた。

 自分が捨てたあれが、『未来からの贈り物』だったのではないか。

 チェスター・ニミッツ海軍元帥は妄想ではなく、本当に未来の元帥だったのか。


 その考えは、どうしても信じたくなかった。

 だが同時に、否定したい重大な問題を突きつけていた。


 第44代アメリカ合衆国大統領は黒人なのか……


 リチャードソン少将は、正直に上層部へ報告書を送った。

 サンフランシスコ軍港の海底を浚った海軍建設工兵は、埠頭近くの浅い海底の泥の中から『未来からの贈り物』を発見した。

 それは、壊れたタブレットPCと金属容器だった。


 タブレットPCには、貴重な未来の情報が入っているはずだ。

 アメリカ軍は、未知の機械から情報を取り出そうと必死に奮闘した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ぶち撒けられたおもちゃ箱をネジが締まってない頭で片づける作業が始まる?始められる?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ