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国際連盟会議

 昭和八年二月二十四日。

スイスのジュネーブで、国際連盟の特別総会が開催された。

日本はかねてより連盟脱退を検討していた。だが、先の戦争によってその議論は有耶無耶となり、脱退問題はいまも棚上げされたままだった。


 第一次世界大戦後に創設された国際連盟には、アメリカが加わっていなかった。

 今回の総会における最大の焦点は、アメリカの加盟問題だった。

だが、この議題自体は、意外なほどあっさりと片づいた。


 本当に会議を紛糾させたのは、加盟したばかりのアメリカが、突如として中華民国の除名を議案として提出したことだった。


 アメリカが加わる代わりに中国を追い出すのか。欧州諸国の代表たちが露骨に顔をしかめたのも無理はない。

 しかもアメリカ代表団は、現在の中華民国政府を「正統なる清朝皇帝に叛いた暴徒の集団」にすぎないと断じ、国家としての正当性そのものを全面否定したのである。


 数か月前までその政府を承認していただけでなく、事実上の同盟国として扱っていたではないか。

 そうした当然の反論が飛ぶと、アメリカ側は、それはフーヴァーとスティムソンという狂人どもの妄想にすぎなかった、と言い放った。

 新大統領が前政権を公然と貶すこと自体は、さして珍しい話ではない。

 だが、外交の場でここまで露骨に前政権を切り捨てる例は、前代未聞だった。


 会議は激しく荒れた。

 日本代表団も、アメリカの提案に賛成すべきかどうか判断に迷った。結局、流れに押されるような形で賛成に回ったが、中華民国除名案は欧州諸国の強い反対に遭い、否決された。


 ところが、その否決を受けたアメリカは、日本代表団すら驚かせる次の議案を持ち出した。

 愛新覚羅溥儀を国家元首とする満洲国こそが正統なチャイナ政府であり、満洲国を国際連盟に加盟させるべきだ、と主張し始めたのである。

 つい数か月前まで日本と戦争状態にあった国が、異様なまでに日本に都合のよい提案をしてきた。

 そのことに最も驚いたのは、ほかならぬ日本自身だった。


 もっとも、満洲国加盟案はその場では決着しなかった。代表者が会議に出席していなかったため、満洲国代表を招いた次回会議へと持ち越されたのである。


 自らの議案を否決されたアメリカは、さらに次の手を打った。

 大正八年四月二十六日、日本、イギリス、アメリカ、フランス、イタリア、ロシア帝国、スペイン、ブラジル、ポルトガル、オランダ、ベルギー、デンマークの十二か国が締結した「対支武器輸出禁止協定」の継続案であった。


 アメリカは、ロシア帝国の継承国家を自任するソビエトにも参加を求めた。

 さらに、いまやワイマール共和政下にあるドイツにも参加を呼びかけた。


 アメリカがここまで露骨に中華民国を敵視する以上、中華民国代表団が怒りに震えるのも当然だった。

 アメリカは日本に肩入れし、中華民国を滅ぼすつもりなのか。

 彼らの胸中には、そうした憤激が渦巻いていた。

 そして実際のところ、アメリカの意図はまさにそこにあった。


 未来を知ったルーズベルトは、最悪とも言うべき構想を抱いていた。

 第二次世界大戦の果てに日本が敗れれば、日本の勢力圏はいずれアメリカの支配下に組み込まれる。

 ならば今のうちに、中国を日本の版図へ呑み込ませてしまえばよい。そうしておいて、後にアメリカの傀儡政権として再編すればいい。

 彼は、そんな冷酷な計算を本気で巡らせていた。


 表向きの名目は、あくまで世界平和のためである。

 そうして「対支武器輸出禁止協定」の継続が決議された。


 中華民国代表団は、もはやアメリカなど信じるに値しないと悟り、決別へと傾きつつあった。


 しかし、中国側にもなお抜け道は残されていた。

 中国へ武器を輸出している諸国のうち、この協定に参加しなかった国があったのである。

 チェコスロバキアだった。


 チェコのブルノを拠点とする銃器メーカー、ズブロヨフカ・ブルノは、中国政府に積極的に商談を持ちかけた。

 自分たちは武器輸出禁止協定の適用外である。ゆえに、中国に対していくらでも武器を供給できる――。

 そう豪語して、市場の独占を狙ったのである。


 その結果、「ブルーノZB26軽機関銃」日本軍が「チェコ機銃」と呼ぶ火器が、大量に中国へ流れ込むことになった。


 やがてドイツもまた、機械部品の輸出という名目で、チェコ経由の対中輸出に手を染めはじめた。

 チェコは内陸国で港を持たない。ゆえに輸送は、ドイツのハンブルク自由港から船積みされ、香港へと運ばれた。

 書類の上でさえチェコから来たことになっていれば、それで十分だったのである。


 ルーズベルトは、この抜け穴を見落としていたわけではない。

 むしろ、意図的に塞がなかった。

 中国人との殺し合いの中で、少しでも多くの日本人が死ねばいい。

 その冷たい悪意だけは、最初から一貫していた。


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