幕間 共鳴石
アレンが、まだ二十歳の頃だった。
贈り物を探しに、グランゼリアのバルテラン商会を訪れていたアレンは──例によっていつもの熱い抱擁を受け、ソファでぐったりとしていた。
当のギルベルトは得意先の対応に回っており、部屋にはアレンだけが残されている。
少しずつ息を整えていたアレンの視界に、ふと光るものが映った。
テーブルの上の箱に、透明な丸い石が山のように積まれている。
ガラス玉だろうか。
ひとつ手に取り、光にかざす。
「それはクズ石だ。ガラス玉より綺麗かと思って買ったが、すぐに割れる。俺の目も曇ったもんだ」
びくりと肩が跳ねた。
いつの間にか、すぐ後ろにギルベルトが立っていた。
アレンはそっと目を逸らし、もう一度石を見つめる。
驚くほど透明度が高く、背景が澄んで透けて見えた。
補強できるかもしれない。試しに──魔力を流してみる。
瞬間、石が茶色く染まった。
思わず手の中に隠した。
幸い、ギルベルトは気づいていないようだった。
「……これを、少し分けてもらえないか?」
「別に構わんが……?」
訝しむ視線を受けながらも、アレンはいくつかの石を譲り受けた。
*
持ち帰り、試行錯誤を繰り返す。
どうやら、属性と魔力量によって色が大きく変わるらしい。
力作を灯りにかざす。
温かみのあるテラコッタ色の輝きに、アレンはわずかに口元を緩めた。
*
数日後。再びバルテラン商会。
いつもの抱擁に体を軋ませながら、なんとか言葉を絞り出す。
「装飾品を、作ってほしい」
「装飾品?」
締め上げるような腕が解け、ギルベルトの口元がにやりと歪む。
「ほほう?」
アレンは据わった目で見返した。
「それで、どんなのがいい?首飾り?指輪?腕飾り?髪飾りなんてのも……」
「これを使いたい」
取り出したのは、あの丸い石。
テラコッタ色に染まったそれを見て、ギルベルトが眉を顰める。
「宝石……じゃないな。いいのか、こんなもので?」
「いいんだ」
じっと探るような視線が向けられるが、アレンは徹底して無視した。
そうして、相談の末に出来上がったのは──指輪を通した首飾りだった。
「戦う君たちには、手に付ける装飾品は向かん。こうしておけば、常に持ち歩ける」
その一言で決まった品だった。
「で?あの石の出どころは?」
アレンは、すっと視線を逸らす。
「すーごく硬いんだが?大きさも透明度も、どこかで見たクズ石そっくりなんだがな」
さらに視線を逸らす。
「しかも、魔力を吸うらしいじゃないか」
低い声が、落ちてきた。
「赤を多めに、緑を少し混ぜたら……」
すぐ後ろから、低い息づかいが迫ってくる。
「ああいう色になるよなあ」
迫る圧。
アレンは、観念した。
「たまたま発見したから、作ってみただけだ」
ため息交じりの答えに、ギルベルトは生温かい笑みを浮かべる。
「意外と独占欲が強いんだな」
「……口に出すな」
こうして装飾品は完成し、フィオナの手に渡った。
大喜びした彼女は、すぐにアレンの分も作って贈り返してくる。
フィオナが、それはそれは嬉しそうに身につけて歩くものだから、瞬く間に噂が広まった。
その圧倒的な宣伝効果によって、やがてその石は──“共鳴石”と呼ばれるようになる。




