第10話 力を形に
その日、リオは寮の自室にいた。
机に向かい、紙とにらめっこしていると、訪問者があった。
アレンと1号だった。
アレンが、さっそく口を開く。
「共鳴石の件、聞いたぞ」
リオは顔を上げ、笑みを浮かべる。
「うん、魔石という名前にしようと思ってるんだ」
最近、属性を意識しなければ、純粋な魔力だけを充填できることが分かった。
これで、魔石としての用途がさらに広がる。
1号が頷く。
「テラも、魔金属の容器に瘴気を充填して、動力を持ち運んでいたんだよ。でも、大きさと濃度を考えると、こっちの方がずっと効率的だね」
「それに、魔力を込めることで石自体の強度も上がるし、中が空になると割れるから、わかりやすいんだ」
そう言って、リオは再び机へ視線を落とす。
アレンがその隣に立った。
「それは?」
紙に描かれていたのは、複雑な図形だった。
外側に大きな円があり、その内側を線や文字が埋め尽くしている。
「今、詠唱の代わりになるものを考えてるんだ」
アレンの気配がわずかに揺れる。
「詠唱の、代わり……」
「魔力を詠唱で属性に繋げて現象化する。それを、図形で表現できないかと思って」
1号も反対側から机を覗き込む。
「どうしてなのかな?」
「詠唱は時間がかかるから、魔力量や魔法の詳細まで入れられないんだよ」
あれは、そう。つむじ風先生の授業でのことだった。
「前に、同じ魔法でも使い手によって全然違うと習って、不便だなって思ってたんだ」
1号が唇に弧を描く。
「なるほど。図形で表現することで、情報量を増やしつつ、瞬時に発動できるようにするわけだね」
「そうなんだよ」
やっぱり1号は理解が早い。リオは嬉しくなる。
「でも、文字がすぐいっぱいになって……」
紙の上は黒く塗り潰され、どこが境目かも分からない。
それを見ていたアレンが、ふと口を開いた。
「古代語で書いてみたらどうだ?」
「え?」
思わず聞き返す。
「古代語は、一つの文字に複数の意味が含まれる。少ない文字数で、同じものを表現できるんじゃないか?」
言葉の意味をゆっくりと咀嚼して、リオは目を見開いた。
「それだよ!」
思わず声が弾む。
「さすが父さん!」
アレンが頬を緩め、目を細める。
1号も図形の一部を指さした。
「安定させるなら、線は対称にして、文字も整然と配置した方がいいね。我なら一切の狂いなくできるよ」
「さすが1号!」
1号も嬉しそうに笑った。
すぐに新しい紙を取り出すと、1号が滑らかに円を描いた。
「でも、どうしてこんなことを?紙に書かなくても、頭の中で形にすればいいんじゃないのかな?」
1号がアレンを見ながら言う。
リオは、頬を緩めた。
「それじゃあ、ダメなんだ」
ずっと胸の奥に残っている言葉がある。
「誰にでもできるって、それだけで価値があるんだよ」
この図形が完成すれば、誰でも、瞬時に、同じ威力の魔法を発動できる。
それはきっと、生活を豊かにし、自衛など様々な役に立つ。
「魔法陣……なんてどうかな?」
「いいと思うぞ」
右を見ても、左を見ても、そこには温かい視線があった。
リオは口元を緩め、再び紙へと視線を落とした。




