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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第11章 未来を紡ぐ手
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第8話 魔力を呼び戻すもの

 ユリウスは、アレンに対する突然の呼び捨てに、口をあんぐりと開けた。

 だが、当の二人はまったく気にしていない。


「これでいいか?」


 アレンが脇に置いていたものを持ち上げる。

 それは、黒いものを封じた四角いガラス容器だった。


 中身を見た瞬間、ノエルが目を見開く。


「瘴気魔獣じゃないですか!」


 両手を構えるノエルに、ヴァルセリオが苦笑する。


「密閉容器で保管していますから、危険はありません。……ですが」


 にこやかな笑顔のまま、アレンを見る。


「聞いてませんよ。勝手に持ち出しましたね」

「許可は取った。尋ねたら、持って行っていいと」

「それは許可とは言いません!作業中の研究者に聞きましたね!?あの人たちが正しく理解して答えたとでも!?」


 ヴァルセリオは肩で息をする。

 当のアレンは、容器を手にしたまま眉一つ動かさない。


 フィオナが困ったように微笑む。


「ごめんなさい、ヴァルセリオさん。後でちゃんと、許可は取りますから」

「フィオナ……ありがとうございます」


 そんなやり取りを横目に、1号は容器を受け取り、教壇の机に置いた。


 リオはふと気になって尋ねる。


「1号、魔金属(エーテリウム)は持ってるの?」

「ここにあるよ」


 1号が指先でつまんで見せたのは、小さな白い金属片だった。


 どこか見覚えがある。

 じっと見つめていたリオは、その正体に気づいて凍りつく。


「い……1号、それ!」


 それは、1号の指の第一関節だった。手は無事なので、おそらく足の指だろう。


 思わず口元を押さえるリオに、皆が不思議そうな目を向けてくる。

 リオは曖昧に笑ってごまかした。


「後で直せるから、大丈夫だよ。じゃあ、入れてみよう」


 1号が躊躇いなく蓋を開けた。


 ヴァルセリオとユリウスがぎょっとするが、1号はポイと金属を中へ放り込む。

 そしてすぐに蓋を閉めた。


「リオ。これに魔力を流せるかな?」

「魔力?属性は?」

「何でもいいよ。最初の動力として必要なだけだから。ただ、ゆっくり、慎重にね」


 リオは容器に手を当て、微量の魔力を流してみた。


 魔力に反応して、瘴気がわずかに揺らいだ。黒いもやが徐々に消えていく。

 瘴気魔獣の輪郭が、少しずつ縮んでいった。


 金属そのものは変わらない。ただ、変化を“助けている”だけだ。


 ユリウスが息を呑む。


「すごい……本当に、瘴気が減っていく……」


 ヴァルセリオとノエルも目を輝かせた。

 アレンとフィオナは顔を見合わせ、頷きあう。


 だが、1号は不満げだった。


「効率が悪い。やっぱり魔法のほうが便利だね。光魔法があれば、これは要らないかも」


 その言葉に、フィオナがしゃがみ込み、1号と目線を合わせる。


「そんなことない。誰にでもできるって、それだけで価値があるんだよ」

「誰にでも?」


 1号の問いに、フィオナは優しく頷いた。


 ──誰にでもできるということ自体に、価値がある。


 その言葉は、リオの胸に強く残った。

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