第8話 魔力を呼び戻すもの
ユリウスは、アレンに対する突然の呼び捨てに、口をあんぐりと開けた。
だが、当の二人はまったく気にしていない。
「これでいいか?」
アレンが脇に置いていたものを持ち上げる。
それは、黒いものを封じた四角いガラス容器だった。
中身を見た瞬間、ノエルが目を見開く。
「瘴気魔獣じゃないですか!」
両手を構えるノエルに、ヴァルセリオが苦笑する。
「密閉容器で保管していますから、危険はありません。……ですが」
にこやかな笑顔のまま、アレンを見る。
「聞いてませんよ。勝手に持ち出しましたね」
「許可は取った。尋ねたら、持って行っていいと」
「それは許可とは言いません!作業中の研究者に聞きましたね!?あの人たちが正しく理解して答えたとでも!?」
ヴァルセリオは肩で息をする。
当のアレンは、容器を手にしたまま眉一つ動かさない。
フィオナが困ったように微笑む。
「ごめんなさい、ヴァルセリオさん。後でちゃんと、許可は取りますから」
「フィオナ……ありがとうございます」
そんなやり取りを横目に、1号は容器を受け取り、教壇の机に置いた。
リオはふと気になって尋ねる。
「1号、魔金属は持ってるの?」
「ここにあるよ」
1号が指先でつまんで見せたのは、小さな白い金属片だった。
どこか見覚えがある。
じっと見つめていたリオは、その正体に気づいて凍りつく。
「い……1号、それ!」
それは、1号の指の第一関節だった。手は無事なので、おそらく足の指だろう。
思わず口元を押さえるリオに、皆が不思議そうな目を向けてくる。
リオは曖昧に笑ってごまかした。
「後で直せるから、大丈夫だよ。じゃあ、入れてみよう」
1号が躊躇いなく蓋を開けた。
ヴァルセリオとユリウスがぎょっとするが、1号はポイと金属を中へ放り込む。
そしてすぐに蓋を閉めた。
「リオ。これに魔力を流せるかな?」
「魔力?属性は?」
「何でもいいよ。最初の動力として必要なだけだから。ただ、ゆっくり、慎重にね」
リオは容器に手を当て、微量の魔力を流してみた。
魔力に反応して、瘴気がわずかに揺らいだ。黒いもやが徐々に消えていく。
瘴気魔獣の輪郭が、少しずつ縮んでいった。
金属そのものは変わらない。ただ、変化を“助けている”だけだ。
ユリウスが息を呑む。
「すごい……本当に、瘴気が減っていく……」
ヴァルセリオとノエルも目を輝かせた。
アレンとフィオナは顔を見合わせ、頷きあう。
だが、1号は不満げだった。
「効率が悪い。やっぱり魔法のほうが便利だね。光魔法があれば、これは要らないかも」
その言葉に、フィオナがしゃがみ込み、1号と目線を合わせる。
「そんなことない。誰にでもできるって、それだけで価値があるんだよ」
「誰にでも?」
1号の問いに、フィオナは優しく頷いた。
──誰にでもできるということ自体に、価値がある。
その言葉は、リオの胸に強く残った。




