第7話 理論の光
翌日、瘴気についての情報共有が行われた。
大人の事情で休校中のヴェルディア学園。
その教室の一つで、リオは1号と並んで教壇に立っていた。
目の前に座るのがアレンたち大人という、なんとも奇妙な構図だ。
集まっているのは、アレン、フィオナ、ヴァルセリオ、ノエル、ユリウス。
他の面々は「考える作業は任せる」と言い残してどこかへ行った。
「では、まず瘴気を魔力に戻す理論について……」
1号が、やや緊張した様子で口を開いた。
「ちょっ……ちょっと待ってください!今、瘴気を何に戻すと!?」
ヴァルセリオが勢いよく立ち上がる。
1号は目を丸くする。
リオは苦笑した。
「……1号、順番に説明しないと」
「うん、我としたことが……」
軽く咳払いして、1号は語り始める。
「まず、魔力は生命の力で……」
それが世界を巡っていること。
そして、人の悪意といった感情と結びついたとき、瘴気へと変質すること。
さらに──瘴気は浄化すれば魔力へと戻ること。
そして、瘴気は動力として利用可能だということ。
「つまり、光魔法による浄化と同じ仕組みを応用すれば、魔法なしでも瘴気を魔力に戻せるってこと?」
リオの問いに、1号は頷く。
「理論的には、可能だね」
それで、最初の一言が出たわけだ。リオは納得した。
「素晴らしい発見ですね。これまで“増え続ける瘴気をどう減らすか”を考えてきましたが、無害に戻せるうえ、瘴気自体にも使い道があると……」
そう呟くノエルに、1号は少し困ったように笑う。
「瘴気を直接動力として利用するのはおすすめしないよ。大陸を吹き飛ばしたくらいの力を秘めているからね」
「そうでした……」
ノエルが自分の腕をさすった。
リオは、ふと疑問がわいた。
「そういえば、瘴気を魔力に戻す理論って、1号が考えてくれたの?」
テラたちは魔力を使えないから、そんな理論は不要なはずだ。
ならば──。
「うん。リオは、瘴気より魔力の方がいいでしょ?」
1号は、何でもないことのようにそう言った。
リオは言葉を失う。
そんなリオを気に留めることなく、1号は続ける。
「それで、その理論なんだけど──魔金属が使えると思うんだ」
「えーてりうむ?」
ヴァルセリオがたどたどしく繰り返す。
「瘴気を高密……箱にぎゅうぎゅう詰めにして小さくして、強くしたものだよ」
その言い換えに、ヴァルセリオが小さく笑った。
「急に子ども向けの説明になりましたね」
アレンが腕を組む。
「それで、どう使うんだ?」
「元は瘴気だから、内部構造が魔力と悪意の結合に親和的でね。魔金属自体を触媒に、瘴気を魔力に戻せるんじゃないかと考えたんだ」
リオは、その言葉を頭の中で反復する。
……ダメだ、わからない。
1号が黒板に式を書く。
──魔力 + 悪意 = 瘴気。
「魔金属は、“魔力側”──つまり左辺に近い構造を宿している可能性があるんだ。だから瘴気に触れると、悪意を切り離し、魔力だけを呼び戻す“偏った媒介”として働くんじゃないかと思ってね」
リオは首を傾げる。
「しょくばい?」
「ある反応や過程を促進するけど、自分は反応の前後で変化しない存在のことだよ」
リオは反対側に首を傾ける。
まだ完全には理解できていない。
だが、魔金属が瘴気を魔力に戻す“触媒”だという感覚は、なんとなく掴めてきた。
「それって……杖みたいなもの?」
フィオナがポンと手を打つ。
「魔法を使うとき、杖を通した方が力を扱いやすいものね。でも杖が魔法そのものを生み出しているわけじゃなくて、間に入って補助しているだけ……」
話を聞いていたユリウスが、納得したように口を開く。
「へえ……じゃあ、触媒っていうのは、媒介できる物質そのもののこと?」
1号が笑顔で頷く。
「そういうことだね。じゃあ早速実験してみよう。アレン、頼んでいたものは用意してあるかな?」




