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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第10章 真実との邂逅
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幕間 1号

 部屋に、小さな子どもがいた。

 1号だ。


 淡い夕光が窓から差し込み、影が長く伸びている。

 研究に夢中になっていると、ひそやかな足音が近づいてきた。


 父がやって来て、いつものように頭を撫でる。


「今日はどんな一日だった?」


 問いかけは穏やかで、空気に溶けるようだった。


 1号は、見たこと、気づいたことを一生懸命話した。


「封印結晶の綻びから、瘴気を抽出する方法がわかったんだ!」

「そうか!そうか……よくやったね」


 微笑んだその人は、ひとつ──命令を口にした。


「瘴気を使って、この世界のあり方を変えなさい。生きるも死ぬも、すべては我らが決める。これこそが我らの望みであり、意志であり、未来だ」


 それは、1号には少し難しく、けれど──

 遠くまで届くような響きがあった。


「うん、やってみる」


 1号は迷わずうなずき、父の手を握り返す。

 その温もりを確かめながら、静かな夜が訪れる。

 1号は安心した顔のまま、眠りへ沈んでいった。


 ──目が覚めると、部屋はひどく静かで、父の気配がどこにもない。

 理由がわからないまま、1号は小さな声で父の名を呼び続けた。

 答えはなく、やがて再び眠りへと沈んでいく。


 *


 永遠とも一瞬ともつかぬ時が過ぎたのか。

 ある日、ふと再び目を覚ます。


 父はまだ帰ってこない。


 辺りの様子がおかしかった。

 どうやら、海に沈んでいるようだ。


 計器の表示は、2775年──眠ってから251年が過ぎていた。

 そこから都市の残骸を集め、元通りにするのに、5年もかかった。


 そうして一息ついたとき、あの日の頼みごとを思い出した。


 今なら、理解できる。


 瘴気を利用して、世界を変えるには、命を奪わなくてはいけない。

 自分が世界を、管理しなければならない。


 地上の瘴気濃度は、思ったより増えていなかった。

 もっと、瘴気の量を増やさなくてはいけない。


 そばにあったマグナ・オルビスを手に取る。

 これを使えば、種を蒔けるのではないだろうか。


 父の願いをなぞるように、小さな手が、静寂の中で動き出した。

1号の「父」は、若い生粋の研究者にすぎませんでした。

「父」と呼ばせてはいましたが、実際には父親としての器も、経験も持ち合わせていませんでした。


抑圧に耐えきれず、ただ「世界を変えたい」と願った一人の人間。

しかし、その力にふさわしい知恵も責任も備えてはいませんでした。

「自由に生きたい」という切実な願いは、「抑えつける者たちに怯えず生きられるように」という意図を伝えることなく、ねじれ、方法と結果だけが命令として残りました。


それでも、1号にとってその人は唯一の「お父さん」でした。

人は滅び、願いだけが1号に刻まれました。

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