第7話 愛の欠片
きっと、1号はテラが、自分たちの弱さを補うために創り出したのだろう。
テラの代わりに働き、戦い、従う──ただの“道具”として。
1号の話からして、父と呼ばせていたくらいだ。
愛情はあったのかもしれない。
けれどそれは恐らく、“モノ”を愛玩する感情だ。
1号の父親の瞳に宿るものが、愛ではなく、ただ従わせるための“命令のぬくもり”──冷たさを孕んだ熱だと気づいたとき、リオの胸に、言葉にならない痛みが走った。
1号は“善悪”を知らない。
教えなかったからだ。
父親は、どう接すればいいか分からなかったのだ。
だから、教えることから逃げた。
いつも真っすぐ向き合ってくれる父──アレンと違い、人としての責任を放棄したのだ。
リオの頬を、涙が伝った。
「ねえ。我はお父さんに、愛されていたのかな」
「……そんなの、愛じゃないよ」
嘘でも、そうだとは言えなかった。
「どうして泣いているの?」
1号に問われ、リオは言葉を失った。
けれど、言わない方がもっと残酷だと思った。
「哀しいと、思ったんだ」
「かなしい?」
1号が、リオの言葉を繰り返す。
「愛を知らないまま、愛を返そうと足掻くその姿が、ただ──哀しいと思ったんだ」
リオも、まだ十四歳だ。
愛なんてものは、全然わからない。
それでも、温もりの種類の違いくらいはわかる。
「……そうかあ」
1号が、息をついた。
「そうだよね……本当は、何となくわかっていたんだ」
軋む首を動かし、アレンとリオを見つめる。
「汝らを見ていると、嫌でも思い知らされる。ああ──これが羨ましいという感情なのかな」
胸が、ぎゅっと締め付けられた。
「ふふ……どうしてここに来る汝らを止めなかったのか、今ならわかる気がする。互いを想い合って、信じて行動する──それが、途方もなくまぶしくて、ただ、近くで見てみたかったんだ」
限界だった。
「父さん、俺……無理だよ」
リオは1号の左手を握った。
真っ白な床に、滴が落ちる。
「理由も、答えもなくなってしまった……俺はもう、1号に剣が向けられないよ」
ずっと黙って話を聞いていたアレンが、リオの手の上に、自分の手を重ねた。
そして、そっと離すと、横抱きにして1号の体を持ち上げる。
「父さん……?」
アレンは立ち上がった。
「1号。体を直す方法はあるんだろう。案内してくれ」
1号が、驚いたように目を見開く。
「でも、我は……」
「いいから早く答えろ。落とされたいのか」
1号が戸惑ったように視線を漂わせ、やがて一つの方向を指差す。
アレンは、静かに歩き出した。
リオもその後に続く。
背後から、フィオナたちの足音が響いた。




