第4話 壊れぬ牙
「1号、ひとつ問う」
アレンが口を開く。
「お前は瘴気を増やして、何がしたい」
1号はしばらくアレンを見つめた後、何か思い当たったように表情を明るくする。
「ああ!汝らの行動と真逆だから、理解できないんだね」
鈴の音のように澄んだ声で、笑う。
「我は世界を正す。瘴気はその目的を達成するための、手段に過ぎない」
「その“正す世界”に、人は存在するのか?」
アレンが問いかける。
1号の唇が、弧を描く。
「存在しないよ。そもそも、この世界における人間は異物だ。瘴気を生み出す、毒でしかない」
1号が、両腕を広げる。
「人間さえいなくなれば、自浄作用で瘴気も消える。それが、正しい世界の姿なんだよ」
それは、そうかもしれない。
だが、リオは思わず問い返す。
「テラは……テラの人達は、どうなるの?」
人間を異物とするなら、テラも例外ではないのでは──。
1号が、ため息をつく。
「汝は、本当にくだらないことを気にするね。ルミナスにとって、テラがどうなろうと関係ないでしょ?」
「そんなことない。ルミナスもテラも、古代の人が決めた、ただの枠組みだ。俺たちは、同じ人間なんだ」
魔法が使えるから、何だ。
技術を持っているから、何だ。
魔法も技術も、人を助けるために使える。
その素晴らしさを知っている。
だから、協力できるはずだ。
いがみ合わず、手を取り合えるはずだ。
「……リオ、もういい」
アレンが、リオの思考を止めた。
「自分の内にある“守りたいもの”だけを指針にしろ。道理の通じない相手には、“俺たちの理由”を突き付けて戦うしかないんだ」
リオは、言葉を返そうと口を開きかける。
だが、その前に。
フィオナが1号を見据え、静かに告げた。
「リオ、ユリウス、イリス。自分の心が壊れないための、答えを持ちなさい」
理由。
答え。
目の前の少年が人類の敵ならば──止めなくてはいけない。
同じ結論に至ったイリスが、1号に槍を突き付ける。
それに呼応して、リオが剣を振る。
1号の肘が、反対方向に曲がる。
両腕でイリスの攻撃を捌き、垂直に脚を上げ、リオの追撃を受け止める。
空気がビリビリと裂けた。
ユリウスが水魔法で、床についた1号の脚を封じる。
1号が煩わしそうに顔を歪める。
「ああもう、鬱陶しいなあ」
腕が伸び、鞭のようにしなって振動が壁まで伝わる。
瓦礫が舞い、砂塵が辺りを包む。
イリスとユリウスは宙を舞い、壁に叩きつけられる。
「イリス!ユリウス!」
リオは叫ぶ。
二人とも、打ち付けられ、意識が朦朧としているのか、すぐには起き上がれない。
1号が、自由になった脚で床を蹴り、体を回転させる。
アレンが剣で、蹴りを受け止める。
両足を床に滑らせ、蹴り返す勢いのまま、瞬時に体勢を立て直す。
リオも剣を合わせるが、うまく着地できない。
左手と両足で体を支え、床を滑らせながら反転し、反撃の構えを作る。
「どうせすぐに朽ちるのに、どうしてそこまで必死になるかな。朽ちたら、何も残らないでしょ?」
「そんなこと、ない!」
立ち上がり、リオは力強く断言する。
「過去の人の……先人の積み上げたものを、侮辱するな!」
今の平和は、先人の──アレンたちの努力の結晶だ。
それを踏みにじられるのは、許せなかった。




