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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第10章 真実との邂逅
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第3話 止まらぬ牙

 お父さん──その言葉に、リオは小さな引っ掛かりを覚える。


「父親が、いるの?」

「そうだよ。我にも当然、我を創った者がいる。そのお父さんのお願いなんだ。叶えるのは当然でしょ?」


 リオはさらに問いかけようとした。

 だが、1号の視線は、蒼白で息の荒いアレン、その肩を支えるフィオナに移っていた。


「瘴気を減らす。あれは実に見事な仕組みだよ。無くせないものをどう減らすか、よく考えられている」


 賞賛の響き。

 しかし次に落ちた言葉は、氷よりも冷たかった。


「──だから、壊すしかないよね」


 1号がかき消えた。


 次の瞬間、アレンの真横で刃が空を裂く──その軌跡の中から影が現れる。


 アレンがフィオナを突き飛ばす。

 そのまま身をねじ込み、歯を食いしばり、剣で受け止めた。


 轟音。


 1号が軽やかに着地する。

 真っ白な壁に亀裂が走り、その中央でアレンが呻く。


 フィオナが浄化の魔法を放つ──だが、何も起こらない。


「ああ、無駄だよ。我は瘴気魔獣じゃないから、浄化できない。でもいいね、試すのは大事なことだよ」


 またも賞賛。

 その無邪気さが、余計に不気味だった


「汝は魔法しか使えないんでしょ?最後に回してあげるから、大人しくしているといいよ」


「ふざけ…ないで……」


 フィオナの唇が震え、肩も小刻みに揺れる。


 ──もう、見ていられなかった。


 リオも床を蹴る。

 全身に力を込め、足裏が痛みを覚えるほど踏み込んだ。


 1号はフィオナに視線を向けている。

 その背後から切りかかる。


 ぐりん、と首だけが回った。


「なっ……!」


 体は前を向いたまま、顔だけが真後ろを向いている。

 視線が、こちらを射抜いた。


 背筋を氷でなぞられたような嫌悪感が、一気に全身を締めつけた。


 刃と化した腕が、リオの剣を弾く。

 手首の震えを、抑えきれない。


 ユリウスが、掠れた声で呟いた。


「化け物……」


 1号が、心外だと言わんばかりに眉を寄せる。


「我にしてみれば、魔法などという不確かなものを使う汝らの方が、よっぽど化け物だよ」


 視界の端で、イリスが怯えた表情で一歩後ずさる。


 瓦礫を踏み砕きながら、アレンが立ち上がる。

 手首を返し、口元を掠めるように拭う。


 剣を握り直し、視線はそのまま、1号を射抜いた。


「この……外道が……」


 1号が、ゆるりとアレンに視線を返す。


「うん、その言葉は半分正しいね。我は人間ではないから、汝らの道徳観念はわからない」


 リオは理解する。


 この少年には、人の心がない。

 言葉を尽くしても届かない──人倫を外れた存在。


 人としての前提を失った相手に、何を向ければいいのか。

 相手を“人”だと信じているからこそ、言葉を向けることができる。

 責任や罪も……その延長にある、はずだった。


 だが、その土台が崩れた今──討つべき“敵”として割り切ればいいのか。

 それとも、何か人らしいものを探し続ければいいのか。

 わからなくなる。


「父親は……1号、お父さんと話せないかな」


 リオは、縋るように願った。


 しかし1号は、リオを見ることもなく、淡く笑う。


「話してどうするの?返事があっても──我の在り方は変わらないよ」

「そんなの、わからないじゃないか。お父さんは、テラなんでしょ?」


 ──1号を創ったその人は、人間だ。

 ならば、話が通じるはずだ。


 だが、その一縷の望みも、冷たく砕かれる。


「お父さんはもういないよ。我が創られて、どれだけの時が過ぎたと思っているんだい?」


 膝が崩れ落ちそうになり、リオは剣の柄を握る手に力を込めた。


 父親の願いを叶えると言いながら、その父はもう存在しない。

 ならば──人としての理が通じないこの少年を、いったい誰が止められるというのか。

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