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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第10章 真実との邂逅
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第2話 誰も知らぬ罪

 どうして、こんなことをしたのか。

 何が、引き金になったのか。

 俺たちと、これからどうありたいのか。


 確かめに来たはずだった。

 確かめに来た──はず、だったのに。


「みんなで、頑張ったんだ。みんなで……」


 ボロボロになって、一生懸命、頑張ったのだ。

 それなのに。


「ふうん」


 1号が笑みを消す。


「頑張る、努力する、根性。そんなつまらなくて定性的なものに、我は負けたのか」


「え……?」


 リオは耳を疑った。

 言葉が、頭のどこにも届かない。


 ──つまらない?

 昨日のあの死闘を。

 つまらないと、言ったのか?


「本当に……ルミナスは、どうしていつも、我の邪魔をするのか」


 1号が、ため息をつく。

 その淡々とした声が、胸の奥に、冷たい刃を差し込む。


「50年前にマグナ・オルビスを与えたというのに、結局、竜の復活にも失敗してしまった」


 マグナ・オルビス。

 竜の復活。


 はっと、リオは両親を見た。

 二人の表情が──凍り付いている。

 瞬き一つせず、呼吸の音すら、聞こえない。


「救済の環、といったかな。あれは本当に、都合が良かった。28年前には、ルミナスの瘴気魔獣化にも成功したし……」

「28年前……?」


 アレンの声が、震える。

 喉から無理やり絞り出した、ひび割れた音。


「そう、たしか……フロル村と言ったかな。それに、16年前も、もう少しで竜を復活させられる、というところまでいったのに」


 16年前。

 父と母が、竜を、そして世界を救った時。


 頭の奥で、何かが砕けた気がした。

 考えが、追いつかない。

 心だけが、遅れて沈んでいく。


 アレンが、床を蹴る。

 フィオナが、詠唱する。


 光の槍が1号に襲い掛かった──だが、1号の手の一振りで、魔法は刹那に消えた。


 アレンの剣を受け止め、1号は困ったように眉を寄せる。


「ほら。人間は、怒ると直ぐに動きが単調になる。魔法が効かないのも、学習済みでしょ?」


 いつの間にか、1号の腕に黒い結晶が浮き出ていた。

 昨日、必死に倒した竜の、結晶鱗と同じもの。


 背筋が総毛立つ。

 世界が白く遠のいていく。


 アレンが叫ぶ。


「お前が!!お前が、俺の大切な人たちを殺したのか!!」


「それは、少し早計じゃないかな」


 1号は微笑む。

 その無邪気な笑みが、言葉よりも残酷だった。


「我はただ、種を蒔いただけ。水をかけ、育てたのはルミナス。汝たちなんだ」


 リオは、ゆっくりと首を横に振ることしかできない。

 膝が震え、足裏の感覚が消えていく。


 ──聞きたくない。

 耳を塞いでも、声は内側から響いてくる。


「雨が降って、洪水が起こった。汝は、雨雲に文句を言うのかな?」


 その言葉は、正しい。

 確かに、正しい。


 だが──体が。

 心が受け付けない。


 喉の奥が焼け、声にならない叫びだけが震えた。

 正しさが、ただひたすら、憎らしい。


 アレンの剣が、弾き返される。


「せっかく、瘴気が順調に増えていたというのに。汝たちが対策を取ったせいで、こちらも、動かざるを得なくなってしまった」


 1号は、心底困ったように言う。


「アレン、と言ったかな。汝は邪魔だな。汝がいる限り、ルミナスは絶望しない」


 リオは呼吸を忘れていた。

 胸が焼けるほど苦しいのに、吸えない。


「それに、光魔法の主要な使い手を確保しようとしたのに。一人、逃げた」


 裂け目に吸い込まれる母の姿が、焼き付いたまま甦る。


 頭が、真っ白になる。

 心臓が、ひとつ抜け落ちた。


「複数の被検体は不要だから、もう一人は始末する予定だったのに。邪魔をしてくれたね」


 蛸型の瘴気魔獣。

 頭を貫かれかけた瞬間が、脳裏をよぎる。


 胃の奥が反転する。

 吐き気と、寒気が、一気に込み上げた。


「もう……お前は話すな。何も、言わないでくれ」


 アレンが、乾いた声で懇願する。

 その声には、怒りも、悲しみもなく──ただ、耐え切れぬ絶望だけが、滲んでいた。


「光魔法が、どういうものかはわかった。もう、十分だ。だから、いなくなってもらうよ。お父さんのためにも」

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