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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第10章 真実との邂逅
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第1話 計算された出会い

 プシュー、と静寂を裂くように空気の抜ける音がした。

 扉が開く。

 まるで、こちらを誘っているかのようだ。


 リオたちは顔を見合わせ、その扉をくぐる。

 白一色の廊下が静かに伸び、やがて広間へと開けた。


 白が、すべてを覆っていた。

 天も地も境を失い、果てしない白がただ続く──足元の感触だけが、かろうじて現実を繋ぎ留めていた。


 空中には、無数の半透明の窓が漂う。

 そこには見覚えのある街角、人物、事件の断片──過去の世界が、息づくように脈動していた。

 視線を動かすたび、光景がわずかに揺れた。


「ここは……」


 リオの声も、どこか遠くに吸い込まれるようだった。


 白の空間に、ひときわ冷たい気配が立ち込める。

 音も影もほとんどないのに、理知的な何かの圧が身体を締めつける。

 無数の目が、リオたちの動きを記録しているかのようだった。


 そして、空間の中心に──その人は、無機物のように静かに立っていた。


 白髪が光を受けて、静かに揺れる。

 小さな体躯に収まったすべてが左右対称で、服の襟や袖まで、どこを見ても無駄がない完璧な形。

 瞳は透き通った氷の青。

 口元には笑みを浮かべているが、目が笑っていない。


 立っているだけで空間の秩序を支配しているかのようだった。

 無限に広がる白い半球状の部屋に、まるで一点の焦点のように存在する。


 手足の角度、首の傾き、まばたきの間隔に至るまで、計算し尽くされた均整。


 リオは、無意識に一歩後ずさる。

 その無垢な姿と、非人間的な精密さのせいで、理性よりも先に、圧倒される──。


「ようこそ。(われ)(なんじ)たちを歓迎するよ」


 少年の声は無色透明で、空気そのもののように耳へ滑り込む。

 鼓動が跳ね、思わず肩を震わせた。


「昨日の襲撃は、残念ながら失敗してしまった」


 空気が、わずかに震える。

 誰も、息を吐けない。

 アレンの眉が、ピクリと動いた。


「けど、かなり上手くできたと思うんだ。ねえ、どうだった?汝たちの感想が聞きたいんだ」


 口が開いたまま、声が出ない。

 リオは、理解できなかった。


 ──今、何を質問された?


「教えてよ。休む間を与えず、神経がすり減っているところへ、最も頼りにする象徴を消す。これ以上ないくらいの劇的な筋書きなのに、どうして失敗したかわからないんだ」


 無限に広がる白に、たったひとり。

 少年の存在だけが、鮮烈に浮かび上がった。


 *


 誰も、何も言えなかった。

 子どもの見た目でありながら、言葉は流暢だった。だが、その口調はどこか幼い。


 何だ、これは。

 誰だ、これは。


 リオは震えた。


 アレンが、呆然と呟く。


「お前は……テラ、なのか?」


 その問いに対して、少年は笑顔のまま首を傾げた。


「質問に答えてくれないのに、質問をするんだね。まあ、いいけど。違うよ、我はテラではない」

「え……?」


 リオの口から、思わず声が漏れる。


「我は、創られた存在だから──」


 少年は一拍置き、微笑んだ。


「そもそも人間という括りですらない。我のことは、そう……1号と呼んでくれるかな」


「創られた……存在?」


 フィオナが問う。


「汝らのわかるように言うと……自ら考え動くゴーレムのようなもの、かな」


 少年──1号が、胸の前で手を合わせる。


「それで?どうして汝たちは、グランゼリアを守り切れたのかな?」


 問いは一巡し、再びリオたちへと突き刺さる。


「象徴を踏みにじる、瘴気魔獣。あれは効果的だったでしょ?」


 少年はわずかに首を傾け、青い瞳を瞬かせた。


「ルミナスの中で、英雄と呼ばれる者たちに最も響くであろう、“竜”の姿を模してみたんだ」


 アレンが息を飲み、目を見開く。

 フィオナは胸の前で両手を握り、1号を睨みつけた。


「もう一体も、聖導教会……祝福をつかさどる場所に落とすのだから、その場で最も映えるように、“祈りを歪めた”姿にしたんだ」


 リオも、ユリウスも、イリスも、言葉が出ない。


「せっかく対魔法の工夫も施したのに……」


 刃が、人の形を借りて、語っていた。

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