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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第9章 海への旅
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幕間 フィオナ

 おそらく食事である謎のゼリーを口にする。

 フィオナの目は据わっていた。

 そして決意する。今日こそ、ここを抜け出すと。


 昨日、突然闇に飲まれた。

 足元が消えて、浮遊する感覚。


 リオは外へ出すことができた。

 それだけで、フィオナはひとまず満足だった。


 一日目は、混乱して、部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。

 だが二日目、それは無駄だと気づく。



 そして、心配がよぎった。

 落ちた瞬間に振り返り、アレンに大丈夫だと伝えた。

 でも、あの顔は師を──ダリオスを喪った時の顔に似ていた。


 リオはきっと大丈夫、アレンが傍にいるから。

 でも、そのアレンが心配だった。


 絶対に無茶をする。

 だから、こちらから迎えに行かないといけない。


 詠唱し、光魔法で壁を攻撃する。

 ほとんど傷はつかない。


 歯を噛みしめる。

 アレンやリオのように、攻撃魔法が使えたら……。

 せめて剣士であれば。何でもいい、武器があれば。


 フィオナは振り返った。

 そこには、切断された杖が落ちていた。


 それを拾い、胸元で抱きしめる。

 負けない。


 何度も、何度も、同じところを攻撃した。



 時折、天井が開いて瘴気魔獣が降って来た。

 フィオナにとっては、恐れる必要すらない。


 だが、もしあの闇に吸い込まれたのが、自分でなかったら。


 ぞっとして、力任せに瘴気魔獣を浄化した。


 己の魔力量を確認しつつ、何度も壁に魔法をぶつける。

 黒い跡が付いたが、壁はびくともしなかった。



 四日目。

 フィオナは出される謎のゼリーを数え、日数を把握していた。

 だが、昼夜の感覚までは把握しきれない。


 ひっそりと、常に細く、魔力を体外に放出していた。

 これは賭けだった。


 ここがどこかは見当もつかない。

 だが、アレンならきっと探し出してくれる。


 諦めてはだめだ。

 できることを、するんだ。


 その時だった。

 胸元が、熱くなった。


 フィオナは目を見開いた。

 温かい、よく知る魔力が体を包み込み、そして消えた。


 一瞬だった。

 だが、既に懐かしさを感じるその温もりに、涙が零れた。


 *


 見つけてくれた。

 アレンはきっと来てくれる。


 そう信じて、今日も壁に魔法をぶつける。


 金属の軋むような音が聞こえて、フィオナは手を止めた。

 今まで見向きもしなかった方の壁から、音がした気がする。


 続けて、また音がした。

 壁にひび割れが走る。


 そして、三度目の音で、壁が割れた。

 扉のように、ゆっくり開く。


 金属の崩れる音が、部屋に響き渡る。


 アレンだった。

 アレンがそこに立っていた。


 視線が絡み、フィオナは駆け出した。


「フィオナ」


 アレンが名を呼び、一歩、踏み出す。


 次の瞬間、その胸に飛び込んだ。


 アレンの体がぐらりと揺れ、そのまま尻もちをつくように倒れ込んだ。


 一瞬、硬直する。

 それから、ゆっくりと、抱き返してくれる。


 互いの震えが、伝わり合う。

 アレンが、安堵の吐息を漏らす。


 ──信じてた。

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