幕間 アレン
目を瞑るたび、あの光景が脳裏に浮かんだ。
漆黒の裂け目に飲まれるフィオナ。
リオを助けた後、振り返った彼女は、胸元──揃いの指輪が揺れているはずの場所を強く握り、口を動かした。
「私は、大丈夫だから」
咄嗟にできることはした。
ユリウスの杖を投げ込み、裂け目の特徴を少しでも掴もうとした。
だが、助けられなかった。
どれだけ強くなっても、大切なものはこの手を零れ落ちていくのか。
リオにかけた言葉は、すべて自分へ向けたものだった。
どんな時でも、揺らいではいけない。
頭がいっぱいになったら、体を動かせばいい。
取り乱したところで、何も解決しない。
うろたえる間も、足踏みも、無駄だ。
眠れない夜、己を限界まで酷使した。
日中はいつも通りに過ごし、夜は魔力を使いつぶす勢いでフィオナを探す。
円の中央に立ち、花びらを数えるように。
刻まれた十二の扇を順に探索する。
一日で、十二のうち一つが限界だった。
一番怪しんだのは、竜と戦った北。
だが魔力の痕跡はない。
次は人の多い南。
ここも空振り。
だったら東だと思ったのに、やはり見つからない。
完全に範囲内に収まらなくても、近ければわかるはずなのに。
焦燥だけが広がっていく。
四日目。
リオとともに、竜を──竜の偽物を討伐した。
白銀の剣を振るうその姿は、まるで自分を見ているかのようだった。
すべてが終わった後、海に浮かぶリオの笑顔を見てほっとする。
ふと目を上げると、夕焼けが視界を染めていた。
まさか、西?
西には海しかない。
だから、最後にしようと思っていた。
だが、アレンは己の直感を信じた。
日中に魔法を使い、魔力は少ない。
それでも、限界まで絞り出す。
ゆっくりと探索範囲を広げる。
取りこぼさぬように。
決して、逃さぬように。
目は閉じたまま、魔力の感覚だけを頼りに探索する。
脳裏に、白が揺らめく。
──見つけた。
アレンは目を開けた。
ようやく、見つけた。
すぐに迎えに行く。
だから、どうか無事でいてくれ。
その思いだけを魔力に込め、か細い白の光を包む。
魔力が切れた。
意識が、飛びそうになる。
リオに伝えなければ。
あの子も、心配していた。
早く、伝えなくては。
足がもつれ、転ぶ。
ベッドにもたれかかるように倒れ込み。
アレンは、完全に意識を失った。




