第5話 意志の力
1号は表情を消した。そして、首を傾げる。
「そんなもの、理解できないしどうでもいいよ。まあ……時には興味深いこともあるけれど」
心底わからないと、とぼけたように呟く。
「それだけだよ、結局は不必要。邪魔なものなんだ」
ああ、ダメだ。
リオは泣きそうになって顔を歪めた。
言葉が通じないのは、わかっているのに。
わかってほしくて、言葉を重ねてしまう。
その矛盾に気づいていて、やめられない。
だって、問えば言葉が返ってくるのだ。
会話は、できるのだ。
それなのに、ただ、わかり合えない。
アレンが斬り込む。
「またそれかい?我に一度見せたものは、繰り返さない方がいいよ」
どれだけ早く斬り込んでも、正確に弾かれる。
弾かれた勢いのまま宙で回転したアレンの足元に、光が収束する。
「おや?」
1号が、少し驚いたように眉を上げた。
それは光の盾だった。
1号の周囲に、フィオナが作った白銀の盾がいくつも浮かぶ。
アレンはそれを足場に、軌道を変えて斬り込む。
1号が眉をひそめた。
アレンの動きを目で追おうとするが、フィオナの魔法の槍が現れ、そちらに視線が向く。
1号が魔法の無効化を優先した。
左腕を結晶化させる。
魔法が無効化された──それと同時に、アレンが右腕を斬り落とした。
ガシャン、と腕が落ちた。
生身でない、金属のような音。
断面には、金属の紐のようなものが詰まっている。
「ふうん……優先順位を間違えたね。失敗したよ」
片腕を失ったのに、1号は何事もないようにそう言った。
「痛く……ないの?」
リオが問うと、1号はおかしそうに笑う。
「痛覚のことを言っているのかな?そんなものはないよ。体の異常は、構造上の変化を見ればわかるから」
言葉は淡々としていた。
だが、その瞳に、初めて好奇心が宿る。
「汝は、我をすぐに人間と同等のものとして扱おうとする。何度無意味だと言っても、繰り返すんだろうね。なんて愚かで……おもしろい」
アレンが再び、踏み込む。
一瞬で間合いを詰めた。
1号は話の邪魔をされたことを不快に思ったのか、視線を向けずに左腕で受け止めようとする。
アレンの右腕が振り下ろされる──そう見えた瞬間、体の後ろに隠していた左腕が、振りかぶられる。
右手の炎の剣が掻き消え、入れ替わるように、左手の本物の剣が振り抜かれた。
1号の左脚が飛んだ。
その体が、ぐらりと傾ぐ。
この隙を、逃してはいけない。
リオも駆け出した。
しかし、1号はすぐに、一本の脚で姿勢を保った。
「はは!すごいね!さっきのもだけど、これも“見た”ことがない!」
1号が右の蹴りで深く床を叩いた。
その反動で、体が螺旋を描くように回る。
左の腕が弧を描き、リオたちの視線を奪う――その刹那、右の脚が横へ跳ね、リオとアレンの足元を掬った。
「うわっ!」
リオの手から剣がこぼれ落ちる。
アレンも体勢を崩した。
軸の慣性を乗せた左腕が突き出される。
刃のように伸び、アレンの胴を抉った。
右脚で床を蹴り返し、勢いのまま距離を詰める。
アレンが呻いた。
「……っ!」
左腕でアレンの動きを封じたまま、右脚の鋭い一撃が振り下ろされる。
その脚を見上げたアレンは、ふっと口角を上げて、剣を投げるように手放した。
1号が、目を丸くする。
「……は?」
予想外の動きに戸惑い、一瞬、動きが鈍る。
リオが、空を舞うアレンの剣を掴み取る。
体をひねり、下から、迎え撃つように振り上げた。
脚と刃がぶつかる──その衝突ごと、断ち割った。




