第10話 自由の代償
三百年前の記録。
その重みを遅れて理解した瞬間、リオの顔から血の気が引いた。
これは──物語ではない。
現実だ。
「どういうことだ……竜を封印したリュミナは、瘴気を憂いていたはずだぞ!」
アレンの声が、怒りと混乱に震える。
「つまり……そのリュミナという人は、ルミナスだったってこと?」
リオが呟く。
イリスが、小さく身を震わせた。
「ねえ、ルミナスを殲滅って……私たちも魔法が使える。じゃあ、私たちもルミナスってこと?」
「けど、僕たちは生きてる。魔法を使えない人なんて、存在しないよ?」
ユリウスが首を横に振りながら言う。
リオは、黒い板を両手で叩いた。
「ねえ!テラの人達はどうなったの!?」
声を張るが──答えは、返ってこない。
アレンが、頭痛をこらえるようにこめかみを押さえた。
苦そうに息を吐く。
「ひとまず整理する。三百年前の記録によると、二種類──魔法を使える人間と、使えない人間が争っていた」
「魔法を使えない人間──テラは西へ逃れ、瘴気を利用する術を極めた……」
フィオナが続ける。
声は落ち着いているが、その瞳は、どこか厳しさを帯びていた。
「そして、竜の瘴気に目を付けた」
アレンが、被せるように言う。
「こいつらか……すべての元凶は、テラ──こいつらなのか……」
回復していないはずのアレンの魔力が、怒りに呼応するように迸った。
「アレン、落ち着いて!」
フィオナが、その腕を強く抱きしめる。
「まさか……テラの生き残りが、ルミナス──俺たちを、今度こそ消し去ろうとしている?」
点と点が繋がり、一本の線になる感覚。
その意味を悟った瞬間、リオは背筋が冷たくなるのを感じた。
「納得がいった」
アレンの、怒りに満ちた低い声。
「何故、あんなにも徹底的に精神を抉る真似ができるのか……こいつらが、俺たちを同じ人間だと思っていないからだ」
「記録にあったでしょ……彼らも、追い詰められていたのかもしれない!」
フィオナは感情的に押し返すのではなく、必死に声を上げる。
「追い詰められたとしても。その恨みを殲滅で返す者が、まともな人間だと言えるか!」
苛立ちを含んだまま、アレンが叫ぶ。
場の空気が張り詰める中、フィオナの瞳が涙に揺れた。
アレンの目に、やっと冷静さが戻る。
目を閉じ、顔を上げる。
「……すまない。取り乱した」
長い息が、静寂に溶けていく。
「……人は、本当に追い詰められれば、倒してでも自由を掴もうとする生き物だったな」
その言葉に、フィオナが目を見開く。
堪えきれず、涙をこぼした。




