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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第9章 海への旅
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第10話 自由の代償

 三百年前の記録。

 その重みを遅れて理解した瞬間、リオの顔から血の気が引いた。


 これは──物語ではない。

 現実だ。


「どういうことだ……竜を封印したリュミナは、瘴気を憂いていたはずだぞ!」


 アレンの声が、怒りと混乱に震える。


「つまり……そのリュミナという人は、ルミナスだったってこと?」


 リオが呟く。

 イリスが、小さく身を震わせた。


「ねえ、ルミナスを殲滅って……私たちも魔法が使える。じゃあ、私たちもルミナスってこと?」

「けど、僕たちは生きてる。魔法を使えない人なんて、存在しないよ?」


 ユリウスが首を横に振りながら言う。


 リオは、黒い板を両手で叩いた。


「ねえ!テラの人達はどうなったの!?」


 声を張るが──答えは、返ってこない。


 アレンが、頭痛をこらえるようにこめかみを押さえた。

 苦そうに息を吐く。


「ひとまず整理する。三百年前の記録によると、二種類──魔法を使える人間と、使えない人間が争っていた」

「魔法を使えない人間──テラは西へ逃れ、瘴気を利用する術を極めた……」


 フィオナが続ける。

 声は落ち着いているが、その瞳は、どこか厳しさを帯びていた。


「そして、竜の瘴気に目を付けた」


 アレンが、被せるように言う。


「こいつらか……すべての元凶は、テラ──こいつらなのか……」


 回復していないはずのアレンの魔力が、怒りに呼応するように迸った。


「アレン、落ち着いて!」


 フィオナが、その腕を強く抱きしめる。


「まさか……テラの生き残りが、ルミナス──俺たちを、今度こそ消し去ろうとしている?」


 点と点が繋がり、一本の線になる感覚。

 その意味を悟った瞬間、リオは背筋が冷たくなるのを感じた。


「納得がいった」


 アレンの、怒りに満ちた低い声。


「何故、あんなにも徹底的に精神を抉る真似ができるのか……こいつらが、俺たちを同じ人間だと思っていないからだ」

「記録にあったでしょ……彼らも、追い詰められていたのかもしれない!」


 フィオナは感情的に押し返すのではなく、必死に声を上げる。


「追い詰められたとしても。その恨みを殲滅で返す者が、まともな人間だと言えるか!」


 苛立ちを含んだまま、アレンが叫ぶ。


 場の空気が張り詰める中、フィオナの瞳が涙に揺れた。


 アレンの目に、やっと冷静さが戻る。

 目を閉じ、顔を上げる。


「……すまない。取り乱した」


 長い息が、静寂に溶けていく。


「……人は、本当に追い詰められれば、倒してでも自由を掴もうとする生き物だったな」


 その言葉に、フィオナが目を見開く。

 堪えきれず、涙をこぼした。

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