第9話 起源の記録
「リオ、不用意に触れるな」
アレンの低い声が響く。
だがリオの視線は、台座に浮かぶ光の立体から離れなかった。
回転する光の立体に指先が触れた瞬間、淡い光が走り、形が変わる。
円形の台座いっぱいに、宙に投影された無数の文字が浮かび上がった。
仲間から、息をのむ音が漏れる。
リオはただ、その文字を目で追い、無意識に声に出していた。
──2512年。ルミナスが攻め込んできた。
──我らテラは、西の地に逃れた。
光が微かに揺れ、文字の列が宙で波打つ。
「西……?」
ユリウスが小さく息を吐く。
──ルミナスは数で勝り、魔法という異能の力を持つ。
──テラは数が少なく、魔法を持たぬ。
──武力では勝てず、追われ、最後に辿り着いたのが西の地だった。
──だが、そこも安住の地にはならなかった。
「古代人は……一か所に留まらず、転々としていたって……」
イリスが呟く。
──対抗するために、我らは科学を極めた。
──魔法を持たぬ我らが扱える唯一の力──それは瘴気。
──瘴気を動力源とすれば、魔法に匹敵し、ルミナスに抗うことも可能となる。
──事実、瘴気の軍事利用により、この地を守ることができた。
──我らはここに、テラの楽園を築く。さらなる瘴気が必要だ。
「瘴気を……軍事利用……?」
アレンの声が低く震える。
──2518年。突然、大気の瘴気濃度が減少。調査を開始。
──2520年。北の大地にて封印を発見。
──そこには、魔法により眠らされた竜がいるらしい。
「竜……!」
フィオナが息をのむ。
──竜は大量の瘴気を、その身に取り込んでいる。
──これを使えば、ルミナスに勝てる。
──2521年。封印解放ならず。綻びを作るにとどまる。
──2522年。綻びから瘴気の抽出に成功。大量の瘴気を得た。
──これでついに、ルミナスを殲滅できる。我らは自由だ。
記録は、そこで途切れていた。
一瞬、息をすることすら忘れたかのようだった。
重い沈黙が落ちる。
リオは、空想の物語を読んでいるかのような感覚のまま、息をついた。
「竜の封印に綻びを作り、瘴気を抽出した、だと……?」
アレンの声が、微かに震える。
「待って、その前に……テラ?魔法が使えない?魔力は、誰にでも流れているはずなのに……」
フィオナが呆然と呟いた。
リオは、ふと視線を落とす。
右下に、数字が刻まれている。
その数字は、一秒ごとに増えながら──2830年を示していた。
世界が裏返るような感覚が、リオの胸を貫いた。




