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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第9章 海への旅
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第8話 白の迷宮

 話を聞いたフィオナは、少し青ざめた顔で口元に手を当てた。


「そんなことが……」


 怪我がないか心配したのだろう。

 フィオナはアレンの体に触れ、次にリオ、続けてユリウスとイリスを順に確かめていく。


 そうして、誰も怪我していないことを確認すると、ほっとしたように笑みを浮かべた。


「母さん、ここは敵の本拠地じゃないかと……思うんだ」


 リオは言葉を選びながら続ける。


「でも、誰もいないし古代文字だらけで……ちょっと自信がなくなってきた。何か見たり、聞いたりしなかった?」


 フィオナは申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「ごめんね。私もこの部屋から出られなかったから……アレンに気づいてもらえるように、魔力を細く流し続けるくらいしかできなくて」


 そう言って、壁に目を向ける。

 よく見ると、壁の一か所だけが黒く焦げていた。


 フィオナは頬に手を当て、おっとりとした口調で言う。


「光魔法じゃ、どうしようもなくて……」

「え、光魔法でこれを?」


 すかさずユリウスが驚いて突っ込む。


「……とにかく、移動しよう。こうなったら、しらみ潰しに探索するしかない」


 アレンが踵を返す。

 リオたちも頷いて、その背を追った。


 *


 相手の行動が読めない以上、警戒は怠れない。

 なるべく身を寄せ合って移動していると、突然ゴゴゴゴ、と重い音がした。


 アレンが足を止め、手で制する。


 目の前の壁が突如せり上がり、代わりに右側に通路が出現した。


 リオはごくりと唾をのむ。

 見た目は代わり映えのない白い廊下だが、まるで誘導されているかのように、道が変わった。


 常に何かに見られている。

 そんな感覚に、頬を伝って汗が流れた。


 アレンは一瞬迷ったようだったが、やがて短く呟く。


「……行こう」


 一行は、再び足を進める。


 しばらく歩くと、広い場所に出た。


 中央に円形の台があり、その一部だけがわずかに凹んでいる。

 そこには黒く小さな四角がびっしり並んだ板。


 押せばカチリと音がしそうで、触れれば何かが起こりそうな、不思議な道具だった。


「ここ……何かしら?」


 イリスが周囲を見回しながら呟く。


 リオは円形の台に近づく。

 まるで「ここを押してください」と言わんばかりに、一つだけ形の違うボタンがあった。


 手を伸ばした瞬間、胸の奥がざわつく。

 緊張と、期待。


 一瞬だけ迷い──好奇心が(まさ)った。

 試しにポチっと押してみる。


 ブンッ、と空気を震わせる音が響き、円形の台の上に立体的な何かが、ゆっくりと浮かび上がった。


 リオ以外の全員が、即座に臨戦態勢を取る。

 だが、立体のそれは、透明な光の層の中でゆっくり回転するだけで、何も起こらない。


「……でーたばんく?」


 読めるけれど、意味がわからない古代語。

 理解しようとしたがさっぱりわからず、リオは眉をひそめ、宙に浮かぶ光を見つめた。

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