第8話 白の迷宮
話を聞いたフィオナは、少し青ざめた顔で口元に手を当てた。
「そんなことが……」
怪我がないか心配したのだろう。
フィオナはアレンの体に触れ、次にリオ、続けてユリウスとイリスを順に確かめていく。
そうして、誰も怪我していないことを確認すると、ほっとしたように笑みを浮かべた。
「母さん、ここは敵の本拠地じゃないかと……思うんだ」
リオは言葉を選びながら続ける。
「でも、誰もいないし古代文字だらけで……ちょっと自信がなくなってきた。何か見たり、聞いたりしなかった?」
フィオナは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ごめんね。私もこの部屋から出られなかったから……アレンに気づいてもらえるように、魔力を細く流し続けるくらいしかできなくて」
そう言って、壁に目を向ける。
よく見ると、壁の一か所だけが黒く焦げていた。
フィオナは頬に手を当て、おっとりとした口調で言う。
「光魔法じゃ、どうしようもなくて……」
「え、光魔法でこれを?」
すかさずユリウスが驚いて突っ込む。
「……とにかく、移動しよう。こうなったら、しらみ潰しに探索するしかない」
アレンが踵を返す。
リオたちも頷いて、その背を追った。
*
相手の行動が読めない以上、警戒は怠れない。
なるべく身を寄せ合って移動していると、突然ゴゴゴゴ、と重い音がした。
アレンが足を止め、手で制する。
目の前の壁が突如せり上がり、代わりに右側に通路が出現した。
リオはごくりと唾をのむ。
見た目は代わり映えのない白い廊下だが、まるで誘導されているかのように、道が変わった。
常に何かに見られている。
そんな感覚に、頬を伝って汗が流れた。
アレンは一瞬迷ったようだったが、やがて短く呟く。
「……行こう」
一行は、再び足を進める。
しばらく歩くと、広い場所に出た。
中央に円形の台があり、その一部だけがわずかに凹んでいる。
そこには黒く小さな四角がびっしり並んだ板。
押せばカチリと音がしそうで、触れれば何かが起こりそうな、不思議な道具だった。
「ここ……何かしら?」
イリスが周囲を見回しながら呟く。
リオは円形の台に近づく。
まるで「ここを押してください」と言わんばかりに、一つだけ形の違うボタンがあった。
手を伸ばした瞬間、胸の奥がざわつく。
緊張と、期待。
一瞬だけ迷い──好奇心が勝った。
試しにポチっと押してみる。
ブンッ、と空気を震わせる音が響き、円形の台の上に立体的な何かが、ゆっくりと浮かび上がった。
リオ以外の全員が、即座に臨戦態勢を取る。
だが、立体のそれは、透明な光の層の中でゆっくり回転するだけで、何も起こらない。
「……でーたばんく?」
読めるけれど、意味がわからない古代語。
理解しようとしたがさっぱりわからず、リオは眉をひそめ、宙に浮かぶ光を見つめた。




