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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第9章 海への旅
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第7話 ネクストラクト

「何もされていないか?食事はとれているのか?何か異常は……」

「大丈夫だから、ほら。落ち着いて」


 フィオナが、空いた手で「どうどう」と言うように、アレンをなだめる。


「部屋に何度か瘴気魔獣が放り込まれたけど、この通り無事だから」

「ふうん……?」


 その言葉を受け、アレンが唸るように短く呟いた。

 目は冷たく鋭さを増している。


「食事…食事はね……」


 フィオナが、ほろりと涙をこぼした。


 アレンが目を見開く。

 だが、すぐにその目は細められ、冷たい光を宿す。

 視線から、苛立ちがはっきりと伝わってきた。


「ほう……」


 その手が、自然と鞘にしまった剣へ伸びる。

 リオが慌てて腰に抱き着き、止めた。


「母さん!食事!どうしたの!?」


 体を前に乗り出し、食い気味に尋ねる。

 フィオナは、泣きながら言った。


「焼いたお魚が食べたいよ……」

「え!?」


 思わず、聞き返してしまう。


「一日三回、毎日毎日、これが出てくるの」


 フィオナは、ベッドの上に置かれた“何か”を手に取った。

 それは、小さな袋だった。


 リオは受け取る。

 柔らかく、押すとぷにゅっと凹む。


 フィオナの涙が乾くより早く、場の空気が少しだけやわらいだ。


「何これ?食べ物なの?」

「上に小さな突起がついてるでしょ。そこを回すと開いて、中身を吸って食べるみたい」


 あまりにも得体が知れない。

 リオは、思わず凝視してしまう。


「怪しいし、最初の一日は我慢していたんだけど……空腹には耐えられなかった……」


 フィオナは敗北したかのように言った。


 よく見ると、袋には小さな古代文字で色々書いてある。


「えーっと……栄養抽出体(ネクストラクト)。製品名みたいなものかな?“忙しいあなたに、栄養抽出体(ネクストラクト)。ひとつで一食分の栄養補給”」

「何、それ……?」


 ユリウスの顔が、わずかに引きつった。


「栄養価の高い食品みたい。……食べてみていい?」


 フィオナが、こくりと頷く。


「リオ……?」


 アレンが焦ったように名を呼ぶが、気にせず突起を回して開けた。


 ぷるぷると揺れるゼリー状の中身を口に入れる。

 舌に触れた瞬間、あっという間に崩れた。驚くほど柔らかい。

 淡い果実の香りが口いっぱいに広がり、思わず目を丸くする。


「……おいしいね」


 リオは驚いた。アレンに手渡す。


 恐る恐るといった様子でアレンが受け取り、口に運ぶ。


「……悪くは、ない」


 複雑そうな顔で、そう呟いた。


「そうなの、意外とおいしいの。でも──一日三食、毎日それなんだよ!?」


 フィオナが死んだ魚のような目で続ける。


「三日目からは、無言でため息が出たもの……」

「ああ……」


 リオの胸に、ため息混じりの理解が落ちた。


 毎日同じゼリー。

 焼き魚の香ばしさが、どれほど恋しくなるか。想像できた。


 全ての食事が同じ味、同じもの。

 別のものを食べたくなって心が飢える、当然だ。


 イリスとユリウスも、新品の栄養抽出体(ネクストラクト)を口にしている。

 二人とも目を見開き、未知の食感に思わず声を漏らした。


 短い沈黙のあと、リオは小さく笑った。


「それより、アレン。顔色よくないよ。体調、悪いの?」


 フィオナが、そっとアレンの頬に触れる。


「私は大丈夫だから、焦らないでって伝えたつもりだったのに……無茶したの?」


 問いかけの形をしているが、そこには確信が滲んでいた。


 アレンは口を開きかけ、そして閉じる。


「母さん、俺から説明するよ。色々……あったんだ」


 リオは、フィオナがいなくなってからの四日間の出来事を、順を追って語り始めた。

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