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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第9章 海への旅
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第5話 未知の囁き

 潜水艇は膜に阻まれず、滑らかに内部へ滑り込む。

 膜の向こうには、まるで水面が空中に浮かんでいるかのような、静かな池が広がっていた。


 浮遊感に身体がふわりと揺れる。

 リオは目を見開き、息を止めた。


 光を反射する水面が、都市内部の白い建造物を映し出し、幻想的に揺れている。

 胸の高鳴りが増し、鼓動が早くなる。


 潜水艇はそっと水面に着水し、静かに浮かんだ。

 リオも続いて水面に降り立つ。


 潜水艇の扉が開く。

 顔を出すと同時に、アレンが周囲をなぞるように視線を走らせた。


 リオは岸まで潜水艇を押し、乗り上げたことを確認して水から出た。


 岸は土だった。

 少し緑もある。

 だが、その向こうは、ひたすらに金属味を帯びた白が広がっている。


 空気は重く、わずかに塩気を帯び、湿度の高い冷たい匂いが鼻をかすめた。


「……静かだ」


 リオがまず最初に感じたのは、風も音も届かず、人の営みも動物の気配もない、異様な静寂だった。


 そこには、ただ淡い光に照らされる白い建造物と、揺れる影だけが存在している。

 胸の奥がひんやりと冷え、無意識に息をのむ。


 潜水艇から出たアレンたちも、リオと同様、不思議な違和感を感じているようだった。


「ここが、あの騒動を起こした敵の本拠地……?」


 にわかには信じられない。

 侵入を検知され、防衛されることも覚悟していたが、その素振りはまったくない。


「気を抜くな、行くぞ」


 アレンの言葉に、リオたちは頷いた。


 *


 アレンの後ろに続きながら、リオは不気味さを強く感じていた。


 金属のように硬質で滑らかな建造物は、人が住むための形をしているのに、扉も窓も閉ざされたままだ。

 建物の配置は整然としており、通りは無音。

 そこに、人の気配はまるで感じられなかった。


 息をするたびに、体がぎゅっと締め付けられるような感覚があった。


 光源は点在しているものの、暖かさはなく、反射する金属面だけが淡く輝いている。

 街の中を通る水面が光を揺らすたび、建物の影が、まるで生き物のように揺れる。


 枝分かれした道に、道標があった。

 その文字を見て、リオとアレンは揃って息をのむ。


「古代文字……!」


 リオは小さく叫んだ。


 よく見ると、建物の壁にも古代文字が刻まれている。

 普段よく見る文字は、一文字たりとも存在しない。


「ここは……古代文明の遺跡なのか?」


 アレンが呆然と呟く。


 ユリウスがリオに尋ねてきた。


「古代文明って、たまに遺跡が見つかる、あれのこと?」


 リオは頷く。

 今度は、イリスが口を開いた。


「古代って言うくらいだから、ものすごく昔に栄えた文明なのよね?」

「うん……具体的に、どのくらい前っていう記録はないんだけどね」


 質問に答えながら進んでいると、建物の壁に見慣れない文字が並んでいるのが目に入った。

 店の看板のようだ。


「瘴気……?」


 間違いない。古代語で瘴気という文字が書かれている。

 その後ろには、さらに別の文字。


「瘴気……ジューテンヤ?」


 リオは理解できず、戸惑いながら口に出してしまった。


「瘴気、充填屋だ。何かに瘴気を満たすことを目的とした店、ということだろう」


 アレンは眉をひそめ、じっと文字を見据える。

 警戒と、理解しがたい不気味さに揺れる表情だった。


 イリスが戸惑い、リオの袖を引く。


「どういうこと?」


 リオは一つの可能性に思い至った。

 だが、到底信じられない。


「この街では……瘴気が、日常で使われてる……?」


 服屋や武器屋のような感覚で、瘴気充填屋なるものが並んでいる。

 意味が、分からない。

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