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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第9章 海への旅
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第4話 静寂の海に潜む都市

 かれこれ一時間ほどだろうか。

 船は爆速で進み続け、リオたちは喉が嗄れて叫ぶことを諦めていた。


 意識が朦朧としてきた、その時。

 アレンが、ピクリと反応する。


「ヴァルセリオ、止まってくれ!」


 アレンの声を受けて、ヴァルセリオが発動していた魔法を消した。

 船は少しずつ速度を緩め、やがて、ほぼ静止する。


「ここですか?」


 ヴァルセリオが近くにやってくる。


「ああ。潜水艇の準備を頼む」

「お任せください」


 ヴァルセリオが潜水艇の固定を外し、手を掲げた。

 詠唱は早い。


 何もない場所から、黒色の鎖が伸びる。

 それは潜水艇に絡みつき、持ち上げ、そのまま海上に運び──静かに、水面へと落とした。


 その一連の流れを、リオはふらふらしながら、どこか他人事のように眺めていた。

 アレンが心配そうに、顔を覗き込んでくる。


「大丈夫か?」


 リオは、ゆっくりと首を横に振った。


「何これ……なんで父さんは、知ってるの?」


 アレンが、視線を逸らす。


「ヴァルセリオと……昔、少しな」

「そんな、若気の至りだ、みたいに言わないでください……」


 ユリウスが、げっそりしながら突っ込む。

 イリスは失神していた。


 *


 少し休み、体調が回復したところで潜水艇に乗り込む。


 ユリウスが、潜水艇の入り口から顔を覗かせる。

 魔法を詠唱すると、リオの体が優しい水に包まれ、水中での呼吸が可能になった。


「維持だけなら魔力消費は少ないから、僕のことは気にしないで」

「わかった」


 潜水艇の扉が閉まる。

 イリスとユリウスが小窓から、船上のヴァルセリオに手を振った。

 リオも、水の中から手を振る。


「……行ってらっしゃい。気を付けて」


 トプンと、潜水艇が海に沈む。

 ヴァルセリオの声は、潮風に消えた。


 *


 潜水艇は、ぐんぐん潜っていく。

 アレンが中から大まかな方向を指で示し、リオはその方向へ潜水艇を押した。


 最初は、片手を潜水艇に当て、もう片方で風魔法を放っていた。

 だが、それではしんどい。


 そこで、両手を潜水艇に押し当て、両足から風魔法を放つことにした。

 潜水艇がぐんぐん押し出される。


 リオは体の力を抜きつつも、確かに前へ進む感覚を覚えた。

 同時に、胸の奥に小さな冷たさが広がった。


 楽しさの裏に潜む不安を、否応なく感じていた。


「悪いが、少し休む。何かあったら、すぐに起こしてくれ」


 潜水艇の中から、くぐもった声が漏れてくる。


「わかりました!」


 イリスが、元気に返事をした。

 潜水艇の壁に体重を預けたアレンの体が、すぐにずるりと沈む。


 ずっと無茶をさせてきたんだ。

 今度は、自分が頑張る番だ。


 リオは、一生懸命に潜水艇を押し続けた。


 *


 深く、深く潜っていく。

 どこまでも、漆黒の闇が広がっている。


 途中、潜水艇からミシミシと嫌な音が響き、慌ててユリウスが水魔法の範囲を広げた。


 しばらくすると──闇の中に、淡い光が見えた。


 中からユリウスが教えてくれて、リオはそちらへと方向を変える。

 イリスがアレンの肩を揺すり、アレンが体を起こした。


 リオは、窓越しに見える前方の光景に、思わず感嘆の息を漏らす。

 胸が、高鳴った。


 都市が、淡い白色と金属の輝きを放ち、深海の闇に浮かんでいた。


 半球状の透明な層が街を覆い、水を弾き、内部を守っている。

 点在する光源が、揺れる水の中で幻想的な影を描き出す。


 息をのむほど、美しかった。


 その美しさに圧倒されながらも、この静寂と闇が、どこか孤独な冷たさを伴っているように思える。


 ──構造は理解できるはずなのに。

 目に映るそれは、何らかの見えない力に守られているように感じられた。

 深海は、不思議な光に満たされていた。

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