第3話 彼も推進力
同日。
リオたちは、グランゼリアの南にあるベレンの港に来ていた。
船の中継地としても栄える、小さいが立派な港だ。
中型の木製船が、港に停泊している。
甲板の中央には、四人乗りの楕円型潜水艇が、しっかり固定されていた。
リオは船上で、その潜水艇を見つめた。
今日、俺はこいつの一部になる。
妙な気持ちが込み上げてきて、ちょっと泣けてきた。
船が揺れ、アレンが乗り込んでくる。
リオの傍まで来ると、申し訳なさそうに眉を下げた。
「すまない。可能なら、俺がその役をするつもりだったが……」
わかっている。
父とて、決して物扱いしているわけじゃない。
「ううん……俺、頑張るよ」
イリスとユリウスも、順番に船に乗った。
最後に、ヴァルセリオが乗り込む。
イリスが目を丸くする。
「先生、船を動かせるんですか?」
「ええ。これでも、魔法は得意な方でして」
その言葉に反応して、アレンが振り返る。
「多才だな」
「貴方に言われると、嫌味にしか聞こえませんよ」
ユリウスとリオは顔を見合わせて笑った。
笑いながらも、どこか小さな不安は残る。
帆を備えた船は、魔力でわずかに推進力を得て、静かに海面を進む。
港では、ノエルとイゼリアが見送ってくれている。
リオ、ユリウス、イリスは並んで手を振った。
イゼリアが、大きくうなずく。
ノエルは胸の前で手を組み、祈りを捧げてくれていた。
*
そよそよと、潮風が流れていく。
港がある程度遠ざかると、ヴァルセリオが腕まくりをし始めた。
「先生?」
リオが訝しんで声をかける。
「さて、急ぎですからね!久しぶりに、張り切りますよ!」
張り切るとは?
首を傾げていると、アレンがどかりと隣に座った。
左手でリオの肩を抱き、そのまま座らせてくる。
「お前たちも」
アレンがユリウスとイリスを手招きする。
二人も顔を見合わせながら、アレンの右に並んで座った。
アレンは前方を向き、三人まとめて、その肩を抱く。
背中を船体に押し付け、足は潜水艇を蹴り、突っ張った。
「では、行きますよ!」
リオは、頭だけ振り返ってヴァルセリオを見た。
ヴァルセリオは腰を落とし、足を踏ん張る。
掌に、黒の魔力を集め始めた。
早い。
一瞬で詠唱が終わる。
船体が、闇の渦に包まれた。
海面を割るように突き進み、水しぶきを巻き上げ、一気に加速する。
リオの髪が後ろに吹き飛び、耳に風が裂ける音が響く。
船体に押し付けられるように背中が圧迫される。
潮の匂いと水しぶきが、顔に襲いかかった。
闇魔法の影が水を蹴散らし、船は、まるで水を切る刃のように滑る。
リオとユリウスとイリスの悲鳴が、入り混じる。
必死に、アレンの腕にしがみついた。
ヴァルセリオの楽しそうな笑い声だけが、海上に響いていた。
時速200kmくらいです。




