第2話 俺は推進力
ノエルが、深く息を吐いた。
「それで?子どもたちを巻き込むからには、理由があるんですよね」
ヴァルセリオが慌てて説明する。
「これまでの傾向からして、敵は確実にこちらの弱点を突いてきます。主要戦力をすべて投入するわけにはいきません」
「それは……そうですが……」
ノエルは納得いかない様子で眉を顰める。
アレンが視線を向けた。
「二人は十分、戦力になる。もしもの時には、俺以外は浮上して、情報を伝えてもらいたい」
「もしもって、あなた。何をするつもりですか」
ノエルに睨まれ、アレンは頬を押さえたまま、淡々と告げる。
「海底だ。水圧に耐える術はあるだろうが……状況次第では、全部、海に沈める」
ノエルが声を抑えて指摘する。
「それは、捨て身の手段ですよ……!」
だが、アレンはあくまで冷静だった。
「死ぬつもりはない。自分の身くらいなら、何とでもなる」
ノエルは言葉に詰まる。
危険に晒すつもりはなく、安全を第一に考えている──それは、横で聞いていたリオにも理解できた。
だからこそ、父の言葉が現実味を帯びるほど、胸の奥で何かが軋んだ。
ヴァルセリオが片手を挙げる。
「あの、潜水艇は四人乗りですが、帰りのフィオナさんを含めれば三人しか乗れませんよ?」
「ああ。わかっている」
「それに、あれは推進力がありません。どうやって移動するつもりですか?」
戸惑うヴァルセリオに、アレンが言い切る。
「リオは外だ」
「え……外って……海の中で?」
自分でも驚くほど、とぼけた声が出た。
「またまたー、父さん。笑えない、冗談は……」
アレンと目が合った。
そこには、冗談を差し挟む余地などない、ただ真剣な光だけがあった。
「……本気?」
乾いた笑いが漏れた。
「ユリウスが水魔法で潜水艇とリオを囲う。リオは風魔法で推進力を生み出す。問題はない」
「いや、理論上は可能ですが!」
ヴァルセリオが慌てて、鋭い突っ込みを入れる。
「リオ君に何かあったら……」
だが、アレンは揺るがない。
「そのために、俺がいる」
そう言われてしまえば、言い返せない。
ヴァルセリオが歯噛みする。
イゼリアが一歩前へ出た。
細めた瞳でアレンを射抜き、覚悟を量るように見つめる。
「子どもたちに何かあったら、今度は平手では済まないぞ」
「当然だ」
アレンも、イゼリアを強く見返した。
ノエルが、深く長いため息をつく。
そして、重そうに口を開いた。
「そちらは任せます」
結論は出た。
ユリウスとイリスが戸惑いながら顔を見合わせる。
だが、そのことに気づかないくらい、リオの頭の中は混乱していた。
「待って、俺……海の中で、乗り物の一部になるってこと……?」
「……推進力そのものってことだね」
ユリウスが乾いた笑いを漏らしながら言った。
誰か否定してほしい。
だが──誰も否定してくれなかった。




