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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第9章 海への旅
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第2話 俺は推進力

 ノエルが、深く息を吐いた。


「それで?子どもたちを巻き込むからには、理由があるんですよね」


 ヴァルセリオが慌てて説明する。


「これまでの傾向からして、敵は確実にこちらの弱点を突いてきます。主要戦力をすべて投入するわけにはいきません」

「それは……そうですが……」


 ノエルは納得いかない様子で眉を顰める。

 アレンが視線を向けた。


「二人は十分、戦力になる。もしもの時には、俺以外は浮上して、情報を伝えてもらいたい」

「もしもって、あなた。何をするつもりですか」


 ノエルに睨まれ、アレンは頬を押さえたまま、淡々と告げる。


「海底だ。水圧に耐える術はあるだろうが……状況次第では、全部、海に沈める」


 ノエルが声を抑えて指摘する。


「それは、捨て身の手段ですよ……!」


 だが、アレンはあくまで冷静だった。


「死ぬつもりはない。自分の身くらいなら、何とでもなる」


 ノエルは言葉に詰まる。

 危険に晒すつもりはなく、安全を第一に考えている──それは、横で聞いていたリオにも理解できた。

 だからこそ、父の言葉が現実味を帯びるほど、胸の奥で何かが軋んだ。


 ヴァルセリオが片手を挙げる。


「あの、潜水艇は四人乗りですが、帰りのフィオナさんを含めれば三人しか乗れませんよ?」

「ああ。わかっている」

「それに、あれは推進力がありません。どうやって移動するつもりですか?」


 戸惑うヴァルセリオに、アレンが言い切る。


「リオは外だ」

「え……外って……海の中で?」


 自分でも驚くほど、とぼけた声が出た。


「またまたー、父さん。笑えない、冗談は……」


 アレンと目が合った。

 そこには、冗談を差し挟む余地などない、ただ真剣な光だけがあった。


「……本気?」


 乾いた笑いが漏れた。


「ユリウスが水魔法で潜水艇とリオを囲う。リオは風魔法で推進力を生み出す。問題はない」

「いや、理論上は可能ですが!」


 ヴァルセリオが慌てて、鋭い突っ込みを入れる。


「リオ君に何かあったら……」


 だが、アレンは揺るがない。


「そのために、俺がいる」


 そう言われてしまえば、言い返せない。

 ヴァルセリオが歯噛みする。


 イゼリアが一歩前へ出た。

 細めた瞳でアレンを射抜き、覚悟を量るように見つめる。


「子どもたちに何かあったら、今度は平手では済まないぞ」

「当然だ」


 アレンも、イゼリアを強く見返した。


 ノエルが、深く長いため息をつく。

 そして、重そうに口を開いた。


「そちらは任せます」


 結論は出た。


 ユリウスとイリスが戸惑いながら顔を見合わせる。

 だが、そのことに気づかないくらい、リオの頭の中は混乱していた。


「待って、俺……海の中で、乗り物の一部になるってこと……?」

「……推進力そのものってことだね」


 ユリウスが乾いた笑いを漏らしながら言った。


 誰か否定してほしい。

 だが──誰も否定してくれなかった。

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