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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第12章 積み重ねたもの
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第8話 託す想い

 石畳の隙間を、風がやわらかく抜けていく。

 子どもたちは笑い声をあげながら、元気に駆け回っていた。

 川が、太陽の光を反射してきらきらと輝いている。


「やっと……みんなが安心して暮らせる場所を作れるかもしれない」


 リオは目を細めて呟いた。


「ああ。これで、未来を見据えられる」


 アレンは穏やかに頷き、リオの肩に手を置く。


「まだ道は長い。それでも……こうして光が見えるだけで、進む価値がある」


 夕陽が街を赤く染める。

 魔法の街灯も灯り始め、夜を恐れる必要はもうない。


 研究室での実験も、安全に行える。

 失敗しても命に関わらない──それだけで、未来は明るくなる。


 リオは空を見上げ、息を吸い込んだ。


「これからだ。俺たちは、この光をもっと広げていかないと」


 1号が、小さく頷く。


「うん……みんなのために」


 街に満ちる穏やかな光と笑顔。

 それは、確かな希望の兆しだった。


 *


 その日の午後。

 リオは一人で、アレンのもとを訪れた。


 1号はフィオナに預けてきた。

 ついて来たがっていたが、「男の話をしてくる」と言えば、頬を膨らませながら引き下がった。


 リオがほっとしたのも束の間。

 1号はその後、フィオナを質問攻めにしていた。


 ……変な誤解をしていなければいいが。


「それで、どうしたんだ?」


 アレンが首を傾げる。


 リオは背筋を伸ばした。

 目の前にいるのは父ではない。狩人の(マスター)だ。


「以前、言っていたよね。客観的に監視してくれる第三者がいればいい、って」


 アレンの眉がわずかに上がる。小さく唇を開き、声にならない息を漏らす。


「──ああ、あれか」


「……1号に、頼めないかと思ったんだ」


 しんと、部屋が静まり返る。

 リオは拳を握りしめた。


「……理由は?」


 よし、第一関門は過ぎた。

 リオはぐっと顔を上げる。


 一つ目、それは感情に左右されない視点だ。


「1号は、人の“関係のしがらみ”に縛られない。客観的な記録と冷静な判断を任せられる」


 そして二つ目、継続性と一貫性。


「変わらない視点で何十年も見られる。短期的な利害に流されないから、“基準の継続”が担保される」


 三つ目、対話・説明・再検証が可能ということ。


「1号なら、論理的に説明できる。問題が起きれば、なぜ・どういう基準でそう判断したかを示せる」


 そして四つ目、脅しや武力によるねじ伏せに強い。


「力で押し通そうとする勢力への抑止にもなる。監視の“最後の盾”として、機能する」


 リオは、そこまで言い切った。

 息を吐き、一旦落ち着く。


「……それだけじゃない。1号は記録を残し、学習して基準を改善できる。中立性を確保できて、誰の側でもない“象徴”にもなれる」


 ここまでは、既に何度も考えてきた内容だった。


 しばらく沈黙が続き、アレンの眉がわずかに寄る。


「1号も壊れるかもしれない。暴走したら、どうする?」


 リオは視線を逸らさずに答える。


「1号自身も、定期的に検査すればいい。そこは、三権で交互に受け持つとか……」


「1号が、人間の情や文脈を読み違える可能性は?」

「最初は補助に徹して、最終判断は人が下す。少しずつ、1号に判断範囲を移行していけばいいんじゃないかと」


 アレンは視線を落とし、手を組み直した。


「1号が権力を握ったらどうする?」


 リオは少し間を置いて答える。


「……権限範囲を明確にするしかないと思う。逸脱した場合は、権限を解除する契約をあらかじめ結んでおくとか……」


 矢継ぎ早の質問。

 リオは頭を回転させて、視線を揺らさず、必死に答えた。


 アレンは顔を上げ、鋭い目でリオを見つめる。

 そして、ゆっくりと問う。


「……本当に、信用できるのか?」


 リオは力強く頷く。


「1号自身は、大丈夫。まずは小さな仕事から初めて実績を積んで、段階的に責務を拡大していけば……いいと思う」


 部屋に静寂が戻った。


 握りしめた手にじっとりと汗が滲む。

 それでも、視線は逸らさない。


 やがて、アレンがゆっくりと息を吐いた。

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