第7話 言葉にできないもの
リオはヴァルセリオから古代遺物の管理について相談を受け、錬環区の倉庫を訪れていた。
許可がなければ立ち入れない区域で、今はリオと1号しかいない。
壊れたマグナ・オルビスと、野外訓練で拾った薄片。
他にも細かな黒い欠片が厳重に保管されている。
それを見て、1号が眉を寄せた。
「管理の仕方がずさんだね」
聞き逃せない一言だった。
「テラはどういう管理をしてた?」
「暗所で隔離して、外壁は魔金属層で二重保護するんだよ」
思っていた以上に厳重だ。
「使用者が生気を吸われるのは、ヴァルセリオの件で知っているだろうけど。近接者は短期的には集中力の低下が見られて、長期接触では敵対感情や抑うつが現れるんだよ。ガラスや普通の金属で囲うだけだと危険だね」
「ん……ん!?」
リオは額に手を当てる。
「ちょっと待った。ヴァルセリオ先生……もだけど、そんな精神面にも影響するの?」
1号は頷く。
「例えば、マグナ・オルビス。瘴気を利用した魔法代わりの武器で、性能はいいけど、扱いづらいし代償も大きい。テラの中でも罪人に使わせていたくらいだよ」
ぞくりと背筋が冷える。
それが事実だとすると、本当に危険だ。
「今すぐ何とかしないと……壊せばいい?」
「それは初期の不良品だね。黒冥鉱としても失敗作だから大丈夫。小さいのは、その程度なら常時身につけなければ問題ないよ」
「……よかった」
ほっと息をつく。
落ち着いたところで、聞きなれない単語があったことに気づく。
「それで、“ねくろらいと”って?」
「ここにある金属のことだよ。ほら、マグナ・オルビスの主な素材になってる」
1号が箱を指す。まるで、中身が見えているかのようだった。
「瘴気に極めて高い親和性を持っていて、瘴気を引き寄せ・吸収・安定化して内部に保持することができるんだ。でもマグナ・オルビスの扱いづらさも、黒冥鉱の性質のせいだからね」
1号が困ったように息をつく。
「黒冥鉱は魔金属と真逆の役割を持つんだよ。魔金属が高密度・高圧縮するのに対して、黒冥鉱は低お──」
その瞬間、リオの身体が強張った。
1号が口に出そうとしている内容を、理解してしまった。
思わず口元を押さえる。
手の中で、声なく1号の唇が動く。
心臓が、どくどくと、うるさいくらいに音を立てる。
「だめだ、1号」
1号が、目を見開く。
「それは、言葉にしたら、だめなんだ」
しんと静まり返った。
1号の瞳には、戸惑いと──ためらいが浮かぶ。
リオがゆっくり手を離すと、1号は小さく息を吐き、開いていた口をぎゅっと閉じた。
そして、深くうなずく。
それだけで、十分だった。
マグナ・オルビスなどを作る素材。
その危険な金属の作り方。
それは──決して知ってはいけないものだ。




