第5話 手を合わせて、つながる
1号はゆっくり顔を上げ、深く息を吸い込む。
震える手を握りしめ、唇を軽く噛んだ。
眉が寄り、目にかすかな潤みが生まれる。
アレンを見上げるが、言葉はまだ出ない。
「……」
口を開きかけて、閉じる。
短い吐息だけが漏れ、視線が墓石へ落ちた。
風が草を揺らし、葉がかすかに舞う。
静まり返った空気の中で、1号の瞳に、少しずつ光が宿っていく。
「我は……」
小さな声。唇が震え、声は途切れ途切れに続く。
「……ひどいことを、してきたんだね……」
言葉が胸の奥で少しずつ、形を取り始めたようだった。
リオは息を止め、唇に力を入れて頷いた。
声を挟む余裕はない。ただ、その小さな手をぎゅっと握り、受け止める。
その瞬間、1号の瞳から小さな涙が零れ落ちた。
初めての涙だった。
1号は、不思議そうに瞬きをした。
空いている方の手で、ゆっくりと目元に触れる。
濡れた指先を見つめる。
顔が、くしゃりと歪んだ。
「ごめ……なさい……」
ぽろり、ぽろり……と、止まらずに溢れてくる。
「ごめん……なさい……」
アレンがそっと、二人まとめて腕に包み込んでくれた。
*
1号が落ち着いたところで、三人並んで墓前に立った。
リオとアレンの間で、1号は両手を合わせ、じっと墓標を見つめる。
「ここには、よく来るの?」
その問いに、リオは小さく頷く。
「毎年、俺と父さんは必ず」
予定を合わせて、必ず一緒に来ていた。
フィオナやジークが一緒のこともある。
「……手を合わせて、目を瞑って。その時は何を考えているのかな?」
リオは頬を緩めた。
「話すんだよ。この一年こんなことがあったって。そのあと、お願いするんだ。みんなが平和で、健康で、幸せでいられますようにって」
1号がリオを見上げた。
「ここには、何もないのに?」
そう。ここには、ほとんど何もない。
でも違う。
「そこに何かあるかどうかじゃないんだ。大事なのは、その人が生きていた証を思い出して、敬意を払うこと。過去の自分や、大切な人と──目に見えない形でつながる行為なんだよ」
「敬意を払い、つながる……」
1号が、ゆっくりと繰り返す。そして、そっと目を伏せた。
“手を合わせる意味”を、ほんの少しだけ感じたようだった。
長く、長くそうしているのを、リオはアレンとともに見守っていた。
*
帰り道。
リオとアレンの間で、1号は二人と手を繋いだまま眠っていた。
御者が振り返り、目じりを下げた。
リオは少しだけ照れながら、そっと手を握り返した。




