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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第12章 積み重ねたもの
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第5話 手を合わせて、つながる

 1号はゆっくり顔を上げ、深く息を吸い込む。

 震える手を握りしめ、唇を軽く噛んだ。

 眉が寄り、目にかすかな潤みが生まれる。


 アレンを見上げるが、言葉はまだ出ない。


「……」


 口を開きかけて、閉じる。

 短い吐息だけが漏れ、視線が墓石へ落ちた。


 風が草を揺らし、葉がかすかに舞う。

 静まり返った空気の中で、1号の瞳に、少しずつ光が宿っていく。


「我は……」


 小さな声。唇が震え、声は途切れ途切れに続く。


「……ひどいことを、してきたんだね……」


 言葉が胸の奥で少しずつ、形を取り始めたようだった。


 リオは息を止め、唇に力を入れて頷いた。

 声を挟む余裕はない。ただ、その小さな手をぎゅっと握り、受け止める。


 その瞬間、1号の瞳から小さな涙が零れ落ちた。


 初めての涙だった。


 1号は、不思議そうに瞬きをした。

 空いている方の手で、ゆっくりと目元に触れる。


 濡れた指先を見つめる。


 顔が、くしゃりと歪んだ。


「ごめ……なさい……」


 ぽろり、ぽろり……と、止まらずに溢れてくる。


「ごめん……なさい……」


 アレンがそっと、二人まとめて腕に包み込んでくれた。


 *


 1号が落ち着いたところで、三人並んで墓前に立った。

 リオとアレンの間で、1号は両手を合わせ、じっと墓標を見つめる。


「ここには、よく来るの?」


 その問いに、リオは小さく頷く。


「毎年、俺と父さんは必ず」


 予定を合わせて、必ず一緒に来ていた。

 フィオナやジークが一緒のこともある。


「……手を合わせて、目を瞑って。その時は何を考えているのかな?」


 リオは頬を緩めた。


「話すんだよ。この一年こんなことがあったって。そのあと、お願いするんだ。みんなが平和で、健康で、幸せでいられますようにって」


 1号がリオを見上げた。


「ここには、何もないのに?」


 そう。ここには、ほとんど何もない。

 でも違う。


「そこに何かあるかどうかじゃないんだ。大事なのは、その人が生きていた証を思い出して、敬意を払うこと。過去の自分や、大切な人と──目に見えない形でつながる行為なんだよ」


「敬意を払い、つながる……」


 1号が、ゆっくりと繰り返す。そして、そっと目を伏せた。

 “手を合わせる意味”を、ほんの少しだけ感じたようだった。


 長く、長くそうしているのを、リオはアレンとともに見守っていた。


 *


 帰り道。


 リオとアレンの間で、1号は二人と手を繋いだまま眠っていた。


 御者が振り返り、目じりを下げた。

 リオは少しだけ照れながら、そっと手を握り返した。

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