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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第12章 積み重ねたもの
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第4話 償うということ

 馬車は、長く長く揺れ続けた。


 二週間にも及ぶ旅路のあいだ、1号は何度も帰ろうとごね、馬車を降りると言って騒いでいたが、今はすっかり静かになっている。


 膝を抱え、そこに顔を埋めるようにしていた。


 御者は何か言いたげにしていたが、重苦しい空気に押され、結局は口を閉ざした。


 やがて、馬車が止まる。

 1号がふらつきながら降り立ち、視線を向けた先には、リオもよく知る景色が広がっていた。


 青空の下、廃れた村。

 崩れた家屋は緑に覆われ、人の気配はない。

 それでも、穏やかな風が柔らかく流れている。


 アレンが静かに口を開く。


「ここは、俺の故郷だ」


 1号はのろのろと顔を上げ、軽く首を傾げる。

 動きも表情も、どこか鈍い。


「そうなんだね……なんていう名前なのかな?」


「フロル村だ」


 その名を聞いた瞬間、1号の表情が強張る。

 アレンの声が、低く響いた。


「三十一年前、この村は壊滅した。救済の環と、ある瘴気魔獣がその原因だ」


 1号が一歩、後ずさる。

 だがアレンは、その腕を掴んだ。


「お前なら、よく知っているだろう?」


 リオの胸がぎゅっと締め付けられる。

 ──1号自身が言っていた。その惨状を、研究材料として見ていたと。


「村人を……俺の父と母を殺したのは、瘴気魔獣化したルミナスだった」


 短い悲鳴が、1号の口から漏れた。

 リオはそっと目を伏せ、その場を離れて丘を登る。


 丘の上には、いくつもの墓と、一本の大剣が立っていた。


 伸びた草を剣で払い、積もった葉を落とす。

 簡易的に整えていると、アレンが1号を連れてやって来る。


 腕を離された1号は、墓を見てゆっくりと目を見開いた。

 吸い寄せられるように歩み寄り、大剣の前で立ち止まる。


 アレンは墓を見つめ、息を吐いた。


「……お前は何も考えず、ただ見ていただけだったな」


 1号の肩が、小さく震える。


「父親の罪まで背負う必要はない。だが、何も考えなかったことは罪だ」


 言葉は静かだが、重い。


「自分の行動がもたらす影響を考えられなかった──それがだめなんだ」


 1号は大剣の前で立ち尽くし、膝に力を込める。

 リオも胸を締め付けられ、息を詰めた。


「起こったことは取り消せない。だから学ぶしかない」


 アレンは少し間を置き、ゆっくりと続ける。


「自分の何が悪かったのか、自分の行動がどういう結果を生んだのか──それを噛み締め、同じことを繰り返さないように生きるんだ」


 振り返った1号の眉が、わずかに寄る。

 瞳が揺れ、瞬きのたびに微かな光が滲む。


 呼吸が浅くなる。


 リオにはその微細な変化が、1号の内側に初めて芽生えたものを映しているように見えた。


「自分自身が己を赦せるまで……他の人が赦してくれるまで」


 アレンの視線が、1号を射抜く。


「辛くても、苦しくても──向き合い続けるしかない」


 1号の膝から力が抜け、手がほんの少し震えた。

 風が吹き抜け、草がざわめく。


 1号はゆっくり顔を上げ、深く息を吸い込む。

 拳を握りしめ、唇をかすかに震わせた。


「我は……やり直せるのかな?」


 その声に答えるように、アレンは静かに頷く。


「ああ。罪は消せない。だが、軽くすることはできる」


 そして、短く言った。


「考えることを放棄するな」


 丘の上を渡る風が、1号の髪をそっと揺らす。

 アレンは視線を落とし、墓石に積もった葉を一枚、そっと払った。


「何が正しくて、何が間違っているか──それは自分の目で見て判断するしかない。答えのない解を考え続けろ」


 その言葉に、リオははっとする。

 厳しいだけじゃない。1号を導き、立たせようとする温かさがあった。


 アレンは1号を見つめ、目を細める。


「それでもわからなかったら──誰かに頼ればいい」


 リオは胸が震え、思わず拳を握る。


 1号の肩がさらに小さく震え、目の奥に光るものが、ゆっくりと溢れそうになった。


「答えは得られなくても。きっと、代わりの何かは得られるはずだ」


 言葉が丘の風に溶け、リオの胸にも静かに落ちた。


 1号は唇を噛み、小さく頷く。

 その姿を見て、胸の奥に温もりが差し込むのを感じた。

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