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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第12章 積み重ねたもの
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第3話 巡る3

 ここが──。

 リオは、アレンの後ろに目を向けた。


「師匠は、ここでマグナ・オルビスを破壊した。俺たちを……世界を守るために」


 1号が、目を大きく見開く。


「あれを……?アレンの師匠は、すごい人なんだね!」


 リオは、父の顔を見ることができなかった。


 アレンが静かに続ける。


「……遺品は、何一つ残らなかった。使っていた大剣を除いて」

「それはそうだよ、人の身では耐えきれない」


 1号は、どこか納得したように笑う。


「そうだったんだね……。人の命はいつか尽きるものだよ。アレンの師匠は、それが少しばかり早かったんだね」


 ──音もなく。

 リオの中で、何かが切れた。


「……ダリオスさんは、三十六歳で亡くなったんだ」


 思っていたより、ずっと低い声が出た。


 1号が振り向く。


「父さんは、三十七になる。ダリオスさんと、ほとんど同じ年だ」

「そうだね……?」


 1号が首を傾げる。


 止まらない、止められない。


「ヴァルセリオ先生は、五十三歳になった。ダリオスさんが生きていたら……先生と同じくらいなんだ」


 1号が瞬きをする。


「うん。だから、何かな?」


 その一言で、抑えていたものが決壊した。


「1号がマグナ・オルビスを人に与えていなければ!」


 声が弾ける。


「ダリオスさんは、今も生きていたんだ……!」


 抑えきれなかった感情が、冷たい風に乗って山肌に響く。


「……それは、そうかもしれないね。でも、人は他の要因で死ぬことも──」

「少なくとも、ここで命を落とすことはなかった!」


 遮るように叫ぶ。


「わかるか!?瘴気で世界が崩壊しそうな中、師を喪って、それでも竜と対峙した父さんの気持ちが!1号にわかるか!?」


 言い切った瞬間、胸の奥に押し込めていた痛みが溢れ出す。


 ──あの日。


 母が、フィオナが攫われた日のことが、脳裏をよぎる。


『取り乱したところで、何も解決しないからだ。うろたえる暇があれば考えろ、足踏みする前に動け』


 父の言葉。


 いつ、それを悟ったのか。

 今、わかった。


 1号が、ゆっくりと首を振る。

 言葉に力が入らず、声がかすかに震える。


「でも、それは……我のせいでは……」

「今、父さんが死んでも──同じことが言えるのか!」


 1号が、完全に動きを止めた。

 口を開きかけるが、声は出ない。わずかに眉をひそめ、視線を落とす。


 もし今、父がいなくなったら。

 それでも歩みを止めずに進むなんて──自分には、できない。


 一体どれだけの苦しみを、悲しみを耐えたのだろう──胸が痛む。


「リオ……」


 アレンの声。


 顔を上げると、目が合った。


 アレンは静かに肩の力を抜いた。

 どこか泣きそうに細められた瞳──その眼差しには、厳しさとは別の何かが滲んでいた。


「アレンが死ぬのは嫌だ!でも、アレンの師匠のことは知らない!我には関係のないことだ!」


 1号が、拳を握りしめて叫ぶ。


 まだ、そんなことを言うのか。

 一歩踏み出そうとした、その前に──アレンが1号の腕を掴んだ。


 庇ってくれると思ったのか、1号が一瞬、安堵したようにアレンを見る。


 だがアレンは背を向け、そのまま山を登り始めた。


「アレンも、我をいじめるの?どうして、そんなひどいことをするのかな?」


 1号の声は震え、怒りとも悲しみともつかない響きだった。


「いやだ!この先には竜の封印しかないんでしょ!?もう帰ろう!」


 1号が駄々をこねる。


 アレンは腕を引き、そのまま前へ進む。

 答えはない。


 リオもまた、黙ってついていった。


 *


 山頂は、思いのほか静かだった。


 大小二つの土山がある。

 ──それが墓だと、すぐにわかった。


 アレンが、手を合わせ、目を閉じる。

 リオもそれに倣う。来るのは初めてだったが、ここが誰の墓か、考えるまでもなかった。


 背後で、1号が落ち着かない様子で歩き回っている。


 やがてアレンが目を開き、1号を見た。


「1号。竜はなぜ、瘴気を背負ったと思う?」


 1号は少し怯え、視線をさまよわせる。


「……わからないよ。そんなの、自殺行為だ。誰が好き好んで……」

「竜の、大切な人が悲しんだんだ。この世界に満ちた瘴気を、嘆いたんだ」


 静かな声だった。


「……碑文の内容かな?いくら大切な人の言葉でも、どうしてそんな……」

「知っていたんだな、碑文の言葉を」


 空気が、凍りつく。


 1号は自分の口を押さえた。

 目に、はっきりとした恐怖が浮かぶ。


 アレンは再び腕を掴み、山を下り始めた。

 1号が嫌がっても、立ち止まることなく歩き続ける。


 リオは、手を伸ばすことができなかった。

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