表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一条戻り橋  作者: yukko
69/95

望み

孝子は公廉に落窪の君の物語を書いて貰う時間が増えました。

起きて筆を持つことが減りました。

そのことを「子らには、どうかご内密に……。」と公廉に頼みました。

公廉は孝子の言葉を上の息子にだけ伝えました。

そして、弟と妹に伝えないように、と頼みました。



⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂



源中納言家と衛門督家、そして源中納言家と兵部の大輔家が親交を温めて始めた頃、衛門督と女君は源中納言家について相談をしていました。


「源中納言さんはお年を召され遊ばしましたなぁ。

 世の人は、『()()()()()た親のために孝養を尽くすことこそ尊ばれます。』とお

 考えやと聞きます。

 特に、六十や七十の年は『賀』と言うて、子らが音楽や舞を催して、ご覧に入れ

 るものやそうです。

 『若菜参る』と、年の初めにすることもあるということでございます。

 そや、『八講』と言うて、経を書き、仏を描いて、供養する行事もあります。

 いろいろ珍しく工夫しよと思いますが、どないな趣向を凝らしたら、ええのや

 ら……。

 健在やのに四十九日の供養をする人もおると聞きますけど、子がするのは、()()

 ()な話。

 さ、この中から選びなはれ。

 其方がしたいと思うものやったら、私がやります。何でも……。」

「舞や音楽は面白くて趣はありますが、来世の利益はあらへんと思います。

 四十九日は、仰せあらしゃるように縁起が良うないと思います。

 八講こそが、この世でも尊く、来世のためにも目出度いことやと思います。

 そやから、八講をしてあげて下さいませ。」

「それは、ほんまにええと思います。

 実の所……私もそない思うておりました。

 ほなら、今年中にやりましょう。

 中納言さんも()()()()()で、いつまでご健在か……分かれへんことやし。」

「あの……殿さん、このこと……四の君さんと共に、と思うのでございます。

 どない思わしゃりますか?」

「それは、ええことや!

 ほな、()()()()()に兵部の大輔さんと話をして決めます。」


そう決めた衛門督は、兵部の大輔と共に翌日から用意を急がせました。

八講の日取りを八月頃と決め、経典を書かせ、仏師を呼ばせて、「仏様が立派に出来上がるように」と衛門督も女君も兵部の大輔も四の君も熱心に取り組みました。

関係する国々から、絹、糸、白銀、黄金などをなどを集めて、準備は万端です。

全てが見事に揃い、心配することは何もありません。



このように衛門督家、兵部の大輔家と中納言家が和解している頃、天皇の病が急変して、天皇は東宮に天皇の位を譲られました。

新天皇は、衛門督の妹が産んだ長男です。

そして天皇になった兄の代わりに、次男が東宮になられました。

新しい天皇の母は、皇太后になられました。

衛門督は、大納言になりました。

空いた中納言の位には、三の君の元夫・宰相がなり、宰相には大納言の弟の中将がなりました。

新大納言に(ゆかり)のある人達は、皆、昇進しました。

大変目出度いことに、世はこの新大納言の一族の天下となったのです。

大納言は新しい帝からの新任も篤く、こうして大納言の栄光を見聞きして、舅である中納言は、顔が立ってとても嬉しいと思いました。

ただ、その栄華の中に四の君の婿は入っていませんでした。

それが、⦅()()()なことや。兵部の大輔さんは大納言さんのお母さんの縁続きやったはず……。まぁ、中納言には、ならはるのやろ……息子は父の官位を継ぐはずや。⦆と舅である中納言は思いました。



兵部の大輔は⦅不甲斐ないことや……。⦆と落胆を隠しえません。

ただ、元来の大輔は、官位に関心が無かったのです。

それが、許して貰いたい、認められたいとの思いが湧いて来て、出世が遠いことに落胆するようになりました。

それもこれも、四の君の為なのです。


「どないなさいました?」

「大輔のままや。顔向けが出来へん。」

「そないなこと……。」

「其方はそない言うてくれて、有難いと思うてる。

 けど、お義父(もう)さんは……どない思わしゃるやろか。

 婿として……()()()()()娘を委ねられぬと思わしゃるのやろな。」

()()()()()でござります。」

()()()()()?」

「はい。殿さんは、どないなお立場でも私のたったお一人の……

 大切なお方であらしゃいます。」

「四の君………。」

「お息文字で……何時までも……お傍に……。」

「四の君!」


四の君を優しく抱きしめた大輔でした。



⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂



横になって落窪の物語を話す孝子に、公廉は聞きました。


「栄華か……縁遠い話やなぁ……。

 ……今となっては、これで、()()()()()やと思うてるのや。

 これで、()()()()()や。」

「……はい。」

「しんどいか?」

「ちと………。」

「お(しずま)り……続きは、ゆるゆるとな……。」

「はい。」


孝子が休むまで、傍を離れない公廉が「まだ、まだ、其方と……居たいのや。私の望みは、それだけや。孝子……。」と小さな声で言いました。

おとしめし…老人。

けもじ…奇妙な。

おはやばや…早くに。

東宮…皇太子。

おいとぼい…可愛い。

およしよし…良いこと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ