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一条戻り橋  作者: yukko
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もう一つの和解

原作では面白の駒は四の君と最後まで夫婦ではありません。

ですので、ここからさきは原作を題材にした物だとご理解ください。

面白の駒=兵部の少輔の官位も原作を変えて、一つ上の大輔にしました。

この辺りのことは書き終えた後の「あとがき」で詳しく書きます。

孝子の身体は完治していません。

公廉が望む二人して行く散歩に行くことが叶わないままです。

落窪の君の物語も書くことが出来る日もあれば、公廉に書いて貰う日も少なくはありません。


⦅あぁ………逝く日が()()()()()…やも……しれへんえ。

 早う書き上げて、この物語を残したい。

 吾が君さんに、子らに残したい。⦆


孝子はそう思うようになりました。



⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂



衛門督と源中納言が打ち解け合った頃、四の君を連れて逃げた兵部の少輔は悩んでおりました。


⦅我が妻も……源中納言さんに会わせたい。

 けど、私は主上(おかみ)の御覚えが目出度い訳やない。

 どないしても衛門督さん……私は見劣りがする。

 認めて貰うまでには至ってない……それが、()()()や。

 四の君は……私を許せへんのやないか……。⦆


顔色が優れない夫を四の君は案じました。


「どない、なさいましたか?

 この所、お顔の色が優れへんようにお見受け致します。」

「四の君……其方の耳にも入ったやろうな。」

「衛門督さんと私のお(もう)さんのことでござりますか?」

「そや……そうなんや。…………会いたいやろな……。」

「それは……会いとうござりまする。」

「私は……不甲斐ない……不甲斐ないばかりや。」

「そないなこと、あらしゃいませんえ。」

「私は、ようやっと大輔(たいふ)に任じられたばかりや。」

「はい。お気張りやしたからでござります。」

大輔(たいふ)でお許し頂けるとは思われへんのや。」

「殿さん、私は子も授かりました。

 殿さんが連れて出しておくれやしたよって、この幸せな日を送れたのでござりま

 す。」

「四の君……。」

「いつ、お(もう)さんにお会い出来(でけ)ても宜しと思うております。

 殿さん、私はこない思います。

 衛門督さんは、衛門督さん。

 殿さんは、殿さん。大輔(たいふ)であらしゃっても、少輔(しょう)であらしゃっても……。」

「大輔でええのか?」

「はい。」

「……ほな、この邸にお招きしてお詫びしよと思う。」

「はい。そないして頂ければ嬉しゅうござります。」

「四の君、御許し頂けんでも、御認め頂けんでも、其方を手放すことは出来へん。

 それで、ええのか?」

「出て行けと仰せあらしゃっても、出て行きませんえ。」

「四の君、ありがとう。……ほんまに、ありがとう。」

「殿さん………。」


兵部の少輔(ひょうぶのしょう)……いいえ、今は兵部の大輔(ひょうぶのたいふ)

兵部の大輔は四の君を強く抱きしめました。



兵部の大輔から源中納言家に文が届いたのは、それから直ぐの事でした。


「何? あの面白の駒からの文とな。

 四の君……は、あの面白の駒の妻になっておるのやろ。」

「大殿さん、四の君を連れ帰りましょう。」

「そないなこと出来るわけあらへん!

 今更、連れ戻せんわ。それこそ、()()()や!」

「けど、お(もう)さん。衛門督さんは、どない思わしゃりましょうや?

 衛門督さん、お気を悪うなさるのやないか?」 

「読ましゃりますよう。先ずは読まんと分からんと思います。」

「大夫、其方はそない言うが……。」

「先ずは読まねば分かりまへん……そない思います。」

「そやな、大夫。読んでみんことには分からへんな。」

「はい。」

「兎に角、四の君は連れ帰ります!」

「お(たあ)さんは、お静かになされ!」

「其方! 親に向かうて、そないなこと……!」

「大夫でござります。」

「お(たあ)さん、お静かに……。

 お(もう)さん、読ましゃいますよう。

 私も大夫の言葉の通りやと思います。

 衛門督さんの御心はさて置き、先ずは面白の駒が何というて来たのか……

 知らんといかんと思います。」

「そやな、先ずは何と言うて来たか読んでみよ。」


兵部の大輔の文には「四の君との間に子が授かったこと」「源中納言家の人々に四の君と子と共に会いたいこと」「兵部の大輔の邸に来て欲しいこと」と謝罪の言葉が連ねてありました。


「行きましょう! 行って四の君を連れて帰りましょう!」

「面白の駒に会うたら……笑ってしまうのやろな。

 今もあの顔が思い浮かぶと……笑ってしまう……あはは……。」

「私は会いとう存じます。

 兎に角、参りましょう! お(もう)さん、お(たあ)さん。」

「四の君に会いたいなぁ……私も年を取った故に……な。」


兵部の大輔の邸に源中納言は北の方と越前守と大夫を連れて行きました。



その日は朝から晴れて良い天気でした。

兵部の大輔は⦅このお天道様のよな御目文字やったら……ええのにな。⦆と不安の方が大きいようです。

四の君は⦅私はこの邸の……兵部の大輔の北の方。源中納言家に戻りまへん。戻ったら、どこぞの公達と妹背の契りを結ばされます。私の妹背の契りは兵部の大輔さんだけやして。⦆と決意を新たにしています。


邸に招かれた源中納言家の人達は、趣がある邸に驚いています。

あの面白の駒と呼ばれている兵部の大輔からは想像出来ない邸です。

通された部屋で待っていると、兵部の大輔が入って来ました。

直ぐに頭を下げて、ゆっくりと、しっかりと言葉を繋ぎました。


「お越し頂き誠にありがとうございます。

 あの日から文も出さずに誠に申し訳ござりませぬ。」

「そうや! 娘を連れ去って、勝手な事を……。」

「この通りでござります。」


深く頭を下げて謝罪の言葉を続けようとすると、越前守が笑いをこらえるのに必死な姿を兵部の大輔は見てしまいました。


「……この顔、笑うて下さい。

 こないな顔、見とうはあらしゃいませんと存じます。

 ただ、御目文字せねば謝罪も叶いませなんだ。

 幾度も頭を下げます。

 下げても下げてもお許しあらしゃらぬことは存じております。

 ………お許しあらしゃらぬままではございますが、子宝に恵まれましてござりま

 する。

 私に似ず、()()()()()姫でございます。

 何卒、我が妻と我が娘に会うて下さりませぬか……。」

「頭をお上げあらしゃいますよう。

 兵部の大輔さんは、私が娘の婿に願う官位であらしゃいます。

 私は従五位下より上の公達との縁を望んでおります。」

「大殿さん! 何を言わしゃります!」

「北の方、其方は物言わしゃるな!

 兵部の大輔さんは、私が婿殿に望む官位であらしゃいます。

 なれど、知らぬ間に連れ帰られるのは如何なものであらしゃいましょうや。

 娘がおらんようになって、私がどないに、()()()()()やったこと、お分かり頂き

 とうござります。

 兵部の大輔さんの御邸におると分かっていても、こちから文を出すこと出来(でけ)なん

 だ。

 そなたさんより文を頂いておらぬ故に……の。

 我が娘を北の方としてお迎え頂けるんやったら、しかと手順を踏んで頂きたかっ

 た。

 勝手に連れ去るなど言語道断!やと思わしゃいませぬか?」

「その通りでござります。……申し訳なく存じます。」

「兵部の大輔さん、早う文を頂きとうございました。」

「申し訳ござりません。ただただ、申し訳のうござりまする。」

「さ、娘と姫に会わせて頂きとうござります。」

「はい。こちに………。」


御簾の向こうに居た四の君が源中納言家の人々の前に姿を現しました。

その後ろから愛らしい四の君に似た幼い姫が乳母に抱かれて姿を現したのです。


「お(もう)さん、お(たあ)さん。久しくお目見え叶いませなんだ。

 お(そく)文字であらしゃいましょうや。」

「四の君!」


美しく着飾った四の君の姿に源中納言家の父と母、兄と弟は驚きました。

その姿から兵部の大輔が如何に大切にしてきたか分かりました。


「四の君! 其方、お(そく)文字やったか?」

「はい。お(もう)さんも……。」

「大事無い。」

「お(たあ)さんも……。」

「大事ありませんえ。」

「越前守さんも……。」

「大事無い。」

「三郎君……今は大夫であらしゃいましたね。」

「はい。大夫でござります。

 四のお(ねい)さん、きゃもじなこと、であらしゃいます。」

「ありがとう。

 兵部の大輔さんが大切に大切にして下さいまして……私は幸せにござります。」

「四の君! 其方を私は」

「お(たあ)さん、私は兵部の大輔さんの北の方でござります。

 兵部の大輔さんのこの邸を離れることはござりませぬ。」

「四の君! 其方……。」

「お(たあ)さん、この邸は私の為に兵部の大輔さんがお作りあらしゃった邸でござりま

 す。

 こないな幸せ、ござりましょうや。

 私は兵部の大輔さんの北の方として、これからもこの邸で暮らしまする。」

「四の君………。」

「それが宜し。」

「何卒、お(もう)さん、お(たあ)さん……越前守さん、大夫さん。

 これからは、この邸に御出で遊ばしませ。」

「四の君、そないさして貰おう。

 兵部の大輔さん、これから父と思うて下されや。」

「源中納言さん! ありがとう(かたじけの)うござります。」


源中納言の許しを得られてから、乳母に抱かれた姫を源中納言は抱きました。

その両手に幼子の重みを感じながら、源中納言は言いました。


「あの落窪も子宝に恵まれた。

 四の君も()()()()()姫を得られて、ほんに良かったことよのう。

 ()()()()()姫やなぁ……ほんに、これで宜し。」

「………面白の駒が婿やなんて……。」

「お(たあ)さん、四の君のあの笑みをご覧遊ばしますよう。

 あの笑みが全てやと思います。」

「越前守さん、其方まで……。」

()()()()()(ひい)さんまで御生まれであらしゃいます。」

「大夫さん、其方……。」

「ほら、北の方、其方も()()()()()姫を、()()()()()と何もかもが()()()()()

 と思うはずや。」

「大殿さん……。」

「ほら、見とうみ。四の君に良う似て、()()()()()やないか。」

「ほんまに……四の君に……良う似て……。」


この日から、兵部の大輔(ひょうぶのたいふ)と四の君は源中納言家と行き来する仲になれたのです。

兵部の大輔(ひょうぶのたいふ)は四の君の両親へ孝養を尽くそうと決意した日でもありました。



⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂



孝子が書いた落窪の君の物語を読んでいた公廉が言いました。


「忘れとったわ。

 そやそや、居てはったなぁ……面白の駒さんが……。」

「はい。」

「良かったなぁ……ほんまに良かった。」

「さよでござりますね。」

「源中納言さんは、盃を交わさへんかったけど、已む無しと思わしゃってたんや

 な。

 父と母の想いが違うてたんやな。」

「はい。妹背の契りをどの公達と結ばせるか……それを考えて選ぶのは母の務めで

 ござりますれば……。」

「そやな。けど……それなら、面白の駒さんは四の君を連れて出すこと叶わなんだ

 はずや。」

「それは、夜が明けましたら……。」

「そうか……!……孝子!」

「はい。」

「無理はしたら、あかんのや。」

「はい。心します。」


公廉に言われて、床に就いた孝子でした。

おちかぢか…近いうちに。

おさびさび…寂しいこと。

きゃもじ…綺麗な、華奢な、清潔な。

お息文字…御息災。お元気。

おいとぼい…可愛い。

おなしする…お抱きする。

およしよし…良いこと。

およしよし…良いこと。

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