キョクトウ連邦①
「おお!!ここがエンの街か!なんていうか・・・素晴らしいな!!」
俺はアマネ、ヨギリ、サクヤ、マシロと共にキョクトウ連邦はエンの街に来ている。アマネとヨギリはいつも通りアーネとヨルになり、変装魔法で姿を変えている。ただサクヤとマシロはそのままだ。最低限の変装以外はなにもしていない。
それで大丈夫なのかと思ったが、2人はアマネ達のように有名じゃないので、問題ないらしい。サクヤは元Aランク冒険者とは言え、ほとんど表立って活動していなかったから「尻尾と耳を隠せば十分です」とのこと。マシロも「人化してるから大丈夫」だと言っていた。まあサクヤとマシロがそう判断したのなら、俺があれこれ言っても仕方ない。
それよりもこのエンの街だ。正直驚いた。何故ならあまりにも俺の世界の街並みに似ていたから。俺が大はしゃぎしているのもそれが理由だ。
「そうなのか?お主の世界はこんな場所じゃったのか?」
「うん・・・あ、いや今は違う。俺も絵や文献でしか見た事ないけど、昔はこんな感じだったらしい。だから実際に見る事が出来てちょっと感動してる。」
「ふっ・・・なるほどの。」
エンの街は建物が全て伝統的な日本建築。長屋のような日本家屋がずらりと並んでいる。もちろん俺は江戸時代の人間ではないので、本当にこの通りだったのかはわからない。ただどこか不思議と居心地の良さを感じる。
「国の名前からしてもしかしてと思ったけど・・・」
本当に日本を彷彿とさせる国だったのには驚きだ。
道行く人の格好もほとんどが小袖や小紋といった着物姿。こうなってくると、食文化や社会的文化、歴史的文化も日本と似ていのるかもしれない。
久々に日本食・・・食べたい。
「そう言えば・・・ヨルが娼婦の時に着てる着物はキョクトウ連邦の物なのか?」
「うん、せやで?」
「と言う事はヨルはこの国の出身?」
「えっとな、正確に言えばちゃうねん。この地方の生まれなのは確かなんやけど、うちが生まれた国はもう無いねん。」
地雷を踏んだかなと一瞬ヒヤッとしたが、ヨギリは特に気にした様子もない。まあヨギリは100年以上生きているし、国が無くなったり増えたりする事も普通にあるのだろう。
「ちなみにサクヤも同郷なんやで?」
「お、そうなのか。じゃあ2人にとっては見慣れた場所なんだな。」
「それがそうでもないんよ。うちらはこの地方で生まれはしたけど育ったわけではないからね。」
サクヤもヨギリに同意するように頷く。
「それにもし詳しいならそれを理由に連れてってと言ってますよ。」
「はは、それもそうか。ヨギリやサクヤなら言いそうだ。」
「ふふ、そういうことです。」
「それでも多少は詳しいだろ?」
「まあそれは一応・・・詳しいと思います?」
ならある意味サクヤとヨギリを選んで正解だ。
そう言えばアマネやコハルはどこの国出身なんだろうか。今度聞いてみよう。せっかくだしユイカ達のも知りたいしな。
こう考えると、俺は全然みんなの事を知らない。最近やっとうちの娼婦が全員人族じゃないと言う事を知ったくらいだ。もっと興味を持つようにしよう、反省。
「ところでサクヤは着物を着ないのか?せっかくキョクトウ連邦来るなら着ればよかったのに。それになんで今日はスカート?」
今日のサクヤの私服はロングスカートに長袖のシャツ。サクヤのこういう普通の私服は初めてで新鮮だ。
ちなみにマシロは女の子らしいひらひらのワンピース。ヨギリは浴衣のような着物を着流している。そしてアマネは娼婦の時に着ている色気たっぷりのドレス。というかアマネはいつもこの服だけど、普通の私服を持ってないのだろうか。
「あ・・・へ、変ですか?」
「ううん、可愛いよ。でも着物も似合いそうだなって思っただけ。」
「あ、ありがとうございます。着物は私のような明るい髪だとあまり似合わない気がしたので・・・でもハルさんがそう言うなら・・・こ、今度着て見ます・・・!」
確かにヨギリのような黒髪の方が着物は似合うかもしれない。だがサクヤも間違いなく似合う。そんな気がする。
「うん、楽しみにしておくよ。」
「それよりハルさん、どこ行くんですー?」
俺の隣をとことこ歩いてるマシロが首を傾げながら尋ねてきた。
「花街は見たい。でもまだ時間早いしな・・・ヨル、サクヤ、どこが良いと思う?」
「せやなぁ・・・とりあえず冒険者ギルドに行くのでどうやろ?」
「いいと思います。それが終わったら食事処に行ってご飯でも食べません?ハルさんの故郷に似てるなら懐かしい食事が楽しめるかもしれませんし。」
「あ、それええな!そうしよか!」
2人があっという間にエンでの予定を全て決めてくれた。
うん、やっぱりこの2人を連れてきてよかった。
「じゃあヨルとサクヤについてくよ。」
「まかしとき!」
「ええ、任せてください!」
「ぐぬぬ・・・わらわの出番が・・・!」
アマネが何やら悔しそうにしている。いちいち張り合わなくてもいいのに。
「よし、いくでー!」
「はい!行きましょう!」
「うむ!釈然としないが・・・気を取り直して出発じゃ!」
何故か号令をかけるヨギリ。そしてノリノリのサクヤとアマネ。
そんな3人を呆れた様子で見つめる俺とマシロ。
(マシロ、あれどうすればいいの?)
(放っておきましょう。さあ、冒険者ギルドはこっちですよー。)
(お、おう・・・)
マシロは俺の手を掴むと、さっさとエンの街の中心街へ向かう。
「「「こらー!!!」」」
後ろで何か叫んでるけどいいのか?
「どうせ勝手について来ますよ。行きましょー。」
自由だな、マシロ。
エンの冒険者ギルドはレガス帝国のレガンハイムに比べ、人の入りも多く、依頼書も数多く張り出されていた。だがアマネ曰く、これくらいが普通なんだとか。確かに受付嬢も複数人いたし、ギルド内は騒がしかった。
「ふーん、受付嬢ってやっぱ美人が多いんだな。」
「そうですね。その方が何かと捗るそうですよ。」
まあ受付嬢はギルドの顔だ。能力だけじゃなく容姿もきっと重要なのだろう。
「そっか。」
「ハルさんはあまり興味なさそうですね?」
確かにあまり興味ない。だがそれはアマネやサクヤ達が身近にいるせいだ。彼女達のような美人を毎日見ていれば、嫌でも目は肥える。
それにギルドに入った途端、最低限の変装しかしてないサクヤやマシロに視線が集中した。やはり誰が見てもうちの娼婦は美人なのだ。
「失敗したなー・・・」
うちの子達の美人レベルを少々甘く見ていた。なんせ受付嬢より遥かに美人なのだから、注目を浴びるのは当然だ。彼女達にも無理矢理変装させた方がよかった。
「サクヤ、あまり騒ぎは起こさないでね?」
「ええ、大丈夫です。」
そう言って俺の腕に抱き着いてくるサクヤ。そしてマシロ。
「少しは人の話を聞いて!なんで!?」
注意した側からさらに注目浴びるような事をしないで欲しい。
「それなら大丈夫ですよー!」
「え、どういう事?」
「ふふー、私達がハルさんにギュッってした瞬間、殺意飛ばしてきたやつらをアーネ姐さん達が既に無力化してますからねー。」
マシロが見てくださいと前方を指差す。
するとそこには意識を失った冒険者達が数人床に倒れていた。
「アーネ、ヨル・・・何したの・・・」
「ハルに殺気飛ばしたから・・・こう、ちょちょいとな?」
「うむ。うざかったから眠ってもらったのじゃ。」
うん、なるほど。確かに手っ取り早い方法ではある。サクヤ達が敢えて注目を浴びるような事をして、敵意を飛ばしてきた連中をアマネ達がぶちのめす。
もしかしてサクヤやマシロが「変装なんて大丈夫ですよ」って言っていたのは、こう言う事をするつもりだったからなのか?俺としてはもう少し平穏な手段を取って欲しいんだが。だってギルド内が大騒ぎだもの。
「次からは出来るだけ目立たない方向で頼むよ・・・」
「むぅ・・・仕方ないの・・・」
これ以上変に目立つのも嫌だったので、冒険者ギルドから引き揚げた。まあギルド内にいる冒険者達から「今日は花街へ繰り出すぞ!」的な発言も聞けたことだし、もう用はない。
「エンは結構花街が栄えてるらしいな。」
「せやね。ちなみにこの国では娼婦じゃなくて遊女って言うんやで。」
「ということは娼館じゃなく遊郭っていうのか?」
「やっぱハルの世界と似てるんか?」
「多分な。」
「そうなんやね。まあここにいてもしゃあないし、次いこか。」
俺達はそんな会話をしながら食事処がある市場の方へ向かう。
「冒険者時代に食べた店がまだあればそこにしよ。おススメやねん。」
「ああ、あそこですか?いいですね、私も好きです。」
「せやんな!中々美味しかったよな!」
「はい、久々ですね!楽しみです!」
ヨギリとサクヤがまたガールズトークで盛り上がっている。こうやって2人を見てると、姉妹みたいで微笑ましい。まあヨギリとサクヤは同郷であり、同じ狐人族だ。共通点も多いし、似た者同士なのかもしれない。
「ぐぬぬ・・・今日は出番が皆無なのじゃ・・・」
そしてアマネは相変わらず不貞腐れている。
「アマネってそんな目立ちたがり屋だっけ?」
「そ、そういうわけじゃないのじゃ・・・!」
「じゃあ気にすんな。飴ちゃん、食べるか?」
「うん、食べる・・・ってわらわを子供扱いするな!!!」
うちのロリババア可愛い。文句を言うくせに、ちゃんと飴玉を受け取るし、美味しそうに頬張っている。
(アマネ姐さんって子供っぽいですよねー。)
(やっぱりマシロもそう思うか。)
(はい、そういうところがちょっと可愛いです。)
(だよなー。あ、マシロも飴ちゃん食うか?)
(やったー!)
マシロもマシロで案外無邪気なんだよな。俺には姉がいなかったからわからないが、実際の姉弟もこんな感じなのだろうか。
うん、悪くない。
「味噌汁だと!こっちは漬物・・・!」
ヨギリが連れてきてくれた食事処で出されたご飯はまさかの日本食。
店に入るなりヨギリは「うちにまかせとき」と言い注文を済ませてしまった。メニューすら見せてくれなかったのを不満に思っていたが、出て来たのがこれだ。味噌汁、漬物、白米、そして焼き魚。まさに日本人の心と言わんばかりの焼き魚定食。
「ヨル、おまえ・・・よくわかってんな!」
「ふふ、せやろ?うちもこれ好きやねん。」
ヨギリも狐耳をぴくぴくさせながら美味しそうに焼き魚を食べている。
でも確か狐って肉食じゃなかったっけ?
「サクヤも好きなのか?」
「はい。好きですよ。」
ただどこか物足らなさそうな表情のサクヤ。
まさか・・・と思い、定食の味噌汁に入ってた油揚げ掬い、サクヤの味噌汁に入れてやる。
「もしかしてこれの方が好き?」
「は、はい!大好きです!」
幸せそうな顔で俺があげた油揚げを頬張るサクヤ。
「なあヨル、狐って油揚げが好きなんだよね?」
「え、そんなことないで?そんなんどこで聞いたん?」
違うらしい。
「じゃあサクヤは?」
「それは単純にサクヤが好きなだけやん?」
どうやら狐が油揚げ大好きというのは俺の勝手なイメージだったらしい。
「そ、そうなのか・・・俺の世界ではそういう通説があったんだよな・・・でもサクヤはイメージ通りだ!さすがサクヤ!やはりお前は最高の狐だな!」
「え、えーっと・・・あ、ありがとうございます?」
何が何やらと首を傾げるサクヤ。
「なんでやねん!?ハ、ハル!うちも、うちもお揚げさんすきやで!・・・サクヤ、そのお揚げさんうちに全部寄越し!!!」
「ちょ、ちょっと!やめてください!これは全部私のなんです!」
狐2匹が油揚げを取り合ってる。そうか、これが天国か。
「こいつらご飯くらい静かに食べれんのか・・・」
「でも最近、狐に色々持ってかれてる気がするのです。」
「ぐっ・・・確かにマシロの言う通りじゃ、鬼人族としての威厳が・・・」
「私も兎として負けてられません。でもハルさん・・・狐大好きの変態さんですし、どうしましょうね。」
「マシロは兎獣人じゃから耳があるじゃろ。じゃがわらわは角じゃからな・・・ハルの変態獣人趣味の為に尻尾とか生やした方がいいんじゃろか。」
おい、そこ、全部聞こえてるからな。
でも最近変態と言われる度合いが増えてきた気がする。少しは獣人趣味を自重した方がいいのだろうか。
「アマネ!」
「なんじゃ・・・?尻尾がないわらわに何の用じゃ。」
「こ、この国の食材、たまに買いに連れてきてくれないか?」
「別にいいが・・・」
「ほんとに!?」
「う、うむ。別にいいぞ?」
「アマネありがとう!大好き!」
「う、うむ!そうかそうか!!やはりハルにはわらわが必要なんじゃな!!!さてわらわもご飯食べるかの!・・・うむ!飯が美味いの!」
アマネがぱくぱく料理を食べ始める。すっかり機嫌が直ったようだ。
――クイクイ
マシロに袖を引っ張られた。
(あの・・・アマネ姐さんで遊ぶのはほどほどに。単純なんですから。)
(お、おう・・・ごめん。)
(ヨギリ姐さんやサクヤさんにご熱心なのもいいですけど、アマネ姐さんやコハル姐さんの事もちゃんと構ってあげてください。あの人達すぐ拗ねちゃうんですから。あと私達の事も忘れないでくださいね?)
(・・・気を付けます。)
(はい、気を付けてください。)
怒られた。
マシロはこういう意味で本当の「姉」だ。アマネ達は俺に文句を言ったり、甘やかしたりしてくるが、それだけだ。マシロやユイカ達は怒る時はしっかり怒る。しかも感情任せに怒るだけじゃなく、ちゃんと理論立てて説教してくる。
「マシロ姉さんには敵わないな。」
「えへへ、とーぜんです。お姉さんですから。」
「ごちそうさま・・・ああ、美味かった。」
しかしちょっと食べ過ぎた。あまりにも日本食が懐かしくて、定食を追加でもう1つ頼んでしまった。でも大満足だ。
ちなみにそんな俺の様子を見たサクヤが「これ作れるようにします。毎日私のお味噌汁食べさせてあげますね。」と気合を入れていた。なんかプロポーズっぽい。まあ日本食がこれから食べれるのは素晴らしい。キョクトウ連邦来て本当によかった。
「あんなハル、満足してるとこ悪いねんけど・・・メインの遊郭はこれからやで。」
俺があまりに幸せそうな顔をしていたようで、ヨギリが呆れ顔だ。




