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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第二章 新天地編
93/106

朝食

 カミール王国の下見から2日。昨日は約束通り、休みにしてもらった。そして今日、4ヶ国目へ向かう予定だ。それがサンクレア公国なのかキョクトウ連邦なのかはまだ聞いていない。


 現在のところレガス帝国、シミール王国、カミール王国は胡蝶を運営するのには適さない国だとわかった。残すところはあと2ヶ国。良い国が見つかるのかという不安は少しあるが、正直あまり心配していない。


 何故なら国の訪問順を決めたのはアマネだからだ。この順番にした理由は聞いてないが、きっと最後の国が本命なのだと思う。アマネの性格からしてそんな気がする。そして今日の4ヶ国目は準本命というところだろう。


 俺はそんな事を考えながら、1階の待合室へ向かう。


 もういい時間なので全員起きてるかと思ったが、ソファーにサクヤが座っているだけだった。


「おはよう。サクヤだけか?」

「あ、ハルさん、おはようございます。ええ、皆さんまだですよ。」

「珍しいな・・・どうしたんだろ。」


 ユイカやマシロ達はともかく、アマネ、コハル、ヨギリが俺より遅いのは珍しい。というかおかしい。


 ・・・あれ?


 そう言えばいつもあいつらは俺を叩き起こしに来るのに、今日は来ていない。そのおかげで安眠は出来たが、逆に心配になる。どうしたんだろう。


「起こしに行った方がいいかな・・・心配になってきた・・・」

「あ、ほっといていいですよ。そもそも毎朝ハルさんの部屋に突撃して睡眠妨害してる方が頭おかしいんですから。それより朝ごはん出来てますよ。」


 やたらアマネ達に辛辣なサクヤ。というか昨日くらいからサクヤが少しおかしい。アマネ達に対して冷たいというか俺に対して優しいというか・・・


「今日の朝食はサクヤの担当?」

「はい、頑張って作りました。とりあえず紅茶をどうぞ。」

「ありがとう。」

「いえいえ、これくらい淑女の嗜みです。あ、今日も朝の尻尾は必要です?」


 と言う感じで俺を甘やかしまくってくる。朝から付きっきりでメイドの如くお世話してくれるし、尻尾も触りたい放題だ。

 

「当然必要!」


 まあ俺としてはサクヤが甘々なのは嬉しい。文句はない。


「ふふ、ではうるさいのが来る前にブラッシングしてください。」

「任せとけ。」

「それで昨日のお休みは、ゆっくり休めましたか?」

「いや、全然。サクヤも知ってるだろ・・・?」


 むしろ国の下見に行ってる方が平和だった。昨日は朝からコハルに1日中付きまとわれ、鉄拳制裁を受ける事20回。コハルは晴れやかな笑顔でもの凄く楽しそうだったが、俺からしてみれば休日でもなんでもなかった。


「大丈夫です。ちゃんと反省させました。」

「え、どういうこと?」

「ふふ、そのうちわかります。」


 サクヤがくすくす笑う。


 先も言ったけど、本当に最近のサクヤは変わった。昔から面倒見はよかったが、さらに面倒見がよくなったお姉さんという感じだ。


「それで今日はどの国に行くんですか?」

「まだ聞いてないんだよね。」

「なるほど・・・ちなみに私の予想だとキョクトウ連邦です。」


 何故か急に予想をし始めたサクヤ。


「なんで?」

「な、何となくです!でももし予想通りなら私を連れてってくれません?」

「うん、ああ・・・アマネが良いって言うならいいけど?」

「ふふ、それなら大丈夫です。実は先日、ハルさんが寝たあとに秘密の女子会をしてまして、私達ばかり留守番は不公平だと言う話になったんです。それで国巡りに連れて行く子をハルさんが選ぶ事になりました。」

「え、なにそれ、聞いてない。」

「はい、だから今言いました。」


 色々と突っ込みどころがありすぎる。


 サクヤ達ばかり留守番なのは不公平という話はまあ・・・わかる。百歩譲ってそれは良いとしても、秘密の女子会ってなんだ。

 

「えっと・・・秘密の女子会って?」

「ふふ、それは秘密です。知らない方が幸せな事ってあるんですよ?」

「あ・・・はい・・・えっとそれで俺が決めるの?」

「はい。アマネ姐さん達が交代制にして素直に引き下がると思います?」


 そうだな、間違いなく引き下がらない。アマネなら「わらわが一番偉いのじゃ!わらわが行くのじゃ!」とか言いそうだ。


「それはそれで嬉しいけどね。嫌われてないって事だし。」

「むしろあれはハルさんに少々懐きすぎです。まあ・・・私を含め、みんなハルさんにはお仕事で色々お世話になってるので、お慕いするのは当然ですけど。」


 実際サクヤの言う通りなのだろう。胡蝶で唯一の男性なのに、誰も何一つ文句言う事なく、俺をここに住まわせてくれている。まあサクヤ達にとって俺は庇護欲を掻き立てる弟のような存在で、男として見られてないだけだろう。それでも受け入れられるのは嬉しいものだ。


 この世界にいつの間にか転移していた俺を保護してくれたアマネ。そして右も左もわからない、知り合いもいない、独りぼっちだった俺に居場所くれたサクヤ達。俺が彼女達に懐くのは当然だし、彼女達の為に頑張ろうと思うのは必然。その努力の結果・・・なのかはわからないが、彼女達も俺の事を「家族」だと言ってくれる。


 何故、どうやって、俺はこの世界に来たのか。理由は今でもわからない。だがアマネやサクヤ達に出会えた事で、俺はこの世界に来てよかったと思える。いつの日か、召喚?転移?転生?した理由くらいは知りたいが、元居た世界に戻ろうとは思わない。


「・・・だからさ、俺もサクヤやみんなに感謝してるんだよ。」

「あ、ありがとうございます・・・じゃ、じゃあ!あの!私が娼婦をやめたら・・・ハルさんがこの世界に来た理由、一緒に探しませんか!」


 サクヤの頬が少し桜色に染まっている。


「いいね、それ。お願いするよ。俺も理由は知りたいからね。」

「はい!ふふ、また楽しみが1つ増えました!」


 嬉しそうに微笑むサクヤ。


「そうだな。それで話が逸れたけど、俺が一緒に行く人を選べばいいんだな?」

「ええ、みんな弟と出掛けられるのを楽しみにしてるんです。あ、私もですよ?」

「わかったよ、サクヤ姉さん。・・・っと尻尾はこんなとこでいいか。」


 ふさふさのもこもこになったので、今日の尻尾の手入れはこれで十分だろう。


「ハルさんにサクヤさん、朝からラブラブですねー!」

「です・・・!アツアツ・・・です!」


 サクヤの尻尾を梳かすのをやめるのを見計らったような絶妙なタイミングで、背後から声を掛けられた。


 マシロとユイカだ。その後ろには他の嬢達もいる。


「みんなおはよう。」

「おはようです!」

「おはよう・・・ございます・・・です!」

「ア、アツアツってなんですか!?こ、これはただの姉と弟のスキンシップであって・・・決して変な意味ではなくて・・・!!」

「おはよー!」

「おはようございます!」


 うん?なんか朝の挨拶に交じっておかしいのがいたな。

 

「サクヤか。・・・ってどうした、サクヤ?おーい、サクヤー?」


 俺の声は既に届いていないようで、サクヤは頭を抱えながら何やら1人でぶつぶつ呟いている。急にどうしたんだろう。


「ハルさん、あれはただの病気です。気にしない方がいいです。」

「です。」


 マシロとユイカが生暖かい目でサクヤを見つめている。

 

「そ、そうか。」 

「それよりサクヤさんと何話してたんですかー?」

「俺がサクヤに色々感謝してる事とかだな。」

「ほうほう!いいですねー!他には他には?」

「んー、娼婦やめたら一緒に旅行しようとか。」

「らぶらぶですねー!」

「そうか?家族旅行みたいなもんだろ。」

「ふふ、そうですね!」

「後は・・・ああ、今日一緒に行く人を俺が選ぶ事になったって聞いた。行きたいので私を選んでくださいって言ってたぞ。」

「なるほどなるほど!」

「ハ、ハルさん!何ぺらぺらしゃべってるんですか!!!」


 あ、サクヤが復活した。別に内緒にするような内容じゃないと思ったから聞かれた事を答えただけなんだが、不味かったか?


「なんか駄目だった?」

「だ、駄目じゃないですけど!!!」

「はいはい、サクヤさんは黙っててくださいねー!」

「んーんんっー!?」


 マシロが満面の笑みでサクヤの口を手で塞いでいる。


 なんかサクヤの扱いがアマネ達に似てきたな。サクヤの様子がおかしいだけじゃなく、サクヤに対するユイカ達の態度もここ最近微妙に変わってきてる気がする。


「んー・・・サクヤになんかあった?」

「いえいえー、なんもないですよー!気にしたら負けです!」


 まあいいか。何かあったんだとしても、教えてくれなさそうだ。これは考えるだけ無駄だろう。


「それよりアマネ達、遅くない?心配になってきたんだけど・・・」


 現在時刻は朝の8時。アマネ達はまだ起きてこない。いつもならこの時間には間違いなくもう待合室にいて騒いでいる。それなのに今日は誰よりも遅い。朝5時半に俺の部屋に突撃しに来るあの3人が、8時なっても起きて来ないのは何かがおかしい。

 

 ――ドゴォオオオオオン!!!


 そんな事を考えていたら、突如もの凄い爆発音が聞こえた。


「な、なに!?何が起こった!?」

 

 爆発音は上の方からした。まさかアマネ達に何かあったのか・・・と俺は慌ててソファーから立ち上がる。


「「「さくやああああああああああ!!!」」」


 アマネ達の絶叫にも近い怒号が聞こえた。


 ああうん、よかった、元気そうだ。






「とりあえずお前ら落ち着け。」


 叫び声から数秒後、アマネ達がもの凄い勢いで階段を下りてきた。そしてサクヤに襲い掛かろうとしたので、慌てて止めた。


「ハル!そこどき!その性悪狐、殺さなあかんねん!!!」

「そうよ!ハルさん!今日と言う今日は絶対殺すわ!!!」


 いつも以上に過激だな。一体何があった。


「そやつはな!そやつはな!わらわに酷い事をしたんじゃ!ハル!聞いてくれ!」


 アマネが必死にサクヤの非人道的行為を訴えてくる。


「そ、そうなのか?何をされたんだ?」

「その糞狐は!わらわが部屋から出れないよう魔法をかけたのじゃ!!!物理障壁、魔法障壁、転移妨害障壁の結界を3重ずつ張りおった!さらには念には念をいれ、扉を物理的に紐や鉄などで固定する徹底ぶりじゃ!!!おかげで抜け出すのに今までかかったのじゃ!!!」


 サクヤ、まじで何してんの。どれだけ本気で監禁したかったんだよ。しかしサクヤが本気出すと、アマネ達をある程度無力化できるのか・・・凄いな。


「そうなのか、サクヤ?」

「え、えっと・・・その・・・まあ似たようなことは・・・したかもです?」


 サクヤは首を傾げながら、上目遣いで俺を見つめてくる。


 うん、可愛い。


「似たようなことちゃうやろ!その通りやろ!なにしらばくれようとしてんねん!ハル!そんなあざとい仕草に騙されたらあかん!誤魔化そうとしてるだけやで!」


 え、そうなの。普通に騙されそうだった。危ない。


「くっ・・・なら・・・ハ、ハルさん。聞いてください。アマネ姐さん達は毎朝ハルさんの睡眠を妨害してますよね?昨日もずっと付きまとって邪魔でしたよね?だから私はハルさんの安眠を守るためにしたのです。し、信じてください!」

「そ、そうなのか?まあ確かに毎朝鬱陶しかったけど・・・」

「それに今、私の味方をしてくださるなら・・・尻尾を好きなだけもふもふしていいです!特別に耳もつけましょう!」

「サクヤが正しい!アマネ達が悪い!!!」


 これは仕方ない。俺はサクヤの味方だ。俺の安眠の為、サクヤの行動は仕方なかったのだ。そう、決して尻尾に屈したわけではない。


「「「ハル!!!正座!!!」」」

 

 その後当然俺とサクヤは正座させられ、がっつり怒られた。まあいつもより若干短かったが。多分毎朝俺を叩き起こしてる事に一応の罪悪感はあったのだろう。


 ちなみにユイカやマシロ達はずっと俺たちの様子をにやにや眺めていた。


 楽しそうにしてないで助けて欲しい。






「うん、今日の朝食は美味いな・・・」


 説教もひと段落したので、俺はアマネ達と朝食を食べている。


 ちなみに今日の朝食はサクヤが作ってくれたのだが、滅茶苦茶美味い。他の嬢達のも美味しいが、サクヤが一番料理が上手い気がする。


 というよりこれは俺好みの味付けだ。先日もサクヤがご飯担当だった時、感想を色々と聞かれた。味が濃かったとか、薄かったとか、好きな料理、嫌いな料理。もしかして俺の好みに合わせてくれるのだろうか。


「ふふ、ありがとうございます。」

「くっ・・・こんなとこでハルの好感度を稼ぐとは・・・サクヤめ!」

「アマネも少しは料理したら?」


 サクヤ達は当番制で料理しているが、アマネはそこに入っていない。ヨギリやコハルもだ。というかこの子達が料理しているところは見た事ない。


「わらわにも苦手な物があるのじゃ!!!」

「そうよ!料理が出来なくても生きていけるわ!」

「無理して料理してもええことあらへんしな!」


 うん、それはそんな偉そうに言う事じゃないぞ。


 でもよく考えれば、アマネ達は料理だけじゃなく、掃除も出来ない。彼女達の部屋を掃除してるの俺だしな。生活力のなさが少し心配になるレベルだ。


「でも美味しい料理を作れると、良いお嫁さんになれると思うんだけどなぁ・・・」

「な、なんじゃと・・・!?」

「だから私はこの年になっても・・・?」

「いやや・・・そんなんいやや・・・!!」


 これは言ったら駄目なやつだったか。ごめん。


「き、気にするな!アマネ達は料理出来なくてもいい女だぞ!」

「ほ、ほんとか!わらわはいい女か!」

「う、うん。いい女だ。」

「よかったのじゃ!!!」


 復活早いな。メンタル強すぎだろ。


「それでアマネ、今日はどこの国に行くんだ?」

「今日はキョクトウ連邦じゃ!」

「了解、今日も頑張るか。」

「うむ!期待しておるぞ!」

「じゃあ誰に同行をお願いするか決めないとな・・・」


 そう言った瞬間、アマネ達とサクヤがビクッっと身体を震わせた。どうやらサクヤの言う通り、この話は女子会とやらでアマネ達に周知済みのようだ。ちなみにユイカ達は楽しそうににこにこ笑っている。こちらはこちらで何か不気味だ。


「んー・・・どうするかなー。」

「ハ、ハルー・・・わらわはいきたいのじゃ・・・」


 くっ・・・そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでくれ。可愛い。


 もしかして俺はいつもこんな目をしてるのか?だからアマネ達に可愛い可愛いと言われるのだろうか。まあ俺がこんな目をしていても可愛いとは微塵も思わないが。


「わ、わかった。アマネ・・・あとサクヤにする。」


 サクヤは予想が当たったら選んでくれと言ってたしな。


「それと・・・そうだな、マシロはどうだ?」

「え、私です?はい、行けるなら行きます!」


 まさか指名されるとは思わなかったのか、マシロが吃驚していた。


「なんでやー・・・なんでうちは選ばんのやー・・・」

「ハルさんは酷いわ・・・鬼よ、悪魔よ、獣人愛好家よ・・・」


 そんな泣きそうにならなくても。あとコハル、最後の1つはおかしいだろ。俺が変態に聞こえるからやめろ。


「アマネ・・・あ、あと1人いいかな?」

「ん・・・まあハルいれて5人くらいなら問題ないじゃろ。」

「じゃあヨギリで。」

「ハル!!!う、うちは信じてたで!!!」


 あんなに尻尾を下げて落ち込まれたら、ヨギリも連れていかないと俺の罪悪感が半端ない。


「ちょっと!?なんで私は駄目なのよ!やっぱり獣人愛好家の変態なのね!!」

「その渾名はやめろ!否定は出来んが!」

「じゃあ私を選びなさいよ!!」


 アマネ達の中で留守番させる1人を選ぶならコハルだろう。そう思ったから選ばなかったんだ。だって昨日20回くらいしばかれたし、一日中付き纏われたんだもん。


「コハルは明日。明日は絶対選ぶから。」

「ほんとね?・・・絶対よ?」

 

 渋々ながらもなんとか納得してくれた。


「そういえばうちのポンコツドラゴンは?ヒスイだけ今日まだ見てないんだけど。」

「あれはこちらから叩き起こさない限り絶対に昼過ぎまで起きてきません。」

「そうなのね。っていうかそもそもどこで寝てるの?ヒスイの部屋ないよね?」

「はい、トカゲは物置で十分だと思い、2階の掃除用具入れに押し込んであります。案外気に入ってるみたいですよ?」


 竜族の誇りとやらはどこ行った。本人が気に入ってるならそれでいいんだろうが、完全に胡蝶のペットになってる気がする。


 まあいいや。とりあえず昼過ぎまでは俺も適当にごろごろするとしよう。

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