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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第二章 新天地編
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カミール王国②

「おい・・・あの美人だれだ!?」

「・・・もしかしてアマネじゃないか?」

「あの元S級冒険者のか!?」

「じゃあ残りの2人はヨギリとコハルか?」

「鬼人族、エルフ族、狐人族の3人組。それに加えてあの美貌。間違いねえ。」

「じゃ、じゃああの男は一体誰なんだよ!」



 めっちゃ注目されてる。アマネ達が変身魔法を解いた瞬間、この有様だ。本当にどこでも有名なんだな。まあ強いし、可愛いし、人気があるのも当然か。


 しかし何故こんな事になってるのかというと・・・


 あれからコハルは奴隷商人との約束を取り付けてきてくれた。そしたらすぐに会ってくれるとのことだったので、俺達は早速その商会へ向かう事にしたのだ。ただその際、アマネ達は変装魔法は解くべきだと提案してきた。


『よくわからない人間がいきなり商会に来ても門前払いされるだけよ。だからコハルとして約束を取り付けたの。』

『せやね。うちらも変装解いたほうがええわ。このままやとハルが侮られるしな。』

『うむ。元S級冒険者であるわらわ達を連れているというだけで箔が付くしの。』


 とのことらしい。確かにアマネ達の言う通りではある。俺のような一般人が奴隷を買いたいと言ったところで、相手にしてもらえるわけがない。アマネ達の知り合いにしておいたほうが一目置かれるだろう。それは間違いないのだが・・・



「アマネは冒険者を引退して娼婦になったって風の噂で聞いたけど・・・」

「あの冴えない男がまさか3人を身請けしたっていうのか!?」

「ヨギリさんが男と歩いてるだと・・・こ、殺す!!!」

「俺のコハル様を返せ!!!」

「アマネお姉様!!!踏んでください!!!」



 注目度がやばい。そして俺に対する殺意もやばい。ノテーファル王国の一件でわかってはいたが、改めてアマネ達の人気の高さを思い知らされた。何より人族至上主義でこの人気なのだからさすがと言わざるを得ない。


「なあコハル様、これだけ人気あるなら変装必要なくない?」

「ちょっとハルさん、『様』とかやめてよね。でもまあ確かに今の私達なら差別される事はないと思うわ。とは言え結局は冒険者としての実力と・・・自分で言うのもなんだけど・・・この見た目のせいよ。」

「本質的な部分は変わらないと?」

「ええ、そう言う事ね。」


 コハル達は努力したから今の結果がある。幸いにも才能、そして外見にも恵まれた。だがやはり人族と他種族のスタートラインは大きく違う。人族だったらどれ程人生が楽だったかとコハルは小さく呟く。


「まあ俺が好きなのはエルフのコハルだから・・・そ、それでいいんだよ。」

「え・・・あ、うん・・・その、あ、ありがと。」

「それより俺、今にも殺されそうなんだけど?」


 アマネ達と会話する度に周囲からの殺意が増している。


「じゃあ・・・こないなことしたらどうなるんやろな?」


 そう言って俺の腕に抱き着いてくるヨギリ。 



「うわぁあああああ!!!」

「俺もう死ぬ!あいつを殺して俺も死ぬうううう!!!」



 無駄に煽るのはやめて。野郎どもが血の涙流してるから。


「ヨギリ、本当に殺されるからやめような?」

「ふふ、それは大丈夫や。だってうちらが守るしな。」


 その言葉は素直に嬉しい。けどそう言う事じゃない。いちいち目立つ事をするな。無駄に波風立ててもいい事なんてないだろうに。


「それでコハル、奴隷商はどこなの?」

「もうちょっと先よ。クレシア商会っていう奴隷売買専門の商会よ。そこの代表に会えるように手配しておいたわ。」

「さすがコハル。その商会ってのはでかいのか?」

「そうね・・・数年前は奴隷商会の中では最大手だったはずよ?」


  それなら話を聞く相手として申し分ないだろう。奴隷商として大手なら「色々」知っているはずだ。正直交渉事や腹の探り合いは得意ではないが、胡蝶の為、頑張って働くとしよう。


「あ、ハルさんの事は私達の『ご主人様』って紹介してあるからそのつもりでね?」

「なんで!?」

 

 気合を入れた途端に心が折れそうになった。それにコハルの奴、「ご主人様」の部分だけやたら大声で言いやがったな。おかげで辺りが阿鼻叫喚、悲憤慷慨な地獄絵図だ。主に男共が。


 色んな意味でこの国に胡蝶を作るのは止めておいた方がいい気がしてきた。


「ふふ、諦めなさい。それにこうしておいた方が色々と便利でしょ?」

「せやね。ハルは好き勝手振る舞ってええよ。うちらが完璧にフォローしたる。」

「わらわ達がお主を最高の男に見せてやろう。任せおくのじゃ。」

 

 最高の女を連れていれば、俺も最高の男になれる。そう言う事だろうか。正直よくわからないが、人心掌握においてアマネ達の右に出る者はいない。彼女達がそうするのが良いと言うのなら、それが一番なのだろう。


「さあ、着いたわ、ここよ。『支配人』としての最初の仕事ね。頑張ってね?」






 ――クレシア奴隷商会。


 カミール王国だけでなく、アナトリカ大陸で最大規模の奴隷商会だ。しかも最近はディテカ大陸にまで進出を始めたらしい。今では奴隷=クレシア商会と認識されるくらいで、奴隷売買が許可されている国なら、この商会の支店が必ずあるとすら言われている。


 そんなクレシア商会の本店がここカミールにある。俺達がやって来たのはその本店らしき屋敷、いや豪邸。これは下手したら王城よりもでかいのではないだろうか。隅々まで手入れが行き届いている広大で美しい庭、部屋数がいくつあるのかすらわからないくらいに巨大で豪華絢爛な屋敷。


「えっと・・・本当にこれなの?」

「そうよ?」


 まさに豪商。あまりの荘厳さに俺はつい門の前で立ち尽くしてしまう。想像以上の規模だ。今ならまだ引き返せると足が竦む。


「よし、か、帰ろう・・・」

「はいはい、いきますよ。」


 そう言ってコハルが背中をぐいぐい押してくる。


 待って。心の準備がまだ・・・


「コハルよ。クレシア商会長と約束してるわ。」


 問答無用と言わんばかりに、コハルが守衛に声をかける。


 そこからはもうとんとん拍子で、あっという間に応接室まで通された。今すぐ逃げ出したかったのだが、両脇をアマネとヨギリにがっちり固められ、半ば無理矢理屋敷に連れ込まれた。


「では商会長を呼んで参りますので少々お待ちくださいませ。」 


 執事らしき男が、紅茶を出してくれた。そして一礼し、すぐに応接室から出て行く。紅茶を飲んで待ってろと言う事だろう。


「わかったわ。でも早くしてよね。私達のご主人様はそんな暇じゃないの。」

「ちょ!コ、コハル!」


 なんでそんな上からなんだよ!やめて!


 緊張している俺の身にもなって!


「こっちは客よ?遠慮する事なんてないのよ。大体ハルさんは私達の『ご主人様』なんだから堂々としてなさいな。何の為に私達がハルさんの下にいるって態度を取ってると思ってるのよ。」


 確かにコハル達は屋敷入るまでも、入ってからも、常に俺を立てるような行動をしてくれていた。屋敷に入るのは俺の後、歩くのも俺の後ろ。応接室に案内された際も、俺が先にソファーに腰掛け、彼女達はその後に俺の隣に座るという徹底ぶり。


「べ、別に堂々としてるし。緊張とか全然してないからな!」

「ふふ、強がってるハルはかわええなぁ。」

「うむ、虐めたくなるのお。」


 ヨギリとアマネがにやにやしながら俺を揶揄ってくる。


「さて、ハルさん。私達は仕事の時の口調にしますわ。貴方はそのままでお願いしますね。一応支配人ですので。」

「そうでありんすね。でもわっちらのこの口調、久々でござりんせんか?」

「お主らはな。じゃがわらわも一応ハルさんと呼ぶかの。」


 おお、なんかアマネにそう呼ばれるのは新鮮だ。それに確かに彼女達のその口調も久々に聞いた気がする。


「コハルさん、俺も仕事モードの方がよくないですか?」

「うわぁ・・・ちょ、ちょっとやめてよね。鳥肌が立ったじゃない・・・」

「酷くね?あと口調戻ってるぞ?」

「こ、こほん・・・気持ち悪くて素が出てしまいました。すいません。とりあえず商会長に対する態度は仕事モードの方でお願いしますわ。でも私達にはいつものままのハルさんの方が自然ですし、支配人ぽくて良いと思います。」


 言いたい事はわかる。わかるし、その通りにするけど、酷い。大体気持ち悪いとか鳥肌が立つとかなんなんだ。営業職で培ってきた俺のテクニックは一級品なんだぞ。


とくと見ろ。


「ヨギリさん!今日もとても綺麗ですね!」


 ――ニコッ!


 営業トークからの全力の営業スマイル。完璧だ。


「ブフォ・・・!」


 ヨギリが紅茶を豪快に噴出した。


「・・・ケホッ・・・ゴホ・・・な、ななにしてくれてんねん!そんな気色悪い笑顔向けてうちを殺す気か!!!」


 おかしい。


「ふ、ふふふふ・・・そ、それ私に絶対、ふふっ、やらないでよね・・・!」

「くくくっ・・・わらわにも、くく、やるんじゃ、くくっ、ないぞ・・・!」


 アマネとコハルが必死に笑いを堪えている。肩に乗っているユイカの蛇も何か小刻みに震えている気がする。まさかあいつらまで笑っているんじゃないだろうな・・・


 しかしまさかここまで評判が悪いとは・・・別に全然悲しくなんてないからな。拗ねてなんかないぞ。本当だ。


「わ、わかったよ。アマネ達には普通にしてればいいんだろ・・・」

「そ、そうしてくれると・・・コホッ・・・助かるでありんす・・・」

 

 うん、ヨギリ・・・本当にごめん。俺はヨギリの背中をさすってやる。


 ――コンコン


「失礼いたします。」


 アマネ達といつものような茶番劇を繰り広げていたら、応接室の扉がノックされ、先程の執事が戻ってきた。


 いよいよか。支配人としての初仕事、頑張ろう。

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