サクヤ
アマネ達と騒いでいたら、いつの間にか夕飯が出来ていたらしく、ユイカが「ご飯です」と呼びに来てくれた。俺達は1階の待合室へ向かい、ユイカ達が作ってくれた「美味しい」夕飯を楽しむ。最高に「美味しい」ご飯を食べる。
「ところで・・・このカチューシャなんだが・・・」
料理を絶賛しつつ、サクヤ達に着けてくれと頼む。この流れならいける。ヨギリは獣耳カチューシャを着けてくれなかったが、サクヤ達ならきっと着くてくれるはずだ。
「「「「絶対イヤです。」」」」
だが速攻で一蹴された。さらには「バカなんですか?」と白い目で見られた。
悲しい。もうあまりに悲しかったので、自分にキツネ耳カチューシャを装備してやった。そしたら何故かそれが可愛いとサクヤ達に大好評だった。納得いかない。
(まさかあんなに似合うなんて・・・)
(なにあれ・・・!可愛いんですけど・・・!)
(あり・・・ですね。ありです。)
(ハルさん、可愛い!)
サクヤ達がひそひそ話しながらこっちをジーっと見てくる。
うん、全部聞こえてるから。内緒話するならもっと小声でしてくれ。
「可愛くないから・・・ところでヒスイは?」
「いえ、可愛いです。ヒスイさんはお昼頃にどこかへ出かけましたよ。」
サクヤが教えてくれた。ただカチューシャ評価については納得いかない。
「可愛いならサクヤも・・・」
「それはイヤです。」
食い気味に拒否された。やっぱり自分で着けるのはNGらしい。残念だ。
しかしシミールから帰って来てからヒスイを見てなかったのは、どこかに出掛けたからだったのか。とういかどこへ行ったんだ、あのポンコツドラゴン。
「んー?呼んだー?」
ヒスイの声がしたので、待合室を見回す。すると玄関からヒスイがひょこっと顔を出している。絶妙なタイミングで帰ってきたな。
「おかえり、ヒスイ。どこ行ってたの?」
「ただいま。暇だったからお散歩よ。飛びながらうとうとしてたら浮遊島の1つにぶつかっちゃった。酷い目に遭ったわよ。」
居眠り運転ならぬ居眠り飛行だ。しかしよく飛びながら昼寝なんて出来るものだ。しかも事故のレベルがおかしい。ぶつかるのが島なのか。
「だ、大丈夫なのか・・・?」
「当たり前じゃない。怪我一つないわ。」
「お前の心配はしてない!島の方だよ!」
「はぁ!?島は粉々になったわよ!!!文句ある!?」
あるわ。お前の不注意でこの美しい浮遊島が1つ消えたんだぞ。何してんだ。
「気をつけろよ・・・ここはお前の大事な住処だろうが。」
「うっ・・・わ、わかってるわよ!」
一応罪悪感はあるらしい。しかしさすが竜族。災害の規模が凄い。天災と呼ばれるだけはあるな。理由はなんともヒスイらしいが。
「それでハル、あんたその耳どうしたのよ。狐人族だったの?」
あ、忘れてた。ずっとキツネ耳カチューシャ着けたままだったわ。
「へぇ・・・よくできてるわね・・・」
ヒスイがカチューシャに惹かれて近づいて来た。これはチャンスと言わんばかりに、俺は素早く予備のキツネ耳カチューシャを取り出し、ヒスイに装着してやる。
はい、可愛い。やはり美少女にはキツネ耳が最高に似合う。
「これでヒスイも狐人族だ。どうだ、嬉しいだろ。」
「な、なにすんのよ!?私は誇り高き竜族よ!尻尾を振るくらいしか能がない狐なんかになりたくないわよ!!!」
今お前は言ってはならん事を言った。どうなってもしらんぞ。
「こ、このトカゲ!!!今すぐしばきましたる!!!覚悟しいや!!!」
「ええ、狐人族を馬鹿にしたらどうなるか教えてあげましょう。」
ほらみろ、言わんこっちゃない。ヨギリとサクヤが怒るだろ。
「ひぃいいいいいいい!ハルううううう!!!」
「サクヤ、俺のドラゴンステーキはミディアムレアで頼む。」
「はい、わかりました。頑張って捌きますね。」
「な、なんでよ!?助けなさいよおおおお!!!」
「ヒスイ、ギルティ。」
それに俺も怒っている。狐を馬鹿にするのは許さん。
「助けて欲しかったらよく覚えておけ。狐は尻尾を振ってるだけで素晴らしいんだ。むしろそれこそが存在価値だ。」
「ハルさんも捌かれたいんですね。そうなんですね。踏みますよ?」
サクヤが軽蔑の目を浮かべながら物騒な事を言ってきた。でも踏むのはやめて欲しい。サクヤにそんな冷たい目を向けられながら踏まれたら、変な性癖に目覚めそうだ。俺はノーマルでいたいんだ。後ヨギリもさりげなく俺の背後に立つのはやめて。何か怖い。
「「ごめんなさい。」」
俺とヒスイは素直に謝っておく。
とりあえず夕食はそんな感じでいつも通り「和やか」に進み、その日は適宜解散になった。俺もさっさと自分の部屋へ戻る。そしてサクヤ達が全員部屋に戻るのを待ち、俺は誰にも気づかれないよう忍び足で彼女達の部屋へと向かう。勿論今日シミールで買ってきたプレゼントを渡す為だ。
「よしよし、最後はサクヤだな。」
俺はユイカ達の部屋を回り、1人1人にプレゼントを配った。サラやセーラは大はしゃぎし、マシロやユリは嬉しそうに微笑み・・・とプレゼントを受け取った反応は様々だったが、みんな喜んでくれていた。
ただどの嬢も、俺が部屋に行くと「夜這いですか?」とことごとく聞いてきた。何故そうなる。まあ明らかに目が笑っていたし、揶揄われてたのはわかるが、何か納得いかない。俺は普段どんな目で彼女達に見られているのだろうか。
――コンコン
どうせサクヤにも揶揄われるんだろうとか考えながら、俺は彼女の部屋の扉をノックする。するとすぐに扉が開き、サクヤが出て来た。
「はい・・・あら、ハルさん?どうしたんです?」
「ちょっとサクヤに用事があって。入っていい?」
「え、あ、はい。い、いいですけど・・・」
驚いた様子のサクヤだったが、すぐに部屋に招き入れてくれた。
サクヤの部屋は非常にシンプルで、ベッドとテーブル、そしてソファーが置いてあるだけだ。元貴族の屋敷だから家具は豪華だが、部屋自体はさほど大きくない。
この屋敷で特別な部屋を持っているのはアマネ、コハル、ヨギリだけ。ただそうは言ってもサクヤは胡蝶で4位の人気を誇る嬢だ。そしてユイカ達のまとめ役でもある。だから俺としてはもう少しいい部屋、いい待遇を与えるべきだと思ってしまうのは当然の事だろう。
実際アマネにそう打診した事もある。ただサクヤは「特別扱いはいりません」と遠慮した。まとめ役になってるのは偶々で、部屋も今ので十分だし、広すぎても逆に困ると言っていた。
いつも控えめで、誰に対しても丁寧、そして慎み深い性格のサクヤ。きっとサクヤが皆に慕われ、頼られるのは、彼女がこういう性格だからだろう。かくいう俺もサクヤを信頼し、何かあるといつも彼女を頼っている。アマネ達は凄いが、サクヤは別の意味で凄い。俺が最も尊敬している嬢の1人だ。
「そういや少し部屋変わったよな?」
「ふふ、気付きました?最近ここにずっと住んでるからですよ。私物を部屋に置くようになったので、そのせいだと思います。」
言われて納得した。確かに浮遊島に来てからサクヤはずっとここに住んでいる。生活感が出てくるのは当たり前だ。他の嬢の部屋にも少し違和感があったのはそう言う事なのだろう。
「それにこれからはここに住むんですよね?だったらせっかくなので自分好みの部屋にしようと思いまして。」
俺がアマネに提案した案が採用されたので、もうこの屋敷を娼館として運用する事はない。今までは客を入れるから私物は置かなかったと言っていた。だがもうそれを気にする必要はない。つまり部屋を自分のプライベート空間に出来る。
「そうだな、どんな部屋になるか楽しみだ。出来たら見に来ていいか?」
「はい、いつでもどうぞ。お待ちしてますね?」
ふふふと楽しそうに笑うサクヤ。
「とりあえず座ってください。せっかく来てくれたんですからお茶を淹れます。」
「ああ、ありがとう。しかしサクヤの普段着にもやっと慣れてきたよ。」
ソファーに腰を下ろし、お茶を淹れてくれているサクヤの後ろ姿を眺めながらそう呟く。
サクヤは太ももにかかるくらいの大きめの白いシャツを着ていた。そしてシャツの裾からは艶めかしい生足がすらりと見えていて、ついつい目がいってしまう。なんというか程より色香がある。まさに魅惑のお姉さんと言った感じだ。
「し、下はショートパンツか何か履いてるんだよな?」
「ふふ、気になるんですか?」
一見するとシャツしか着ていないように見えるので、色んな妄想が働いてしまう。だが俺だって男だ。そういう考えをしてしまうのは至って健全な事だろう。
「でもこれは普段着というより部屋着ですけどね。」
サクヤはそう言いながらシャツの裾を少し摘まんで持ち上げる。見え・・・なかった。残念。
しかしサクヤは部屋着と言うが、彼女は浮遊島にきてからずっとその格好だ。最初はそれはもう目のやり場に困った。というかサクヤだけではない。ユイカ達もだ。どうして女性の普段着というか部屋着はこうも絶妙にエロいのだろう。しかも彼女達は俺を男として見てないのか、仕草や動作がやたら無防備で、色々と見えそうになっている事が多い。数日間必死に煩悩に耐え続けた俺を褒めて欲しい。
それに俺は今まで娼婦をしているサクヤ達の姿しか見た事がなかった。だからこそ余計にそう感じるのかもしれない。もちろん娼婦の衣装はそれはそれで色気があり、とても扇情的だったのだが、こういった部屋着にもまた違った魅力がある。
って俺は何を真面目に考察しているんだ。
「ふふ、最近はましになりましたけど、ハルさんずっと私の足を見てましたもんね?尻尾だけでなく足も好きなんですか?」
「な、何故それを・・・」
「むしろ何故バレてないと思ってるんですか。」
呆れた表情を浮かべるサクヤ。
「し、仕方ないだろ!そんな格好のサクヤ初めてだし!大体そんな格好をしてる方が悪い!シャツの裾から見えるサクヤの太ももはエロいんだ!はさまれたい!胸元もボタンを微妙に空けやがって!胸もエロい!はさまれたい!」
「は、はさまれたいんですか・・・?」
サクヤがドン引きしている気がするが、もうやけくそだ。全部言ってやれ。
「その綺麗な金髪にしてもそうだ!いつも軽く結って後ろに流してるだけなのに、今みたいにアップにしてるのは新鮮で可愛い!うなじがエロい!娼婦の時は派手で色香があるお姉さんのくせに、なんだそれは!今は可愛い!エロくて可愛い!何よりその尻尾だ!シャツの裾から生えているモフモフな尻尾!エロ可愛い!!!」
ふう、満足した。いつも悶々と見ているだけだったから言えて満足だ。
「わ、わかりましたからもうやめてください!恥ずかしいので・・・!!!」
ドン引きされるかと思いきや、サクヤは顔を真っ赤にしてもじもじしている。
「その仕草も可愛い。」
「だ、だからやめて!も、もう!!」
うん、これ以上やると部屋から追い出されそうだ。黙るとしよう。
「・・・」
俺とサクヤの間に気まずい空気が流れる。
「・・・」
気まずい。
早くお茶入らないかな。
「お、お待たせしました。紅茶をその・・・どうぞ・・・」
「う、うん、ありがとう。」
サクヤは紅茶が入ったカップを俺の前に置き、隣に座る。いつもはそのまま足を組んだりして、生足を見せつけるようにしてくるのだが、今日はひざ掛けをして隠してしまった。どうやらさっきの恥ずかしさがまだ残っているらしい。
「そ、それで・・・どういったご用で・・・」
「ん、夜這い。」
「・・・え?えぇ!?ちょ、ちょっとそいういうのは困ります!!!嫌・・・ではないですけど、な、なななんていうかその・・・!」
あれ、思ってた反応と違う。ユイカ達は「あらあら、夜這いですか?困った弟ですね?」と揶揄ってきた。サクヤもきっとそういう反応をするだろうと思い言ってみただけなのに、そんなに慌てるとは思わなかった。さっきよりも顔が赤いぞ、サクヤ。尻尾もバタバタと忙しなく動いてる。何ていうか・・・ヨギリを見てるような感じだ。
「あ、うん、ごめん。ユイカ達の部屋に行ったら夜這いとか言われたから言ってみただけで・・・じょ、冗談なんだけど・・・?」
「・・・」
「ご、ごめん。」
怖いから。そんな冷たい目で俺を見ないで。
「で・・・ハルさんはなんのご用件でいらしたんでしょうか。」
サクヤの言葉遣いがさっきより丁寧になっている。
「え、えっと・・・これ・・・サクヤに。」
ちょっと空気が凍ってしまったが、俺はプレゼントを取り出し、サクヤに渡す。
彼女へのプレゼンとはヨギリと同じ櫛とブラシ。デザインは少し違うが、やっぱりサクヤにはこれしかないと思った。
「あ・・・えっと・・・もしかしてプ、プレゼントですか?」
「お、おう。サクヤ、いつもありがとな。」
「え、いえ・・・あの・・・こ、こちらこそです。」
プレゼントを受け取った途端、サクヤの雰囲気が急に柔らかくなった。さっきまでもの凄い怒気を纏っていたのに、一瞬でふわっと消えた。今はもうどこか嬉しそうに微笑みながら、大事そうに櫛やブラシを眺めている。
「こっちのキツネ耳カチューシャも・・・」
「あ、それは絶対いりません。」
真顔で断られた。そうか、そんなにいらないのか。
この流れなら行けると思ったのに。
「まったく・・・そんな偽物いらないでしょう?本物、触らせてあげますから。」
「いいのか!」
「その為の櫛なんでしょう?ほら、早く梳かしてください。」
そう言って尻尾を俺の膝の上に乗せてくれた。
「もふもふ・・・!」
やっぱりサクヤの尻尾はいつ見ても、いつ触っても、最高にモフモフだ。俺は顔を埋めるようにして尻尾をおもいっきり抱きしめる。
「きゃっ!こ、こら!梳かしてくださいって言ったんですよ!」
「スーハースーハー・・・」
「な、なにおもいっきり匂い嗅いでるんですか!!!ハルさん!!!」
「梳かす前に堪能しておこうかと。サクヤの匂いって落ち着くよね。」
「し、知りません!」
尻尾でビシっと俺の顔を叩いてくるサクヤ。
仕方ない、尻尾を取り上げられる前にちゃんと梳かすとしよう。
――サッサッ
「大体ですね、ハルさんはなんでそんな変態なんですか?さっきもヨギリ姐さんに抱き着いて匂いがどうこう言ってましたよね?最近のハルさんは欲望に忠実過ぎます。少しは自重しなさい。こら、聞いてますか?」
何故かサクヤの説教が始まった。もしかして尻尾を梳かしてる間、ずっと言い続けるつもりなのだろうか。
――サッサッ
「そもそも尻尾尻尾って、それしかないんですか。前までのハルさんは仕事に真面目で、常に紳士だったのに、どうしてこうなっちゃったんですか。お姉さんとして私は心配です。弟が変態だなんて非常に悲しいです。」
サクヤの説教が止まらない。やはり言い続ける気のようだ。だが心なしか嬉しそうにしているし、尻尾もリズムよく小刻みに揺れている。どうやら機嫌は良いらしい。
まあサクヤの好きにさせよう。俺も尻尾を梳かせて貰えてるし、楽しい。別にこのままでもいいや。
* * *
「まったく、ハルさんは・・・って、何してるんですか?尻尾をちゃんと梳かしてください。ハルさん、聞いてますか?ハルさん?」
さっきからハルの反応がない。一体どうしたのでしょう。私がありがたいお話をしているのだからちゃんと聞いて欲しいのだけれど。
「あ・・・寝ちゃったんですか。」
私が振り返るとハルさんはソファーでスヤスヤと寝ていました。大事そうに私の尻尾を抱きかかえながら。
「もう、仕方ないですね。・・・ですがこれ、どうしましょう。起こした方がいいとは思うんですが・・・」
ハルは1回寝ると中々起きない。それにどうするかの答えなんて最初から私の中で決まっている。ただそれを口にするのはちょっと恥ずかしい。
私はチラっと自分のベッドを見る。
「ま、まあ寝てるのを起こすのは可哀そうなので仕方ないですね。尻尾を離してくれませんし、仕方ないです。そう、仕方ないんです。大体弟と一緒に寝るだけですから?別に普通の事ですよ。弟と寝るのに何も緊張する事はありません。」
私は自分に言い訳するように理由を口にする。
そしてハルをそっとベッドへ運び、自分もその隣に横になる。
「えへへ、添い寝ですね・・・ハルさんやっぱり可愛い。」
愛おしそうに私の尻尾抱きしめるハル。私もそっと彼を抱きしめる。
今日はいい夢が見れそうです。おやすみなさい。




