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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第二章 新天地編
86/106

相談

「酔わない・・・!転移酔いがないぞ!!!」


 シミール王国から引き揚げる際、ヨギリに抱き着いて転移してみたところ、全く酔わなかった。あの転移酔いの気持ち悪さは異常なので、これは嬉しい発見だ。まあ抱き着こうとしたら、ヨギリが「あかん!今日はいっぱい汗かいたからあかん!」と必死に抵抗してきたのだが・・・無視して抱き着いた。ヨギリは半泣きだった。


「ヨギリの匂い最高です。」

「何でそんなこと言うん!?あほ!!!っていうかはよ離してよ!」


 転移後も俺が中々ヨギリを離さなかったので怒られた。


「しかし何故ヨギリはこうもいい匂いがするのだろう。」

「だ、だから何でそんなこと言うんよ!?このアホ!!!」


 ――ドカッ!!!


 顔を真っ赤にしたヨギリにおもいっきり蹴飛ばされた。


 ちょっと調子に乗り過ぎたか。






 ヨギリによる俺への暴力事件はあったが、ひとまず無事シミール王国から帰還した。そしていつも通りサクヤ達が「おかえりなさい」と出迎えてくれた。引き攣った笑みを浮かべていたのは気のせいではないだろう。

 

 丁度全員揃っていたのですぐにプレゼントを渡そうと思ったのだが、ヨギリと阿保みたいなやりとりをして恥ずかしかったのでやめた。雰囲気が微妙だったしな。


 とりあえず俺は軽く挨拶だけして、すぐに自室に向かった。1階の待合室でサクヤ達とだらだらしてもよかったのだが、あそこにいたら間違いなくアマネ達がプレゼントを寄越せと騒ぎ出すのは目に見えている。


「んー・・・いつ渡すかな。夕飯後でいいか?」


 シミールの下見は大分早く終わったので、時刻はまだ夕方前。


 ちなみに今日の夕飯はユイカとユリが作ってくれるらしい。ただ浮遊島に来てからずっとサクヤ達が料理してくれているのが申し訳ない。俺もやるべきかと思い、一応料理番として手を挙げたのだが、「私達がやりたいので気にしないでください」と断られた。手伝いも駄目と言われた。


 そう言う訳なので、夕飯までやる事がない。


「ハルー!遊びにきたで!」

「私もいるわよ!」

「わらわも来てやったぞ!」


 アマネ達が部屋に雪崩れ込んできた。


 出てけ。あと入る前にノックくらいはしろ。


「帰れ。」

「なんでじゃ!!!」


 どうせこいつらはプレゼントを催促しに来たのだろう。せっかく昼寝でもしようかと思っていたのに。


「まあいいや。ちょっと相談もあったし。」

「相談・・・?どうしたのじゃ?」

「とりあえず座りなよ。紅茶淹れるから。」


 アマネ達を部屋へ招き入れ、ソファーに座らせる。


「ええよ、ハルは座っとき。紅茶はうちがやる。」


 最近俺の部屋で紅茶を淹れるのはヨギリの仕事になっている。というより俺がやろうとしても、自分がやるからとやらせてくれない。まあ自分で淹れるより、ヨギリのような美女に淹れてもらった方が遥かに美味しいのでなんの文句もないのだが。


「それで相談とはなんなのじゃ?」


 紅茶が入るまで待てないのか、アマネが早く話せと急かしてくる。


「うん、胡蝶の事なんだけどさ・・・」


 俺は対面のソファーに腰掛けながら、考えていた事をアマネ達に伝える。


「レガス帝国とシミール王国を見たけど、やっぱり国ごとに建物の雰囲気って結構違うよね。だからこの屋敷を転移で持って行くのは止めたほうがいいんじゃないか?新しく娼館を買った方がいいと思うんだよね。」

「ほう・・・?」

「そもそもアマネ達が娼婦をやってる目的はお金だよね。莫大な資金がいるんだろ?ちなみにあと何年くらいやれば目標金額に届くんだ?」


 さすがにそれには何となく気がついていた。むしろ娼館で荒稼ぎしているのだから分からない方がおかしい。まあ何に使うのかまではまだ知らないが。


「そうじゃの・・・あと数か月くらいじゃと思うぞ。」


 最近のアマネは変に誤魔化したり隠そうとしたりしない。聞けばちゃんと教えてくれる。だから今回も直球で質問をぶつけてみたのだが、やはりすんなりと答えてくれた。きっと彼女の目標とやらをもうすぐ教えてくれる気だからだろう。


「胡蝶の稼ぎなら屋敷を調達するのはそんなに難しい事じゃない。1ヶ月分の利益で十分足りる。」


 この屋敷を他国に持って行ったら間違いなく周囲から浮く。余計なトラブルの引き金になる可能性がある。それならそんなリスクを取るより、胡蝶の営業を1ヶ月伸ばして、新たな屋敷を調達する方がいい。


「それにアマネの目標金額って正しいのか?本当にそれ以上はいらないのか?」

「そ、そう言われると・・・いらないとは言えんが・・・」 

「ならあと数か月とか言わず、1~2年くらいはやって、ある程度余裕を見ておいた方がいいんじゃないかな?まあアマネ達にもっと娼婦をやれなんて言いたくないけんだけどさ・・・」

 

 アマネ達が好き好んでこの仕事をしているとは思わない。思った事もない。常に最高の娼婦を演じてはいるが、それは彼女達に目的があるからだ。だからそんなアマネ達にさらに1年娼婦をやれなんて正直言いたくはなかった。


「ごめん。」

「ハルさんが謝る事なんてないわ。」


 コハルが気にするなと優しく微笑む。


「ほら、紅茶入ったで。冷めんうちに飲んでな?」

「ありがとう。・・・うん、やっぱりヨギリの淹れる紅茶が一番美味い。」


 俺は紅茶を一口啜り、そう呟く。ヨギリが淹れてくれる紅茶は火傷しないようにといつも程よく冷ましてある。そういう細やかな心遣いがあるから、自分で淹れるより余計に美味しく感じるのだろう。


「話を戻すけど、胡蝶はこれからも続けて行った方がいいと思う。安定した資金供給源になるしね。ただアマネ達がずっと娼婦をする必要はない。目標金額に届いたら、サクヤ達も含め、全員で娼婦を辞めて、必要な事をすればいい。その頃には胡蝶で働きたいと言ってくる娼婦もいるだろう。その子らと入れ替えだ。アマネ達がいなくなれば利益は減るだろうけど、それでも資金集めは出来る。」


 アマネ達は稼ぎのほとんどをその目的とやらにまわしているので、もし一般的な嬢を雇うとなったら利益は大幅に減る。嬢の取り分も増やさなければならないし、筆頭の稼ぎ頭であるアマネ、ヨギリ、コハルがいなくなるからだ。だがどんな形であれ、胡蝶を運営していければ、いい資金供給源になる。


「ハルは・・・どうするのじゃ?」

「俺は支配人なんだろ?これまで通りアマネ達を裏から支えられたらいいなと思うよ。駄目か?」

「だ、駄目ではないが・・・」


 アマネ達がいなくなるのに、娼館の支配人を続けるのに抵抗がないと言えば嘘になる。だが別に彼女達と会えなくなるわけではないだろう。


 なら俺は俺の仕事をするればいい。


「それで話を大分戻すが、この屋敷は浮遊島に残しておくのはどうだろうか。そしてここを拠点にする。ノーテファル王国ではみんなバラバラに部屋を借りて暮らしてたと思うけど、それをここにする。部屋も全員分あるしな。」


 そうすれば俺を毎日護衛する必要もない。みんなで出勤し、みんなで帰ってくればいいだけだ。もう彼女達は家族のような存在だし、1つ屋根の下、みんなと生活を共に出来れば俺としては嬉しい。


 それに胡蝶は元々貴族が使っていた屋敷だったので、生活できる環境が完璧に整っている。1階にはエントランスホール、応接室、キッチン、大浴場、ダイニングルーム、そして広いリビング。まあ実際は娼館として使っていたので、エントランス、リビング、応接室は改造して、1つのリビングと言う名の待合室に今はなっているが。


 そして2階と3階にはサクヤ達の個室がある。4階はアマネとヨギリ。5階は俺とアマネ。それらは元々客間や主寝室として使われていた部屋らしく、どの部屋も豪華で立派な家具がおいてある。


 つまり何が言いたいかというと、この屋敷は最高に快適だ。待合室は嬢達全員が集まっても何不自由なく団欒できるくらいに広くてとても過ごしやすい。俺達がよく待合室でだらだらしてるのはそれが理由だ。あと風呂も広いし、キッチンも豪華。個室のソファーやベッドもふかふか。


「この屋敷は最高だからな。あとは可愛いメイドさんがいたら最高なんだけど・・・すいません、何でもないです。」


 メイドという単語を言った瞬間、アマネ達にもの凄い形相で睨まれた。

 

「ま、まあ、俺だけ転移魔法が使えないから、毎回送迎で迷惑をかける事にはなるとは思うんだけど、俺はこの屋敷を気に入っているし、悪くない案だと思うんだが・・・どうだろう。」


 言いたい事は大体言えた。後はアマネ達がこれをどう思うかだ。


 俺はティーカップに残っていた紅茶を飲みながら、彼女達の返事を静かに待つ。


「それでいいんじゃないかしら?」

「せやね。ハルが支配人を続けるかどうかはおいといて、それでええわ。」

「うむ、全体的には問題ないの。決定じゃな。」


 ・・・え?もっと色々言われるかと思ったのに、俺の意見があっさり採用されてしまった。


「いやいや、そんな簡単に・・・」

「私達は『支配人』に従うだけだもの。」

 

 コハルが揶揄うような笑顔を向けてくる。


「支配人が思てるより、うちらは支配人の事、信用してんねんで?」

「うむ、支配人が決めたんならそれでいいんじゃ。」


 ヨギリとアマネもくすくすと笑いながらを見つめてくる。いつものように遊ばれている気がしないでもないが・・・どうやら冗談ではなさそうだ。彼女達は本気でそう言っている。


 素直に嬉しい。彼女達に信用されているというのは嬉しい。


「でもその支配人ってのはやめて・・・なんか体が痒くなるから・・・」

「ふふ、やっぱりハルはかわええなぁ。」

 

 なんかムカつく。こいつら俺で遊ぶ為だけに俺を支配人にしたのではと疑ってしまう。まあさすがにそれはないだろうが・・・


「じゃあサクヤ達にも・・・」


 ここにいる面子だけで決めていい事ではないだろう。サクヤ達にも聞いておくべきだと思い、俺はソファーを立とうとするが、アマネがそっと手を挙げてそれを制す。そしてゆっくりと俺の肩を指差した。


「あー・・・ユイカの蛇、まだいたのかー・・・」


 忘れてた。いつも忘れる。というかこの蛇、いつもいないか?






「とりあえず、相談乗ってくれてありがとな。」

「うむ!」


 これで一つ肩の荷が下りた気がする。まだまだやる事は沢山あるが、ちょっとホッとした。


「じゃあ俺の相談に乗ってくれたアマネ達には俺からプレゼントを・・・」

「やっとか!!」

「待ってたわ!!」

「なにくれるん?なにくれるん?」


 やはりこいつらはそれ目当てで俺の部屋に押しかけて来てたのか。


 まあいいけど。


「アマネ、出してくれ。頼まれてくれてありがとな。」

「うむ!まかせるのじゃ!」


 今日買ったプレゼントをアマネに取り出してもらう。俺は収納魔法を使えないからアマネに頼んだのだ。本当は俺が上手く隠して持ち帰れればよかったんだが、どう考えても無理だったので、サクヤ達に感づかれないようにする為、アマネにしまっておいてもらった。


「じゃあアマネからな。」

「なんじゃ!なにをくれるんじゃ!」


 そんな満面の笑みを浮かべないで欲しい。嬉しいけどプレッシャーだから。


「はい、これ。」

 

 アマネのプレゼントは薄紫色の髪留め。紫陽花のような花のデザインで、銀髪の彼女に似合うと思い、これを選んだ。アマネはいつも髪を後ろに流しているだけなので、偶には纏める姿も見たかった。


「あ、ありがとなのじゃ・・・うへへ・・・」


 よかった。気に入ってくれたようだ。顔が果てしなくだらしないが、それは見なかった事にしよう。


「じゃあ次、コハル。」

「ふふ、私は簡単には喜ばないわよ?」


 さっきまで目を見開いてテンション上がりまくってたくせに、何言ってんだ。今更そんなクールぶっても、ただの道化にしかみえない。まあコハルらしいが。


 そんなコハルには翠色の、蝶のような羽のような形をした髪飾り。桃色の髪には緑。そしてエルフと言えばやはり緑。安直な発想な気もするが、コハルにはこれがいいと直感で思った。


「ま、まあ悪くないわ!!!」


 口ではそういいつつも、髪飾りを大事そうに握りしめている。うん、喜んでくれたようだ。相変わらず素直じゃないが。


「・・・最後にヨギリ!お前のは特別だ!」

「と、特別なん?」

「ああ、店主のオススメだ!」

「ほんまに!?ハル、ありがとうな!」


 ヨギリはこういう時、意外に素直だ。


「うむ、これだ!受け取れ!」


 ヨギリには店主が面白いと言っていたあの商品を渡す。


 そう、犬耳カチューシャ。


「アホかああああああ!!!!」


 ヨギリが叫んだと同時に犬耳カチューシャが虚空に消えた。


「おい、てめえ!消滅魔法だろそれ!!!なにしてくれてるんだ!!!」

「うるさいわ!!!こんなもんいらんわ!!!」

「ならこれだ!・・・兎耳カチューシャ!」

「ふんっ!」


 また消しやがった。


「ヨギリ!お前また・・・!」

「うっさい!!!」


 これはもうあの最終兵器を出すしかなさそうだ。


「じゃあこれならいいだろ!ヨギリにピッタリ!キツネ耳カチュー・・・」

 

 ――ボッ!!!


 俺の大事なキツネ耳カチューシャが一瞬にして灰になった。


「だから何すんだ!炎魔法まで使いやがって!!狐だぞ!狐!!!」

「あんたアホなん!?うちには自前の狐耳がここについとるやろ!!!見えへんのか!なんでそんな偽物つけなあかんねん!!!」


 今にも噛みついて来そうな勢いで怒鳴るヨギリ。尻尾が完全に逆立っている。


「よし、とりあえずその逆立った尻尾をモフらせろ。」

「はあ!?なんでそうなるん!絶対いやや!!!」


 まあ・・・茶番はこれくらいにするか。本当のプレゼントを渡すとしよう。このカチューシャはそう、あくまで俺の趣味だ。


「はい、あげる。」


 木彫りの櫛と最高級ブラシ。尻尾の手入れ用だ。やっぱりヨギリへのプレゼントはこれ以外には考えられなかった。


「な、なんなんよ急に・・・」


 櫛とブラシを受け取り、急にしおらしくなるヨギリ。


「他のがいいか?」

「う、ううん。これがええ。・・・な、なあ、尻尾・・・梳かしてくれへん?」

「うん、いいよ。」


 その後30分くらいかけて、ヨギリの尻尾の手入れをさせてもらったヨギリもプレゼントに満足してくれたようだ。そして俺も大満足。


「・・・一応聞くんやけど・・・あのカチューシャもう無いよな?」

「当たり前だろ。店にある分、全部買ったわ。あと50個はあるぞ。」

「ハル!!!全部出し!!!今すぐ燃やしたるわ!!!」


 当然、出さなかった。

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