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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第二章 新天地編
85/106

シミール王国②

「アーネ、まだほとんど何も見てないけど・・・この国は無しで。」


 この暑さは無理だ。胡蝶を作るのにどれだけ最高の環境が揃っていたとしても、この灼熱という過酷な自然環境がある以上、この国はやめておいた方が無難だろう。


「そうじゃな・・・わらわも賛成じゃ・・・」


 暑さでアマネが完全にダウンしている。


「さすがのアーネでも無理か。」

「お主・・・わらわをなんじゃと思っておるんじゃ・・・」

「・・・超人無敵のロリババア。」

「ロ、ロリババア言うな!!!大体自然環境相手に勝てるわけないじゃろ!!!」


 さすがのアマネでも勝てないらしい。


「はぁ・・・はぁ・・・余計な体力使わすんでない・・・」


 叫んだ事がトドメになったらしい。完全にへたり込んでしまった。


「でも一応見てから決めた方がえんちゃう?」

 

 だがそう言うヨギリも完全に暑さにやられている。下を向いたまま喋っていて、顔を上げようともしない。

 

 「うぅ・・・でも着物が体に張り付いて気持ち悪いわぁ・・・」

 

 変装魔法を使っているから薄着に見えるヨギリだが、元々は着物のような服を着ていたはず。まあこの暑さでそんな服を着ていたらそうなるのも当然だろう。


「服装も顔色も普通に見えるのが凄いな。態度は隠せてないけど。」

「しゃあないやん・・・意地悪いわんといてや・・・」


 ヨギリが珍しく弱気だ。本当に暑いのは駄目らしい。


「やっぱりこの国は無しだよ。ヨル達がそんな状態だと仕事になんないだろ。」

「夜になったら気温も下がるし、少しはましやよ・・・」

「でも暑いのには変わりないだろ。汗だくの娼婦を抱きたいと思うか?」


 まあそれでもアマネ達なら客はつくだろう。だがそう言う事ではない。嬢達の方が先に滅入ってしまうかもしれないのが問題なのだ。


「客もきっと汗だくだぞ?事前に水浴びさせるとしてもすぐ汗だくになるんだぞ?そんな客相手にいつもどおりの態度でいられるのか?」


 それでもアマネ達ならある程度の演技はできるかもしれない。それに彼女達の美貌があれば、演技なんてなくても大丈夫だろう。だが嬢達がそれを精神的に受け入れられるかどうかは別だ。


「いやや・・・な、生々しい話せんといて・・・」

 

 顔を上げる気力すらなかったはずなのに、ヨギリが嫌そうな顔でこっちを見上げる。どうやら嫌さが暑さを上回ったらしい。


「ルコはどうだ?それでも平気か?」

「イヤよ。」


 コハルは喋る元気すらないのか、一言だけ呟いて、弱々しく首を横に振る。


「でしょ・・・じゃあ無しで。でもせっかく来たし、市場くらいは見ようか。」

「えー・・・帰りたいわ。もう私無理よ。」

「じゃあ3人はその辺の茶房かどこかで待っててよ。俺だけちょっと見てくる。この国なら1人で出歩いても大丈夫だろ?」


 普段なら間違いなく「一緒に行く!」とか言うだろう。だが3人は俺の提案に素直に頷くだけだった。完全にばてている。


 しかしこの世界には転移やら収納やら便利な魔法があるのだから、体温調整魔法とか言ったものはないのだろうか。


 あれ・・・あるのでは?


 ノーテファル王国で牢屋にぶち込まれていた時、俺は特に不快感を感じる事なく過ごしていた。暑くも寒くもなく、安眠できるくらい快適だったのを覚えている。あれはアマネ達の魔法だったのではないだろうか。


「ねえ・・・俺が冤罪で牢に入ってた時、もの凄く快適だったけど、あれ魔法だよね?その魔法でこの暑さどうにか出来ないの?」

「「「・・・!?」」」


 俺の言葉に3人が目をカッと見開く。


 この反応からして、どうやらそういう魔法はやはりあるらしい。


 そしてアマネ達がそれぞれ軽く腕を振る。すると周囲の気温がスーッと下がっていき、すぐに暑さを感じなくなった。牢屋に入っていあのた時と同じだ。アマネ達の誰かが俺にも魔法をかけてくれたらしい。


「暑さですっかり魔法の事忘れてたわ!!!」

「これでうちも無敵や!暑さなんてなんぼのもんや!!!」

「わらわは蘇ったのじゃ!!!」


 元気になったようで何より。でもなったらなったでうるさいな。あのままへばらせておいた方が平和だったかもしれない。


 ちょっと後悔した。


「元気になったらよかった。まあこの国はどのみち無しだけど。」


 例えアマネ達が魔法で暑さを凌げたとしても、客にまでこの魔法をかけるわけにもいかない。娼婦がそんな魔法を使う娼館なんて怪しすぎる。すぐ国に目を付けられるだろう。彼女達も俺と同じ考えらしく、特に反論される事はなかった。

 

「じゃあ市場を見てくるから、みんなは茶房で待ってて。」

「そんなんあかんに決まってるやろ!!!」

「わらわも一緒にいくぞ!!!」

「そうよ!おいてくなんて酷いわ!!!」


 うん、うるさい。やっぱりこいつらに魔法を思い出させるじゃなかった。






 ラマンの市場は転移した場所から割とすぐ近くにあった。歩いて数分くらいで到着した。そしてレガス帝国の帝都であるレガンハイムの時同様、やはり人通りは多い。ただレガンハイムと大きく違うのは、市場で売られていた物だ。


 食料品は果物や魚類が多く、野菜や肉類が少ない。やはり国の気候によって特産物も変わるということだろうか。


 あと帝国では見られなかった工芸品を扱うお店が、ラマンでは多く見受けられた。


「へぇ・・・工芸品が多いんだな。」

「この国はモノ作りに関しては大陸随一じゃからの。」


 そう教えてくれるのはアマネ。結局市場へは彼女達もついてきた。まあ案内役がいないとラマンの事は右も左もわからないので、アマネ達が復活したなら、おいてくる選択肢は正直なかった。


「こういうのは好きなんだよね。少し見ていいか?」

「うむ、かまわんぞ。」


 アマネから許可も貰えたので、俺は適当な店に入る。


「おお、色々あるな・・・」


 店内には木彫りの小物や硝子細工、皿や器、織物などが所狭しと陳列されており、商品の種類は多岐に渡っていた。木工、陶芸、染織・・・どれもこれも手作り感があって素晴らしい。


 そうだ、アマネ達に買うと約束したプレゼント、ここで選ぼう。女性が喜びそうな小物や雑貨も多いし、ここならきっと良い物が見つかる気がする。


「ユイカ、見てるよな?ちょっといいか?」


 俺は肩の蛇に向かって小声で囁く。


 せっかくプレゼントを買うのだから、何を買ったかは内緒にしておきたい。実際に蛇と視界を共有してるのはユイカだけ。そして彼女が視たものをサクヤ達に伝えているはずなので、ユイカに黙っていてさえ貰えば、みんなには内緒に出来るだろう。


「みんなへのプレゼントを選ぼうと思うんだけど、内緒にしてくれないか?サクヤ達には適当に市場を見て回ってるとか言っておいてほしい。」


 ――コクコク


 ユイカの蛇が小さく頷いた。これは了承してくれたと思っていいだろう。


「ありがとな、ユイカ。」

「・・・ハル?独り言?どしたん?」

「ああ、ユイカにちょっとね。プレゼント買うからサクヤ達には内緒にしておいて欲しいって言ってたんだ。」


 次の瞬間、ヨギリ達の目が鋭く光った・・・気がした。


「う、うちにもやんな!?」

「私は!私は!?」

「わらわのもか!!!」


 ええい、纏わりつくな、鬱陶しい。


「お前らのも買うから!落ち着け!」

「んー?うるさいわね、誰よ・・・ってお客さん?いらっしゃい。」


 店の奥から店主らしき女性が気怠そうに出て来た。


「うるさくてすいません。見せてもらっていいですか?」

「ええ、好きに見てってちょうだい。」


 店主はそのままカウンターの近くにあった椅子に腰かける。俺達が店内にいる以上、奥に引っ込むわけにもいかないのだろう。


「この辺は髪飾り、こっちはネックレスか・・・可愛いな。」


 女性向けのアクセサリーや小物がテーブルの上にずらりと並んでいる。俺は適当にその中から髪飾りを1つ手に取り、掲げるようにして確認する。


 うん、悪くない。作りもしっかりしているし、デザインも可愛い。


「あら、彼女へのプレゼントかい?」

「まあ・・・そんなところです。」

「へぇ。冴えない顔してるのにやるわね。3人も恋人がいるなんて。」


 何の事だ?あと冴えないは余計だ。


「そこのお嬢さんらはあなたの恋人なんでしょ?」


 店主が俺の後ろを指差す。ああ、アマネ達の事か。


 確かに女性をつれて買い物してたらそう思われても仕方ないか。それにこの世界は一夫多妻が普通だ。3人全員が恋人だと店主に勘違いされたのはそのせいだろう。


「いや、こいつらは違・・・」

「あんたようわかっとるな!」

「どおりでこの店のセンスがいいはずだわ!」

「うむ!褒めてつかわす!」


 なんでお前らはそんなに上から目線なんだ。


 しかしアマネ達が心なしか嬉しそうな気がする。何故だろう?もしかして恋人に間違われたのが嬉しかった?


 そうなるとアマネ達は俺の事が好きだったりするのか・・・?


 いや、まさか。いつも弟を見るような目で俺を見てくるし、さすがに気のせいだろう。アマネ達に限ってそんな事は・・・ないよな?


 一応聞いてみよう。


(なあ、お前らってもしかして俺の事が・・・)


 俺は店主に聞こえないよう、小声で囁く。


(はぁ!?な、なななんで私がハルさんの事なんか!)

(そ、そんなわけないやん!?なに言うてんの!!!)

(お、お、お主は自意識過剰じゃ!)


 違うらしい。しかしそこまで慌てて否定しなくてもいいだろう。


(じゃあ何で?恋人の振りしておいたほうが自然だから?)

(そ、そうよ!そういうことよ!)

(なんだ残念・・・)

(な、なんで残念なん?)

(そりゃ3人のような美人に好かれてたら誰だって嬉しいだろ?)


 前にも言ったと思うが、アマネ達のような女に告白されたら嬉しいに決まっている。彼女達は誰もが振り向くような美女だ。それに一緒にいて楽しい。あと落ち着く、安心できる。断る要素がどこにも見当たらない。


「ほんまに!?」

「そうなの!?」

「嘘じゃないんじゃな!?」


 アマネ達が一斉に叫ぶ。


「な、なに?急にどうしたの?」


 店主が驚いた顔でこちらを見ている。いきなり大声で騒ぎだしたらそんな反応になるのも当然だ。


「気にしないでください。騒がしくてすいません。」

「そうなのかい?ま、まあそれならいいんだけど。」


 さて、気を取り直してプレゼントを選ぶとしよう。


「お、これ可愛いな・・・」

「ハルさん、私はそれよりこっちの方が好きよ?」


「こっちの硝子細工も・・・」

「ハル、うちは白より赤がええわ。」


「このネックレスは・・・」

「わらわはネックレスは好かんのじゃ。」


 こいつらまじでうるさい。俺に選ばせる気ないだろう。そもそもなんでプレゼントを選んでるそばからケチをつけられなければならないのか。


「うるさい!黙ってろ!お前らのプレゼント、あそこの壺にするぞ!!!」

「なんでよ!?あんなんいらんわ!」

「じゃあ黙って見てろ!」


 俺がそう言うと、一瞬にして店の中がシーンとなった。そして「あの壺は絶対やだ」と首をブンブン振りながら無言で訴えてくる。


「あはははは、あんたら面白いね!見てるだけでなんか楽しいよ!」


 そんな俺達の様子をみて大笑いしている店主の女性。ほんと騒がしくて申し訳ない。身内の恥をさらしているみたいで滅茶苦茶恥ずかしい。


「楽しんで頂けて何よりです・・・。ところでここにあるガラス細工や木彫りのアクセサリーは全て一点物なんですか?」


 俺は白と赤色の硝子で作られた、兎の髪飾りを手に取りながら店主に尋ねる。


 可愛い。これはマシロに似合いそうだ。


「そうだね、この店にある物は全てあたいの手作りよ。気に入ってくれたのかい?」

「え、お姉さんの?しかもこれ全部・・?」


 それは凄い。一括りに工芸品と言っても、作るのに必要な技術はどれも違うはずだ。それなのに木工品、陶芸品、ガラス細工、織物・・・その全てをこの店主が作っているという事実に俺は驚いた。


「多才なんですね、本当に凄いです。」

「あら、ありがと。でもただの器用貧乏よ?」


 店主はそう言うが、この兎の髪飾りのディテールやクオリティは凄い。他の小物やアクセサリーにしてもそうだ。もしかしてシミール王国の工芸品はこれが標準的なレベルなのだろうか。


(ハル、この店主、かなりの腕前やで。)


 ヨギリがこっそり教えてくれた。どうやらこの店は当たりらしい。


 そうと分かったら、本気で選ぼう。ヒスイの分をいれて34個・・・いや、マシロのは決めたから33個か。先は長いな。


「なあ、アーネ達は外で待っててくれないか?」

「なんでじゃ!!!」

「せっかくだし、サプライズにしたいじゃん。」

「「「なるほど!!!」」」

 

 3人はもの凄く納得した表情で素直に店から出て行った。こういう時は聞き分けいいんだよな、あいつら。


「よし、じゃあ選ぶか・・・」


 サクヤにはこれ、サラやユリにはこっち・・・と俺は直感で皆に似合いそうな小物やアクセサリーを選んでいく。


「そ、そんなに買うのかい?私が言うのもなんだけど、安くないわよ?」

「あー・・・姉が多いんですよ。それにどれも良い物ですからね。」


 他の店も見るべきかとも思ったが、ここ以上の品に出会えるとも思えない。それならこの店に入った偶然に感謝しつつ、一期一会だと思ってここでプレゼントを全部買うのがいいだろう。


「あははは、あんたも大変ね。でも甲斐性がある男は悪くないと思うわよ。」


 これは一応褒められているのか?


 とりあえず一通り選び終わった。全部で34個。頑張って選んだので、サクヤ達が喜んでくれると嬉しいのだが。


「沢山買ってくれるし、少しは値引きしてあげるよ。」

「ありがとうございます。ところでオススメとか面白い商品はないですか?」

「んーそうね・・・どれも自信作だけど、面白い・・・といったら、これかな?」


 そう言って店主はおもむろにカウンターの後ろから木箱を取り出した。そんなところから出て来たと言う事は、店に並べてない特別な商品なのだろうか。


「面白いかなと思って作ったんだけど、全然売れなくてね。今じゃ不良在庫さ。」


 そんなもの見せるなよと思ったが、ちょっと気になる。一体どんな物が入っているのだろう。俺は店主が取り出した木箱の中を覗き込む。


「こ、これは!?」

「あははは、どうだい?面白いだろ?」


 確かに面白い。


 だが店主の言う通り、これは売れないだろう。


「でも俺としては面白いので買います。」

「ほんとかい!?」

「ええ、ください。」

「いやぁ出してみるもんだね。」

「おいくらですか?」


 全部で40金だった。大分おまけしてくれたらしいが、確かにこれは高い。髪飾りや小物類が1個1金近くすると考えると、かなり高級品の部類に入る。ちょっと無駄遣いしすぎかもしれないが、いつもお世話になっているアマネ達の為だと思えば安いものだ。


「満足満足。」

 

 俺はほくほく顔で店から出る。


 ただ店を出た瞬間、店の外で待ち構えていたアマネ達に囲まれ、何を買ったのか根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもないだろう。さすがに言わなかったが。

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